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東芝を地獄に叩き落としたWHという会社

ジャーナリスト 松崎隆司=文

東芝を債務超過に突き落とした簿外債務

東芝が迷走している。2月14日の2016年度第三四半期の決算発表は当日急きょ延期、見通しだけを発表した。

発表された見通しを見ると、4999億円の最終赤字に1912億円の債務超過。まさに末期的ともいえる状況だ。その最大の元凶が「ウエスチングハウス(WH)」の米国の原発建設などに関連した簿外債務だ。その額6253億円(全体では7125億円)、東芝にとっての火薬庫といってもいい存在だ。

すでに報道ベースではWHを連邦倒産法第11章(チャプター11)の申請も検討されているといわれているが、さらに3000億円の追加損失が発生する可能性もあり、関係者の間からは「それができるくらいならだれも苦労はしない」(主要取引銀行関係者)という声が上がっている。

事実東芝はこのほかにWHの債務保証などをし、7934億円(2015年度の決算資料から)の偶発債務を抱えている。整理すればそれが一気に東芝の負債となってのしかかる。

実は簿外債務の原因となっている原発工事は、そのプロジェクトを推進するために電力会社が政府から巨額の債務保証を受けて、資金を調達し建設を進めてきた。WHがチャプター11を申請するようなことになれば工期はさらに遅れ、それが米政府の負担にもなりかねない。その総額は83億ドル(約9500億円)ともいわれ、日米間に大きな亀裂を生む可能性すらある。東芝にとっては"進も地獄、引くも地獄"という状況なのである。

東芝を苦境に陥れたWHとはどのような会社なのか。

WHはもともと1886年から1999年まで存在した米国の総合電機メーカー「ウエスチングハウス・エレクトリック」の原子力事業部門で、1950年代以降「加圧水型原子炉(PWR)」の開発製造で独占的な地位を占めていた。

その後1999年に英国の「英国核燃料会社(BNFL)」社に売却された原子力事業が今のWHである。当時の売却価格は11億ドルといわれている。BNFLはMOX燃料など核燃料の開発や搬送、原子炉の運営などを行う英国政府が所有する持ち株会社。ところが財政が悪化し、2005年にはWHの売却を決断。当時は18億ドルの価値があるといわれたWHを東芝、ゼネラル・エレクトリック、三菱重工などが入札した。

このとき同じPWRを手掛ける三菱重工が有力視されたが、蓋を開けると、「沸騰水型(BWR)」を手掛けていた東芝が54億ドルで落札、当時は「2000億円の会社に6000億円を出すのはばかげている」(業界関係者)といわれたが、東芝の経営陣は勝利の美酒に酔いしれた。

BWRは国内が主要マーケット、世界の主流はPWRだ。WHで世界に大きく打って出たい東芝にとっては何が何でもほしい会社だったといえるのかもしれない。

ショー・グループに翻弄された東芝

しかしとんだ“おまけ”がついていた。米国の大手エンジニアリング会社「ショー・グループ」だ。ショー・グループはWHのEPC事業(エンジニアリング、調達、建設)に関して独占的に行う権利を持っていることから、その後のエンジニアリングを独占的に担当することになり、今回問題となっているCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)はショー・グループの傘下の企業だった。

出資は東芝をはじめ、ショー・グループ、IHIが加わることになり、東芝の出資比率は77%(41億5800万ドル)、ショー・グループが20%(10億8000万ドル)、IHI 3%(1億6200万ドル)となり、07年にはカザフスタン共和国のカザトムプロムが東芝が保有するWHの株式10%を取得、一時は4社で株式を保有した。

WHはショー・グループ、S&Wと工事の受注に向けて奔走した。

08年4月には米国サザン電力の子会社であるジョージア電力(ジョージア州)と、5月には米国スキャナ電力の子会社であるサウスカロライナ・エレクトリック&ガス・カンパニー(SCE&G)と、それぞれ2基ずつ新規原子力プラントの建設に関する契約を締結した。このときショー・グループもパートナーとして参加、11年から着工する予定だった。しかし東日本大震災で13年まで着工できず、工期が遅れ、その費用の負担を巡って発注元やS&Wと訴訟騒ぎとなり、工事はさらに遅れた。

そうした中でショー・グループは13年1月に買取請求権がついていたWHの株を東芝に売却。13年2月に米国のCB&Iの傘下に入り、15年10月にはS&WもWHに売り払い、原発事業はから足を洗ってしまった。

東芝は当初、原発事業を単独でできるとほくそえんでいたのかもしれない。

「WHは、S&W取得のタイミングに合わせ、サザン電力、スキャナ電力と、米国のプロジェクトに関し現在訴訟となっているものも含め、全ての未解決のクレームと係争について和解をすることに合意しました。また、価格とスケジュールを見直すことにも合意しました。WHは今後も両オーナーとの協力関係を継続し、米国のAP1000TMプロジェクトの建設工事を進めます」と書かれたニュースリリースからもそうした東芝の思いを垣間見ることができる。

押しつけられたS&Wは粉飾のオンパレード

ところが買収したS&Wの実態はとんでもない粉飾決算のオンパレードだった。

12月末に買収が完了後、本来あるべき11億7400万ドル(約1326億円)の想定運転資本額が実際にはなかったという。そればかりか、WHの算出値では9億7770万ドル(約1173億円)のマイナス。しかもS&Wが建設工事を進めていたジョージア州とサウスカロライナ州の工事もS&Wの買収後、この建設を新規に請け負った米エンジニアリング会社、「フルアー」が改めて見積もり直すとすでに数十億ドル(数千億円)の損失が発生していたという。

東芝は2016年12月27日に「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性」というニュースリリースを発表、「必要なのれんの計上額は当初想定の8700万米ドルを超え、現時点で数十億ドル規模(数千億円規模)になる可能性が生じました」(同リリースより)と説明した。

WHはサザン電力、スキャナ電力以外にもショー・グループと組んで米国プログレス電力の子会社であるプログレス・エナジー・フロリダ(PEF)や中国などで原発を受注している。その工事もまた遅れており、今後さらに偶発債務が発生する可能性は否定できない。

網川智社長は14日の会見で東芝が経営の方向性を間違った理由といて「WHを買ったことといえなくもない」と説明している。

しかしそんなさなかでもまだ隠ぺい体質は治っていない。

東芝は今年に入ってから、WHによるS&W買収の取得価格配分手続きの過程で内部手続きの不備を示唆する内部通報があったことから、弁護士を使って調査をしていた。ところがその弁護士に対してWHの経営陣が「不適切なプレッシャー」をかけた疑いがあり、それが14日の決算延期の原因になった。日本テレビはその後の取材で「内部通報では東芝の志賀重範会長とアメリカの原発子会社ウエスチングハウスのロデリック会長が名指しされていたことがわかった」と報じている。

経営危機に陥ってもなお、続く東芝グループの隠ぺいに不正。いったいどこまでそれは続くのか。3月14日の2016年度第三四半期の決算発表ではすべてが明らかになるのか。

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