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15日にオランダ下院選挙 反移民・反EUの極右「自由党」は躍進するか?

 15日にオランダで行われる下院選挙では、反イスラム・反EUの姿勢を明確に打ち出した極右政党「自由党」の躍進に注目が集まっている。ヨーロッパでも指折りのリベラルな国として世界中に認識されてきたオランダだが、国内で膨らみ続けた社会に対する国民の不満は、今回の選挙にどのような影響を与えるのだろうか。

【写真】選挙が相次ぐ欧州で新たな火種か トルコ閣僚の政治集会参加を独蘭が阻止

独や仏での選挙にも影響を与える?

 これまでオランダの選挙における争点といえば、雇用や経済が中心であったが、今回の最大の争点は明らかにイスラム系住民との共存の是非を問うもの。国内の治安から雇用問題まで、様々な論点がイスラム系住民とリンクされているのが特徴だ。極右政党「自由党」のヘルト・ウィルダース党首は、ポピュリズム戦略を駆使した反イスラムキャンペーンを長きにわたって展開しており、年金などの社会保障や国内における雇用、テロの脅威といった問題に不安や不満を抱えていた有権者の支持を得た。

 自由党の支持率上昇に危機感を抱いたルッテ首相は1月23日、新聞一面に意見広告を掲載。イスラム系住民を名指しすることはなかったが、「自由を求めてオランダにやってきたにもかかわらず、我々の価値観を拒絶する者は、この国にとどまるべきではない」と、強いトーンでオランダ社会に馴染まない移民を批判した。これまでリベラル派として知られていたルッテ首相の意見広告は、ウィルダース支持者の切り崩しを狙ったものではないかという見方が強い。

 リベラルな国として知られるオランダだが、今回の下院選挙では自由党が最も多くの議席を獲得する可能性が高い。後述するが、政党が乱立するオランダでは自由党が下院の半数以上を制するのは極めて困難で、他政党も自由党との連立には消極なため、自由党主導による政権運営はないだろう。しかし、英議会で1議席しかなかったポピュリスト政党の英独立党がイギリスのEUからの離脱の引き金を引いたように、小さな政党であっても国を揺るがすムーブメントを起こしかねないのが現在のヨーロッパなのだ。

 今年のヨーロッパでは、4~5月にフランス大統領選が、9月にドイツ連邦議会選挙が行われる予定で、一連の選挙の試金石になるとみられている。

自由党ウィルダース党首とはどんな人物か?

 オランダ下院選挙における事実上の主役として注目が集まる、自由党のウィルダース党首は独特のヘアスタイルから現地では「モーツァルト」とうニックネームでも呼ばれているが、流暢な英語も話し、一見するとアムステルダムの金融街で働くビジネスマンのようだ。

 19年前には自由民主国民党から国会議員に当選。しかし、トルコのEU加盟の可能性に好意的な見方をしていた党の方針に反対し、しばらくの間は独立系議員として活動を行い、2006年に自由党を結党した。政策として掲げたものは、反イスラムと反EUの2点で、オランダ国内のイスラム学校の閉鎖やコーランの販売禁止、イスラム系移民の受け入れ禁止を訴え、オランダのEUからの離脱、風力発電事業や海外への経済支援を減らす代わりに軍事費を増やすべきだと主張している。

 極右のウィルダース党首を支持する有権者が少なくない一方で、右傾化が懸念される現在のオランダ社会に対するアンチテーゼとして若者を中心に支持率を着実に伸ばしている政党が、グロエンリンクス(緑の党)だ。

 1989年に4つの左派政党が合併して作られたグロエンリンクスは、2015年に若手下院議員のジェシー・クラーベル氏が党首に就任。1985年生まれのクラーベル氏は25歳で下院議員に当選し、30歳で党首に就任という異例のスピード出世だ。モロッコにルーツを持つ父親と、オランダとインドネシアにルーツを持つ母親との間に生まれたクラーベル氏は、多文化主義のオランダを象徴するような存在で、カナダのトルドー首相に似たルックスにも人気が集まっている。EU賛成派で、移民の受け入れにも積極的なグロエンリンクスは、多文化に寛容なスタンスをとっており、大都市や学生街では人気を維持している。

議席増でもウィルダース氏の政権関与は不可能か

 選挙直前の11日にロッテルダムで予定されていた、トルコ人らによる改憲支持集会に参加しようとしたトルコ外相は空路での入国が認められず、陸路でオランダ入りした家族・社会担当大臣は、領事館の入り口前でオランダ警察に制止され、警察の護衛でオランダを強制的に出国させられた。

 この一件は、かねてから西ヨーロッパ諸国に対して批判的な言動を繰り返してきたトルコのエルドアン大統領を激怒させ、オランダやドイツ政府を「ナチスの残党」と呼ぶ暴挙に出ている。このタイミングでエルドアン大統領がオランダを声高に非難することで、皮肉な話ではあるが、オランダ国内における右派勢力の支持率は上昇した。13日にオランダ国内で行われた最新の世論調査によると、ウィルダース党首率いる自由党(現在12議席)と、ルッテ首相が所属する中道右派の自由民主国民党(同40議席)の予想獲得議席数がそれぞれ数席ずつ増える可能性が生じている。しかし、自由民主国民党は最大でも30議席程度しか獲得できないとの予測が根強く、数議席増えたとしても、議席数の激減は必至だ。

 現時点で自由党の予想獲得議席数は25程度とされており、この数字が実現しただけでも、自由党にとっては大躍進となる。しかしオランダの下院の定数は150。アメリカのような二大政党制が存在しないオランダでは、いくつもの政党が乱立しており(今回の下院選に候補者を擁立した政党は28におよぶ)、今回の下院選挙でも30以上の議席を確保できる政党は出てこない見通しが強い。

 小さな国土に様々なバックグラウンドを持つ人たちが暮らすオランダでは、議会の過半数を掌握できる政党が存在しないため、連立政権の組み方が、政策の実行においても大きなキーとなる。自由民主国民党や他の政党の多くは、政治的な考えの相違を理由に、自由党との連立はありえないとすでに公言している。投票直前に行われた連立政権に関する地元での予想によれば、ルッテ首相率いる自由民主国民党は左派政党として知られる緑の党を含む3つの政党と連立を構成する可能性が高く、その場合の下院における議席数は80近くにまで達する見込みだ。

 自由党が最大の野党勢力となる見通しが高まってきたが、昨年のアメリカ大統領選挙のように、15日のオランダ下院選挙でも大きなサプライズは生まれるのだろうか。

■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト(http://hirofuminakano.com/)

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