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特集:インフラ投資は米国経済を救えるか

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先週はトランプ大統領が、「意外なくらいにまとも」な議会合同演説を行ないました。「やれやれ」と思ったら、今度は米連銀が「3月利上げ」に向けて動き始めました。確かに米国経済の指標は年明けから好転しているし、株価も上げている。ここにトランプ政権の減税とインフラ投資が重なれば、景気は過熱するかもしれない。先手を打って利上げというのは、中央銀行としては合理的な判断なのでしょう。

とはいうものの、米国経済は本当にそんなに強いのか。あるいはトランプ政権の政策は本当に実現するのか。そして「1兆ドルのインフラ投資」は、米国経済にどんな効果をもたらすのか。悲観と楽観が交錯する今の米国経済について考えてみます。

●ほんの1週間で景色が変わった

筆者が出演しているテレビ東京『モーニングサテライト』では、毎週月曜日に「モーサテ・サーベイ」を公表している1。毎週末ごとに、約30人のレギュラーコメンテーターを対象に、内外経済の現状に対するアンケート調査を行うものである。

その中の定番の設問に、「米国の次の利上げは?」というものがある。この調査のコンセンサスが、ほんの1週間で激変してしまった。

* 2月6日放送分 3月17% 、5月17%、6月59%、9月3%、2018年以降3%
* 2月13日放送分 3月6% 、5月12%、6月76%、9月3%、2018年以降3%
* 2月20日放送分 3月24% 、5月12%、6月62%、2018年以降3%
* 2月27日放送分 3月9% 、5月21%、6月67%、2018年以降3%
* 3月6日放送分 3月94% 、5月6%

2月一杯までは、「6月利上げ」がメインシナリオであった。特に1/31-2/1分のFOMC議事要旨が2月22日に発表されると、そこには「多くの参加者が、利上げを”fairly soon”に実施することが適切になるとの見方を示した」との文言が入っていた。「比較的早期に」というからには、少なくとも今年の前半を意味しているのだろうが、「さすがに次の3月はないだろう」との見方がかえって強くなってしまった。

以下に、日米欧の金融政策決定会合の2017年版日程を掲げておく。米FOMCの会合は合計8回予定されており、記者会見が行われる3月、6月、9月、12月の都合4回に、金融政策が変更される確率が高い。年初の時点では、「利上げが年内3回なら、それは6月+9月+12月だろう」というのが市場における多数説であった。

○日米欧の金融政策カレンダー
(*は記者会見あり。☆は展望リポートあり)

ところが先週3月3日にシカゴで行われた講演において、イエレン議長は月内の利上げに太鼓判を押すような言い方をする。「今月行われる会合(注:3/14-15)においても、雇用とインフレがわれわれの期待に沿っているかどうかを見定めることになるが、そうであればFF金利の更なる調整が適切であるということになるだろう」(a further adjustment of the federal funds rate would likely be appropriate.)

この文言を素直に読めば、「2月の雇用統計(3/10公表)がそれなりの数字(例えば非農業部門雇用者が10万人以上の増加)であれば利上げへGo!」ということになる。わずか1週間で、市場は「3月利上げ」を織り込んでしまった

確かに年初から、米国の景気指標は強い数字が続いている。株価も高い。中央銀行として、「”Behind the curve”になるくらいなら先手を取るべし」という判断に傾くのもわからないではない。だが2015年末に始まった利上げは、昨年も12月の1回のみだった。足元の米国経済は、本当に年3回の利上げに耐えられるのだろうか。

●流れを変えたのは大統領の議会演説

米連銀の背中を押したのは、2月28日に行われたトランプ大統領の議会演説であろう。

1月20日の就任演説とは打って変わって、「大統領らしい」(Presidential)演説となった。今までのトランプ氏の攻撃性や排他性は影を薄め、歴代大統領が一般教書演説で使ってきた「お作法」に丁寧に則っていた。特に対テロ軍事行動で殉職した兵士の未亡人を紹介したシーンでは、会場全体が数分間にわたってスタンディングオベーションに包まれた。直後に行われたCNN調査では、演説を聞いた人のうち57%がVery Positive、21%がSomewhat Positiveと答えている。

「単にプロンプターを読んだだけ」「事前の期待値が低過ぎたお陰」といった悪口もあったし、演説の内容自体も今までとはさほど変わっていない。それでも軌道修正から浮かび上がってくるのは、トランプ政権の懸命な姿勢である。いかに大統領令を乱発しても、ワシントン政治は簡単に動かせない。とにかく内政で何かを決めようと思ったら、議会の合意を得て法案を通さなければならない。

ところが共和党は上下両院で多数を握っているものの、閣僚人事の議会承認さえ全部は済んでいない。この調子では、局長級や大使人事が揃うのはいつになることか。9人目の最高裁判事に指名した保守派のニール・ゴーサッチ判事の承認も渋滞している。

内政、特に経済面で成果を挙げるためには、早く税制改正なりインフラ投資、あるいは規制緩和を実現しなければならない。ところがその前に立ちはだかる壁は少なくない。例えば「オバマケアの廃止」。共和党議員にとっては長年の悲願だが、本当に廃止したら医療保険を失う人たちが騒ぎ出して一大事となる。ライアン下院議長が中心になって代替案をまとめたものの、党内の取りまとめも容易ではないらしい。

党内コンセンサスがあるはずの法人減税でさえ、財源が覚束ない。そこでVAT(付加価値税)ならぬBAT(国境調整税=Border Adjusted Tax)というアイデアも浮上したのだが、議会演説では言及されなかった。今まで「驚くべき税制改革」(phenomenal tax reform)と言っていたものを、「歴史的な税制改革」(historic tax reform)と言い換えただけである。

トランプ大統領としては辛いところであろう。仮に内政には目をつぶって、外政面で成果を挙げようとしても、トランプ支持者たちは全然評価してくれないだろう。となれば、「大人になったふり」をしてでも、選挙期間中に切った手形を1個ずつ落としていくほかはない。共和党内でも、「この大統領にはほとほと手を焼くが、それでも8年ぶりの政権復帰の機会を無にするわけにはいかない」との現実論が強まっている。

かくして翌3月1日、大統領の議会演説を好感したニューヨーク市場では、ダウ平均が2万1000ドルを超えて終値で史上最高値を付けた。政策はまだ動いていないのに、期待は着実に米国経済を動かしつつある。米連銀としては、利上げの前倒しに動かざるを得なくなった、ということであろう。

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