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経営者のパワハラは経営責任だけでなく法的責任にも至る

先週の東京での3日間にわたる講演も終えまして、今年も日本監査役協会における合計8回(4会場合計)の研修会講演全日程が無事終了いたしました。合計2200名以上の監査役の皆様にご来場いただき、誠にありがとうございました。今年はご来場いただいた方の約1割が取締役監査等委員の方々だったことが印象的でした。

さて、3月11日土曜日の朝日新聞朝刊では、三越伊勢丹の社長さんの辞任騒動を「業界の顔 社内孤立」と題する記事で詳細に取り上げています。三越ご出身の会長さんと伊勢丹ご出身の社長さんとの信頼関係の悪化という点も記されていましたが、辞任勧告の引き金になったのは業績の悪化と社内でのパワハラだったと報じられています(社長ご自身によるパワハラ問題は、何度も社外取締役に通報があったようですね)。

社長さんは事業の選択と集中をスピード感をもって実行していたのですが、労組からの不満が噴出して周囲からは支持されなくなったとのこと(上のチャートは三越伊勢丹さんの株価チャートです。構造改革を打ち出した社長さんの姿勢を市場は好感していたようですが、3月4日を起点として株価が下落しました)。

社長さんのパワハラ問題というのは大きく分けるとふたつあります。ひとつは社長さんご自身が執行役員や幹部社員に対して人格権侵害に及ぶ叱責等を繰り返すものです。三越伊勢丹さんと同様、最近はこのような社長さんのパワハラ疑惑が社外役員のところへ通報されるケースが多くなっています。

とくに常勤監査役さんも、これを取締役としての職務執行上の違法行為とみて監査報告で株主に開示することを検討することが増えています(ただし会社法上の監査報告の対象となるかどうかは争いがあります)。サラリーマン社長さんの中には、意外とご自身のパワハラに関する認識が甘い方も多いように見受けられます(成功体験からでしょうか・・・)。たとえ法的責任に発展せずとも、経営責任を問われることになります。

そしてもうひとつが社長さんの「セカンドパワハラ」です。社内のパワハラ問題を(問題を認識していた、もしくは認識しえたにもかかわらず)放置している社長さんは、いわゆる「セカンドパワハラ」に及んだとして、会社とは別に社長個人として民事賠償責任を負うリスクがあります。社長さんが民法709条責任(不法行為責任)もしくは会社法429条責任を負う法的根拠は、職場環境を適切に維持するための内部統制構築義務違反(注意義務違反)です。

たとえば厳しい叱責によって長時間労働を強いられた社員が精神的疲弊に至って自死しば事件で、裁判所はそのような経緯を知りつつ、長時間労働を放置していた社長さんに対して、会社と連帯して社員のご遺族の方々に損害賠償責任を負うことを認容しています(平成28年3月16日東京地裁判決判例時報2314号129頁以下)。最近はこのように社長自身もセカンドパワハラとして損害賠償責任を負う旨を判示した裁判例が増えています。

前にも述べましたように、セクハラとは異なり、パワハラは適切な指揮監督権の行使と隣り合わせの領域にある問題なので、社内に「グレーゾーンを残すこと」は許されません(そんなことをすると、現場が萎縮してしまって同業他社との競争に負けてしまいます)。

だからこそ社長さんは「上司の許される指揮監督権の行使」と「許されない人格権侵害としてのパワハラ」のどこに線引きをすべきか、真剣に検討する必要があります。働き方改革や労働人口の流動性といった社会の流れによって線引きも変わります。自身によるパワハラとともに、社内の職場環境配慮義務を尽くすための内部統制への関心も求められるところです。

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