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なぜわれわれは福島の教訓を活かせないのか

 2017年3月11日、日本はあの震災から6年目を迎えた。

 一部では高台移転や帰還が進んでいるとの報もあるが、依然として避難者は12万人を超え、その7割以上が福島県の避難者だ。

 原発の事故処理の方も、いまだにメルトダウン事故直後の水素爆発によって散らばった瓦礫を取り除く作業が行われている状態で、実際の廃炉までこの先何年かかるかは、見通しすら立っていない。

 福島第一原発のメルトダウン事故については、政府、国会、民間の事故調査委員会がそれぞれ調査報告書を出しているほか、さまざまな検証が行われてきた。これまでの説明では概ね、津波によってステーション・ブラックアウト(全電源喪失)に陥ったことによって原子炉を冷却できなくなったことが、メルトダウンに至った原因とされてきた。一部で地震による原子炉の損傷も指摘されているが、あれだけの地震と津波に同時に襲われ電源がすべて失われるような事態を想定していなかったことが問題視され、安全神話などのそもそも論に関心が集まったのは記憶に新しいところだ。

 しかし、ここに来て、新たに重要な指摘がなされている。それは、そもそも事故直後の対応に大きな問題があったのではないか、というものだ。

 日本原子力研究所(原研)などで原発の安全を長年研究してきた田辺文也・社会技術システム安全研究所所長は、日本の原発には炉心が損傷するシビアアクシデントという最悪の事態までを想定して3段階の事故時運転操作手順書が用意されており、ステーション・ブラックアウトの段階からその手順書に沿った対応が取られていれば、あそこまで大事故になることは避けられた可能性が高いと指摘する。少なくとも2号機、3号機についてはメルトダウン自体を回避できたのではないかと田辺氏は言うのだ。

 事故時運転操作手順書には事故発生と同時に参照する「事象ベース手順書」と、計器などが故障して事象が確認できなくなってから参照する「徴候ベース手順書」、そして、炉心損傷や原子炉の健全性が脅かされた時に参照する「シビアアクシデント手順書」の3つがあり、事故の深刻度の進行に呼応して、手順書を移行していくようになっている。田辺氏は特に今回の事故では停電や故障で計器が作動しなくなり原子炉の状態がわからなくなってから「徴候ベース手順書」に従わなかったことが、結果的に最悪の結果を招いた可能性が高いと指摘する。

 以前からこの「手順書」問題は仮説としては指摘されていたが、ステーションブラックアウトに直面した福島第一原発の現場で実際に手順書がどのように扱われていたのかが不明だったために、それ以上の議論には発展していなかった。

 ところが、朝日新聞による「命令違反」報道を受けて、政府は2014年9月11日にいわゆる吉田調書を含む「政府事故調査委員会ヒアリング記録」を正式に公開。その中で吉田昌郎福島第一原発所長(当時)が政府事故調に対し、「いちいちこういうような手順書間の移行の議論というのは私の頭の中では飛んでいた」と証言していたことが明らかになり、あらためて手順書の問題に焦点が当たるようになった。

 そして、実際に手順書の内容と事故直後に東京電力が取った対応を比較すると、東電の対応は手順書から大きく逸脱していたばかりか、「そもそも手順書の概念や個々の施策の目的や意味が理解できていなかった」(田辺氏)ことが明らかになったのだと言う。

 実際に事故に直面した吉田所長を始めとする福島第一原発のスタッフの混乱ぶりや恐怖は、われわれの想像を絶するものがあったにちがいない。そのような状況で「手順書」がどうのこうの言っている余裕はなかったという思いも十分理解できる。しかし、「だからこそ事故対応手順書が必要なのだ」と田辺氏は強調する。

 現在の事故時運転操作手順書はスリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故の教訓をもとに作られていると田辺氏は言う。2度と同じような失敗を繰り返さないために、高い月謝を払って人類が蓄積してきた原発事故対応のノウハウが凝縮されているのが3段階の事故時運転操作手順書なのだ。

 たとえ手順書通りに対応していても、もしかすると福島の惨事は避けられなかった可能性はある。しかし、少なくともあの福島の事故で、事故後の対応に過去の失敗の教訓が活かされていなかったという事実を、われわれは重く受け止める必要があるだろう。起きてしまった事故は元には戻せないが、少なくともわれわれにはその教訓を未来に活かす義務があるのではないか。

 田辺氏は、今回の事故ではこの手順書の問題がきちんと検証されていないために、新たな安全基準も不完全なものになっている可能性が高いと指摘する。

 どんなにしっかりとした手順書を作っても、その意味を十分に理解した上で、それが非常時でも実行できるような訓練が不可欠と語る田辺氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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