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“騙さない”“労働の対価は支払う” AV強要問題とは労働問題だ <続・職業としてのAV女優> - 中村 淳彦

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くるみんアロマさんの話から見えてくるAV出演強要問題の本質。「AV出演強要を問題と思えない業界関係者」の続編です。

出演強要の意味が、AV業界と社会では異なる

 くるみんアロマさんに声をかけられたイベントのとき、PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)の金尻カズナさんに挨拶した。AV強要問題に最も活発に取り組む活動家の女性だ。金尻さんはAVに詳しく、私がAV業界側の人間だと知っている。

「著書とかツイッターは見ていますよ。私らはラディカルフェミではないですよ。単なる支援者ですから」と笑っていた。AV問題と支援団体の存在が一昨年から世間が知られるようになり、支援団体に相談する女性が激増、彼女はおそろしく忙しいようで「眠る時間もありませんよ」と嘆いていた。

 立ち話なので時間がない。彼女に“この数年のAV業界はトラブルも少なく平穏だった。たくさんの女優は前向きに仕事をしていた事実はある。HRNの報告書が発表されたとき、大勢の現役AV女優が反論した。それはそうだろうと思った”と伝えた。

「いやいや。AV業界の方々が良心的というプロダクションに所属している女性からの相談はたくさんある。嘘の求人広告が多すぎますよ」と言う。

 金尻さんと話したのは、ほんの5分程度。その短い時間で出演強要の定義が、女性団体とAV業界で大きく異なることに気づいた。AV業界がイメージする出演強要は、暴力や弱みを背景にして脅して無理やり出演させる、騙して出演させる、暴力的で危険な撮影を強いるみたいなことだ。しかし、女性団体はそのような明らかな強要だけでなく、パーツモデルやチャットレディなどの広告で集客し、対面で説得してAV出演に誘導することも出演強要としていた。強要がある、強要の疑いがあるプロダクションの名をいくつか挙げていたが、すべて大手プロダクションだった。

沈黙を続ける業界に世間は味方をしない

 AV業界は女性団体の猛烈な抗議によって社会の壇上に立たされた。社会の片隅でひっそりと営んでいたグレー産業が、陽を浴びてしまった。これからは被害者が生まれる不完全なシステム、法的にグレーな部分は許されない、ということだ。AV業界は一貫して声をあげていない。メディア取材も断り続けて、2017年3月現在沈黙を継続している。

 一般的には、社会から注目されるなかで主張が対立した場合、両者はどれだけ世論の賛同を得ることができるかの戦いとなる。選挙に近い。反論や言い分があっても、然るべき場に立たない、逃げることで、形勢はどんどん不利になる。AV強要が社会問題化してから1年が経ち、女性団体は大手マスコミを巻き込みながら熱心に訴えた。AV業界は逃げ続けた。ほぼ決着はついてしまった。

 AV強要の定義は、女性団体の基準に合わせるべき状況だ。強引なスカウトや危険な撮影だけでなく、パーツモデルやチャットレディなどソフトな広告で集めた女性をAV女優に誘導することも強要、ということなのだ。

「歌手へのステップ」という言葉を信じてAV出演を決める

原宿でのYouTubes撮影を日常的に行っているくるみんアロマさん

 くるみんアロマさんは原宿でのYouTube撮影を日常とする。よく利用するという喫茶店の2階で、女性編集者と話を聞いた。開店したばかりだからか、利用客はほとんどいなかった。

 大学4年の卒業間近に有名週刊誌でグラビアデビュー、内定する就職先は辞退して、飲食店でのアルバイトで生計を立てた。実家暮らしで十数万円あれば生活はできる。グラビア以降、事務所やスカウトマンからはAV出演の説得が続いた。2013年春、プロダクションとの「歌手へのステップ」という言葉を信じて、AV女優になることを決める。

「私の中では男優と絡みのあるAVは遠い存在で、ずっと断っていた。事務所の人たちからは“今、時代は変わった。あなたは職業差別をしている。AV女優を見下している”と言われた。差別とかそういう言葉を使われて、確かに自分はAV女優を差別しているかもと思った。それは後ろめたかった。でもやっぱり遠い存在。理解できないからこわかった。だからAVには出たくなかった。事務所で十数人の男性に囲まれて説得を受けたりして、だんだんと音楽のためには必要なこと、1%でも可能性があるならば信じようと思うようになった。今思えば、洗脳です」

 説得はスカウトマンと事務所のタッグで行われたようだ。執拗さから察すると「クロージング」が完了次第、単体デビューは内定する状況だったか。情報の少ない地方の子や、これまで従順に生きた真面目な子ほど、性善説の側からモノを見る。嘘を信じてしまう。ボランティア活動などに興味があった彼女は典型例で、疑いがありながらも最終的には信じてしまった。

 もう一つ、AV女優として前向きに生きる女の子が増えた。プロダクション側もAV女優になったほうが、彼女のためという意識があったはずだ。出演を誘導することは強要で人権侵害という世論は揺るがしようがなく、反論するつもりはないが、そのまま普通の女性として埋もれるのと、一歩を踏み出して有名になる、知名度を上げて別のステージに登ることは、あながちマイナスだけではない。スカウトマンとプロダクションは自分の利益のためだが、単体デビューが内定する状況で、有名になりたい彼女のためにもAV女優を薦めた、という側面はあったはずだ。

「AV出演を頷いてから動きだしました。メーカーさんに行ってNG項目の確認とか。ほぼ処女みたいな売り方。実際、男性経験はほとんどなかったから。初体験は強引なレイプみたいなもので、死にそうなくらい痛かった。だからAV撮影のときは小さい男優にしてって。でも男優さん大きくて、痛くて。撮影では痛い痛い痛いってなって、中断するともう一度やり直し。泣きわめいたら延々と終わらない、って怒られる状態でした。みんなこんなに泣く人は初めてだよね、って笑っていた。私は苦痛でしょうがなかったけど、撮影現場には私の気持ちを共有してくれる人は誰もいなくて、みんな笑っていた。撮り直しは嫌だし、取り繕わなければ先に進まない。ノリノリな雰囲気をだしたけど、本当は苦痛だった」

強要された契約に法的効力は発生しない

 AVメーカーのプロデューサーが女優をキャスティングして、制作を外部の制作会社や自社の制作部に発注する。特にメーカーの商品の根幹となる単体は、メーカー側の意向の通りに作るのが一般的で、制作側に裁量はない。出演経験のない単体デビュー作を担当するAV監督はかなり大変な仕事で、経験のない女優に気を使いながら、メーカーが求める性行為を確実に撮影しなければならない。

 デビュー作は大変な現場だったようだ。女優が痛がるからといって、監督の裁量で撮影中止にはならない。撮影の段階でメーカーはプロダクションに出演料を支払い、スタッフなどの撮影経費が発生している。さらにプロダクションは1年を費やしてクロージングしている。撮影に突入すれば、基本的には女優がどんな状態だろうと、乗り切るしかない。

「撮影後は精神的にも身体的にも、ドン底まで落ちました。自分がそこまで性行為をやらされると思っていなかったし、本当にツラかった。想像を超えていました」

 喫茶店の2階席。だんだんと客は増えてきたが、彼女はAV撮影の話で泣いてしまった。

「本番する時間があまりにも長いとか、NG項目をやらされたり。できないって言ったら“あなたのために何人もの大人が生活できなくなる。どうしてくれるの?”みたいなことを言われて。できないって言わせない空気があった。事務所の人もいて“他の女の子も仕事がなくなるからちゃんとやれ”って。撮影後、しばらく人に会いたくなかった。もう撮影中に自分が選んだ道は間違いだったって気づいた。洗脳されて頷いちゃったというか。誰にも相談できないし、だからやるしかなかった。歌手デビューとかその後のことを保証してくれるのなら、痛みにも耐えるって気持ちもあった。頑張ったのは、それだけのため」

 彼女に「どうして逃げなかったのか」みたいな意見を投げる人がいる。酷な話だ。単体の撮影現場はプロダクションがベタ付きする。監視がある中で逃げることはできない。仮に逃げたたら大騒ぎになり、最低でも撮影費用の負担を迫られる。AV撮影は動きだしたら、女性はよほどのことがあってもやるしか選択肢がない。

 プロダクションが女性に請求する違約金も問題になっている。AV問題のそもそもの発端となった10本契約を破棄した女子大生に2460万円の賠償請求したプロダクションは、80万円の撮影費用の他に1本200万円の自社利益も請求した。AVメーカーは女優の都合で撮影中止になった場合、すでに発生した撮影費用をプロダクションに請求する。金額はメーカーによって異なり、全額をプロダクションに請求、半額請求などまちまちのようだ。そしてプロダクションは、AVメーカーに支払った金額を女優に請求するのが普通だ。

 しかし、2460万円の損害賠償請求は棄却された。女優が支払う法的妥当性はないと判断されたわけだ。これから撮影中止になった場合、AVメーカーと女性のどちらが負担するのか。AVメーカー負担が妥当という流れになれば、おそらく女優の出演料を下げて調整する。儲かっていない産業で無駄なお金を発生させてしまうと、どちらにしても丸くはおさまらない。

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