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「東芝・WH問題」が蒸し返すインド「原子力発電」の問題点 - 緒方麻也

 東芝の米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)の再建問題で、同社による米連邦破産法第11条(チャプター・イレブン)の適用申請が現実味を帯びてきた。WHが経営破たんという事態になれば、同社がインドで進めている原子力発電所建設計画に影響を与えるのは必至。東芝は今日(14日)、1カ月前に延期していた決算会見を行う予定だったが、WHの内部統制問題を調査している監査法人の承認を得られなかったため再延期した。インドの原発開発計画が抱える未解決の問題点が再び注目される可能性が出てきた。

原発のフロンティア市場

 インドは1960年代から、国際的な核管理の枠組み外でほぼ独力の原発開発を進め、現在国内には21基、総発電能力578万キロワットの原発を有する。さらに、ラジャスタン原発7、8号機(各70万キロワット)やカクラパル原発3、4号機(同)など計380万キロワット分が建設中。ジテンドラ・シン首相府担当国務相(内閣官房長官に相当)は昨年3月の国会答弁で、2019年までにインドの原発発電能力が1008万キロワットに拡充されるとの見通しを示した。ちなみに、先進国では100万キロワットの発電でおおむね人口100万人規模の大都市の需要をまかなえるとされる。

 さらにインドは、2024年までに原子力による発電能力を現在の3倍にし、2050年までに総発電能力に占める原発の比重を25%にするという野心的な目標を掲げている。これを実現するためには粗く見積もっても1500億ドル以上の投資が必要となる。つまり、先進各国の原子力産業にとってインドはまさに最大のフロンティア市場なのだ。

 こうしている間にも、相変わらずペースが遅いとはいえインド国内では着々と原発建設が進んでいる。ロシアの協力によるインド最大のクダンクラム原発2号機(タミルナドゥ州、1000メガワット)は昨年7月に核分裂反応が安定的に継続する「臨界」に到達、今年1月下旬には最大出力での運転試験を実施しており、2017年内にも商業発電を開始してインド22基目の原発となる見通し。クダンクラム原発では昨年10月、3、4号機の建設に向けた準備作業もスタートしている。

 ロシアはこのほか、クダンクラム5、6号機を含む計12基の原発建設に協力することでインド政府と基本合意している。仏アレバも西部マハラシュトラ州で大型原発6基の建設計画を表明している。

 そして西部グジャラート州で建設中のカクラパル原発3号機(加圧水型重水炉)では、2017年中にも試験運転開始が見込まれており、18年中の商業発電に期待が高まる。

 2016年6月、訪米したモディ首相とオバマ大統領(当時)による首脳会談に際して、WHがインド南部アンドラプラデシュ州に加圧水型軽水炉AP1000型原子炉6基を建設することで「印原子力発電公社(NPCIL)」と基本合意したばかりだった。これは正式契約にこそ至っていないが、米輸出入銀行が資金を支援するという太っ腹な内容で、改めてインドの原子力開発が国際社会に認められたことを強く印象付けた。

「原子力賠償法」の弱点を補強

 インドが2010年に施行した「原子力損害賠償法(CLND)2010」は、世界で唯一、事故に際してサプライヤーつまり原子炉メーカーに賠償責任を負わせる規定である。東京電力福島第1原子力発電所事故の例をみるまでもなく、この規定によって、米国など民間企業が原子力産業を担う国からは二の足を踏む動きが出始めた。

 危機感を感じたインド政府は原発への投資をテコ入れするため、2015年、同法はそのままにサプライヤーの賠償責任を軽減し、「インド総合保険公社(GIC)」など公営損害保険会社5社などによる総額150億ルピー(約2.2億ドル)の「原子力保険プール」を設立した。CLNDは1度の原発事故における賠償限度額を3億SDR(国際通貨基金からの特別引出権、約4億ドル)と定めているため、賠償額が保険プールによる150億ルピーを超えた場合は、限度額との差額を政府が負担することになる。

 インド政府はさらに2016年2月、日米やアルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)などが加盟する「原子力損害賠償の補完的補償に関する条約(CSC)」を批准。加盟国による補完基金によって、更なる補償額の増大に備える体制を整えつつある。

史上最悪の「轍」

 しかし、東芝―WHがこうなった以上、150億ドル以上ともいわれる投資に耐えられるのか、いささか疑問だ。WHのホセ・グティエレスCEOはメディアの取材に対し、危機表面化後も「インドとは交渉を続けている」と説明。インド原子力庁(DAE)のセカール・バス長官も2月、ロイター通信に対して「(WHとの協力に)技術的な問題はなく、いまも協議を進めている」と発言している。だが、WHがもし脱落すれば、日、米、仏、ロシアなどを競わせて原発整備を進めようとしている(との見方がある)インド政府の思惑は崩れかねない。

 保険プールやCSCによるカバー体制にも不安が残る。米国の原子力業界からはかねて、「事故に際し、原子炉メーカーが事業者であるNPCILから損害賠償を請求されるリスクはなんら減らない」と懸念を表明している。民間企業にとって(もちろん、フランスやロシアの国営企業ですら)、メーカーが責任を追及される可能性のある原子力賠償法が存在するインドでの原発建設では、どこまで本気でビジネスをやれるのか、という問題に直面する。

 かといって、法改正でメーカーを免責することは政治的にまずい。この背景にあるのが、未確認も含めて2万人以上の死者を出したとされる1984年のユニオン・カーバイド工場(印中部マドヤプラデシュ州)の有毒ガス漏洩事故だ。この史上最悪の産業事故に際し、外資誘致を重視したインド政府は涙金の賠償金で妥協、責任企業「ユニオン・カーバイド」の代表者の「国外逃亡」を事実上黙認するなど、国民に深い不信と不満を残した。政府としても同じ轍は踏みたくないだろう。

あらためて「火力」に注目

 このように制約やリスクが大きく、供給元が限られる原発に比べ、比較的手っ取り早く建設でき、国内に燃料用の石炭が豊富にある火力発電の優位性がにわかに高まってきている。もちろん、発電所建設を得意とする中国やトルコの企業に頼る、という選択肢もある。

 そもそも、インドでは2050年時点でも1次エネルギー源の50%超は火力発電が占める見通しだ。環境保護の観点から財界からは「火力への依存軽減」を呼びかける意見もあるが、最近でも国営「バーラト重電(BHEL)」が北部ウッタルプラデシュ州ラリトプルで大型・高効率の超臨界石炭火力発電所(66万キロワット×3基)を稼働させた。工期を3カ月以上前倒しさせるという「快挙」だった。「インド火力発電公社(NTPC)」は昨年末、南部カルナタカ州で80万キロワットの超臨界石炭火力発電所を稼働させている。

 日本もこれまでのODA(政府開発援助)による超臨界火力発電所建設の実績があり、昨年5月には「低排出の火力発電推進」でインド政府との覚書(MoU)を締結している。これに沿って、千代田化工建設は昨年秋、インドのエンジニアリング大手「ラーセン&トゥブロ」と石炭火力発電所向けの排煙脱硫技術で長期ライセンス契約を締結したばかりだ。

 国内に600億トン以上、可採約100年という石炭資源を持ちながら、技術とカネがないためしばしば石炭の供給不足に直面し、これが2012年のインド大停電の遠因にもなった。こうした状況に対しモディ政権は2015年、石炭採掘における「インド石炭公社(CIL)」の独占を廃止。今年2月には44年ぶりに民間企業による石炭採掘を認める方針を打ち出し、手始めに4鉱区を開放する考えを示した。これにより石炭供給の大幅な底上げが期待され、すでに鉄鉱石大手「アダニ・グループ」や製鉄大手の「ジンダル・パワー」、インフラ開発でデリー国際空港運営の実績もある「GMR」などが関心を示しているといわれる。国内の石炭火力発電にとっては大きな追い風となるだろう。

 原発のリスクが蒸し返され、火力発電の優位性が相対的に高まる中、インド政府がどこまで原発に力を入れ続けるのかは判然としない。昨年11月には訪日したモディ首相と安倍晋三首相との間で、インドへの原発輸出を可能にする日印原子力協定も締結したばかりだが、東芝―WH問題は、インド国家百年の大計ともいえる原発開発計画にも少なからぬ影響を与えつつある。(緒方 麻也)

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