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サイバー防衛貧弱国、日本の新たな急所に米国警戒 世界の常識が通用しない日本 - 児玉 博(ジャーナリスト)

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 コードナンバー〝APT28〟と識別され、サイバー、その世界で〝FANCY BEAR〟と呼ばれるのがロシアのハッカー集団。

 今回筆者が入手した資料には、こんな記録が残されている。

米大統領選挙の最中にロシアのハッカー集団がヒラリー・クリントンを支える民主党全国委員会をハッキングした痕跡

 「DNC HACK」
 一般には聞き慣れないが、ここで記されている〝DNC〟とは、米民主党全国委員会の略称。つまり、〝FANCY BEAR〟とも称されるロシアのハッカー集団が米民主党全国委員会に対しハッキングを行ったと記録したものなのである。

 米民主党全国委員会は、4年に1度の民主党の大統領候補を指名する全国大会を主催するだけでなく、政治資金の調達・配分、選挙戦略の立案・実行・調整、広報活動などいわば民主党の〝中枢頭脳〟なのだ。ちなみに、委員長は政党の党首にあたる。

 ヒラリー・クリントンが共和党候補ドナルド・トランプと激戦を繰り広げていたまさにその最中にロシアのハッカー集団によってクリントンを支える中枢がハッキングされたのである。

 先の米大統領選挙においてロシアのハッカー集団によってサイバー攻撃が行われたと米情報機関を統括する国家情報長官室が結論づけたことは周知の事実。この資料は、米情報機関と密接な関係にある民間セキュリティ会社が作成し、日本の情報機関の1つに提出したものだ。

   

 大統領選挙期間中、ロシアは直接的なサイバー攻撃の他に、事実上ロシア政府の支配下にあるトロール部隊(ネットによる世論操作)によって、様々な偽情報を流し、世論誘導を図った。大統領選挙のような二者択一を迫られるケースでは、特に二者が拮抗した場合、その心理的な効果は最も有効とされる。ロシアのトロール部隊はこんな情報を流し続けた。

 「ヒラリーの旦那ビルは、あのモニカ(ルインスキー)とよりを戻している」

 「ヒラリーは児童買春組織と深いつながりがある」
 明らかに根も葉もない偽情報の羅列だが、切羽詰まった状況は人間の選択に明らかな影を落とす。サイバー攻撃を含め、ロシアの国家的な情報操作は精緻を極め、他の追随を許さない。

空港を乗っ取られたベトナム
館内に響き渡った高笑い

 国家そのものへのサイバー攻撃はロシアによるエストニアへの攻撃を嚆矢とする。2007年のことだった。電力、金融システムがダウンしたエストニアは国としての機能を奪われた。

 その3年後。米国防総省が「QDR(4年ごとに行われる国防計画見直し)」の中でサイバー空間を陸、海、空、宇宙に続く「第5の戦場」と位置づける。以来、サイバー空間を巡る国家間の攻防は深刻さを増し続けている。

 日本版NSCである国家安全保障会議のある幹部は、「特にこの2年間、今までのサイバー攻撃とはまた1つ次元の違うような状況になり始めている」と指摘する。

 ベトナム。最大の都市ホーチミン市にあるタンソンニャット空港を始め、国内の空港の電子掲示版に異常が起こったのは昨年夏。電子掲示版に突然「南シナ海は中国の領土」の文字が並び、館内放送では「ベトナム、フィリピンはくたばれ」という声が高笑いとともに空港中に響き渡った。中国のサイバー攻撃で空港が乗っ取られたのだ。

 南シナ海の領有権を巡ってフィリピンがオランダ・ハーグにある国際仲裁裁判所に提訴していたが、裁判所が中国の主張を退け、ベトナムがそれを歓迎した直後のことだった。

 ベトナムが中国のサイバー攻撃に曝された数カ月後、サウジアラビア政府のシステムがサイバー攻撃によってシステムダウンに追い込まれた。空港も狙われたが幸いにして事務管理システムだけの被害に留まった。サウジアラビア政府は詳細を明らかにしていないが、重要インフラである政府の中枢システムは辛うじて守られたようだ。

 数年前、同じくサウジアラビアでは、世界最大の石油会社「サウジアラムコ」のシステムがサイバー攻撃を受け、システムダウンに追い込まれた。以来、サウジアラビア政府はサイバー攻撃に対し、万全の態勢を取っていると米国政府などには説明をしていたのだが。ちなみに、サウジアラムコのシステム修復には内々に日本から富士通のエンジニアが呼ばれ修復作業に当たったことは知られてはいない。

 サウジアラビアを標的にしたのはここ数年力をつけてきたと言われるイランのサイバー部隊。もちろん、国家主導の部隊だ。

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