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南スーダンの惨状と混迷:自衛隊撤収を促した「二重の危険」

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3月10日、政府は南スーダンに派遣されている自衛隊の部隊を、来年5月を目処に撤収させると発表しました。これに関して菅官房長官は「復興支援に目処がたったため」と説明し、治安情勢の悪化が撤収の理由でないと強調しています

とはいえ、南スーダンの治安情勢は極度に悪化していることは、いわば国際的な常識です。2013年から続く内戦により、2016年9月までに南スーダンからの難民は100万人を突破。さらにその数は増え続けており、国連は2017年1月だけで南スーダンから5万7000人の難民が隣国ウガンダに逃れたと発表したうえで、「大量虐殺」に懸念を示しています

この状況下、自衛隊の撤収が決定されたことは、大きく二つの危険を回避する目的があったといえます。それは「自衛隊の危険」と「日本政府の国際的な立場の危険」です。

「国民なき国家」の分裂の連鎖

南スーダンは2011年にスーダンから独立した、世界で最も若い国です。旧スーダンでは、北部にアラブ系のムスリムが、南部にアフリカ系のキリスト教徒が多く、前者の支配に対して後者は30年に及ぶ内戦の果てに独立を勝ち取りました。

しかし、独立からわずか2年後の2013年、南スーダンでは内戦が発生。旧スーダンで北部のムスリムを相手に戦っていた頃、南部の抵抗勢力はSPLM(スーダン解放人民運動)にほぼ結集していました。しかし、独立によって「共通の敵」を失った新生南スーダン政府では、内部分裂が深刻化したのです。

南スーダンでの内戦は、民族間の対立を発端にしました。独立後の南スーダンでは、政府の主導権をめぐってキール大統領の出身のディンカ人と、マシャール副大統領を輩出したヌエル人の間の反目が激化。2013年にマシャール副大統領が「キール大統領の独裁」を批判して副大統領職を罷免され、これが内戦の発火点となりました。

「国民」という自覚が醸成されることなく、国家が先にできたことで、主導権争いが激しくなる構図は、旧スーダンをはじめ、多くのアフリカ各国に共通するものです。

豊かさの逆説

しかし、南スーダンでの混迷に拍車をかけたのは、豊かな資源でした。

南スーダンは人口が1234万人で一人当りGNI(国民総所得)は790ドル。アフリカでも小国と呼べる国です。しかし、BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)の統計によると、2015年の同国の原油の確認埋蔵量は約3500億バレルで、大陸5位の規模です。さらに、独立直後の2012年に150万トンだった原油の年間生産量は、2015年までに730万トンに急増。未開発の油田も多いことから、将来的な成長も見込まれます。

ただし、天然資源、なかでも石油や天然ガスを産出する国では、豊かな資源がかえってアダとなり、マイナスの影響を受けやすくなりがちです。そこには、産業の多角化の遅れ、放漫財政、過剰な資金流入によるインフレなどが含まれ、これは「資源の呪い」と呼ばれます。「資源の呪い」には、汚職の蔓延、独裁体制や紛争が生まれやすいことなどもあげられます

南スーダンでは、小国に不釣り合いなほどに石油資源が豊富であるがゆえに、その利権をめぐって、政府内の権力闘争をより激しくなったのです。そして、ここにも「国民」というまとまりがないがゆえの、民族間の利益の奪い合いという構図をみてとることができます。

南スーダンへの国際的な関心

独立から間も無く発生した南スーダン内戦に、各国は比較的素早く反応しました。内戦発生の直後、旧スーダンでの内戦時代からSPLMを支援してきた米国だけでなく、平素は「内政不干渉」を理由に他国の事柄にほとんど口を出さない中国までが、それぞれ南スーダンの当事者たちに和平を働きかけ始めたことは、その象徴でした。

さらに、2013年12月、国連はUNMISS(国連南スーダン派遣団)の兵員数を1万2500に増加することを決定。2016年現在、UNMISSは1万7000人を抱え、その規模はMONUSCO(国連コンゴ民主共和国安定化ミッション)などを除き、国連PKOとしては指折りのものです。これは南スーダンの状況のひどさだけでなく、各国の熱心な態度を反映しているといえます。

南スーダン内戦が始まった2013年は、世界的に資源価格がピークを迎えていた時期でした。そして、南スーダンはアフリカ有数の産油国になれるポテンシャルを秘めています。さらに、シリアなどと異なり、未だに特定の大国の明確な「勢力圏」に色分けされていたわけでなく、それは逆にいえば進出競争の余地が大きいことをも意味します。

このような背景が、油田開発を念頭に置いた、大国の熱心な「和平への協力」を呼ぶ一因となったとみることに、大きな無理はありません。

南スーダンの混迷

ところが、国際的な関心とは裏腹に、南スーダンは混迷の淵をさまよってきました。

米中をはじめとする国連安保理での停戦要求と、ケニア、ウガンダ、エチオピアなど周辺国の仲介努力により、2015年8月にはキール派とマシャール派の間で停戦合意が成立マシャール氏は2016年2月には再び副大統領に任命され、これによって和平への希望が高まりました

しかし、和平合意は形式的なものに過ぎず、その後も南スーダンの状況は悪化の一途をたどりました。2016年3月、国連人権理事会は南スーダン政府が、反政府軍への攻撃で協力する民兵に対して、住民の虐殺やレイプを認めていると報告。「世界で最も恐ろしい人権状況」と評しました。

同年7月には戦闘がさらに激化し、(自衛隊が駐屯する)首都ジュバでも迫撃砲や武装ヘリまで展開する大規模な戦闘が発生。国連によると3万6000人が避難し、国民の7割が「人道支援が必要」とみなされる状況になりました。これに対して、国連安保理は各派に自制を求めるとともに、4000人のPKO部隊の追加派遣を決定したのです。

首都での戦闘のさなか、マシャール氏はジュバから姿を消し、キール大統領は元ユニティ州知事のタバン・デン・ゲイ氏を副大統領に任命。ゲイ氏はヌエル人で、マシャール氏に近い人物です。

反政府軍の旗頭となっているマシャール氏が事実上追い出された後、マシャール氏と近いゲイ氏が(「マシャール氏の不在を埋める暫定的な副大統領」として)あえて起用されたことは、「国内融和」のイメージ化を図ったものとみられます。

誰が敵か?

ゲイ副大統領は、海外からの介入を防ぐ役割を担ってきました。就任から約1ヶ月後の2016年8月、ゲイ氏は訪問先のケニアで、「南スーダンは安定しており、平静」と強調。外部の関与を拒絶する姿勢を強めました。2016年2月、ゲイ氏はドイツのミュンヘンで会談した日本の小田原潔外務政務官に対しても、「戦争などない」と力説しています。

しかし、南スーダンでは「国内融和」とほど遠い状況が加速しており、2016年12月に国連の人権査察団は「民族浄化が進行している」と報告。とりわけキール大統領率いる政府軍の側に、非人道的な行為は目立ちます。例えば、大規模な戦闘が発生した2016年7月だけで、ジュバでは120件以上の集団レイプが発生し、その多くが軍服を着た政府軍兵士だったと報告されています。

ディンカ人による非人道的行為が目立つなか、政治家や軍人の間で、政権から離脱する動きが活発化。2017年2月、ガブリエル・ドゥオ・ラム労働大臣が辞任し、マシャール氏への忠誠を表明。さらに同月、南スーダン軍の軍事法廷の責任者を務めていたヘンリー・オヤイ・ニャゴ准将が「政権やディンカ人による大量虐殺と民族浄化」を批判して辞任しました

これと並行して、マシャール氏を支持するヌエル人以外の少数民族の間にも、政府と戦火を交える集団が相次いで誕生。2016年8月、少数派のムール人の一群が政府軍から離脱し、SSDM(南スーダン民主運動)として、反政府軍への転身を宣言したことは、その典型です。そこには、ディンカ人以外が標的となることへの不満や、状況に乗じて立場をよくする目的などがあったとみられます。

そのうえ、長引く戦闘により、南スーダンでは食糧危機が発生。政府の発表によると、国民の半数近い490万人が食糧不足に直面しています。その結果、民族的・政治的な動機づけの武装組織だけでなく、食料や救援物資を奪う、重武装の犯罪集団までが林立。こうして、当初キール派(ディンカ人)とマシャール派(ヌエル人)の間の争いだった南スーダン内戦は、目的も終わりもみえない、泥沼の様相を強めてきたのです。

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