記事

豊洲市場移転問題に関する提言 ― 都民ファーストのリスクコミュニケーションを!

1/2

日本維新の会「豊洲・築地問題合同調査チーム」による提言全文(3月9日東京都に提出)

1.はじめに

豊洲市場予定地における土壌汚染対策が混迷を深めている。東京都が築地での再整備に着手してから25年、再整備の困難等から整備方針を転換し、豊洲地区への移転を卸売市場整備計画に明記してから15年が経過し、本来、昨年11月にも閉場し豊洲地区に移転する予定だった築地市場は、昨年8月に小池都知事が延期判断したのを機に、再び先行きの見えない不透明な状況に陥っている。

そうした中、日本維新の会は、本年2月に馬場伸幸幹事長をチーム長、柳ケ瀬裕文都議を事務局長とする「豊洲・築地市場問題合同調査チーム」を発足させ、同月8日に築地市場及び豊洲市場を視察した。その際、馬場幹事長が「移転以外に根本的な解決策はない」と述べたように、私たち調査団は、老朽化した築地市場の豊洲移転こそ「都民ファースト」(小池都知事)であると確信した。

もちろん、東京の卸売市場の整備方針を決定するのは都民に選ばれた都知事であり都議会である。国の法令に違反していない限りにおいては、自治事務である卸売市場の在り方に国政政党が口を挟む余地はない、との指摘があるのも承知している。しかし、石原都政で決定され、猪瀬都政、舛添都政を経て小池都政が引き継いだ豊洲市場の整備方針が、ひとり東京都の問題を超えて、全国の卸売市場に混乱をもたらすなど悪影響が拡がりつつある。

また、豊洲新市場整備方針が掲げる“ゼロリスク”の希求は、結果的に、豊洲地区に続いて築地地区にも甚大な風評被害を撒き散らしている。そもそも“ゼロリスク”を求めれば、土壌中の汚染物質の除去に莫大な費用負担が発生するのみならず、事業者が費用を負担できずに土地が放置されるブラウンフィールド問題に繋がりかねない。汚染が隠蔽される、あるいは調査に踏み切れず逆に汚染が放置される、といった最悪の事態を招きかねない。

そこで、日本維新の会豊洲・築地市場問題合同調査チームとして、豊洲市場及び築地市場の現状について比較分析するとともに、都民の食の安全と安心を実現するために必要な論点整理を行い、卸売市場法の改正も含めた政策提言をとりまとめたところである。真の意味での「都民ファースト」を実現するためにも、小池都知事には、本提言を踏まえ、速やかに豊洲移転を決断されることを期待したい。

2.経緯

私たちが視察を行った日の3日後、2月11日に築地市場は開場82周年の記念日を迎えた。昭和10年2月の開場から一貫して生鮮食料品の安定供給という極めて重要な役割を担ってきた築地市場は、世界最大級の取扱規模を誇るとともに、いわゆる「築地ブランド」とも言われる高い評価を内外から受けるに至っている。

しかしながら、築地市場の施設は昭和10年に建築されたものも多く、私たちが視察を行った際にも建物の一部が破損し剥落している箇所が多数見受けられた。これまでは部分的な改修工事を繰り返すことでやり繰りしてきたが、そもそも築地市場は開放型の構造であるため、風雨の影響も避けられず、商品の品質や鮮度の保持等が困難となっている。

こうした中、東京都は、平成3年に現在地での再整備に着手したが、工事の長期化や整備費の増大、営業活動への深刻な影響など多くの問題が発生し業界調整も難航、平成8年には工事が中断し、平成11年には東京都と業界との協議機関(築地市場再整備推進協議会)が移転整備へと方向転換すべきとの意見集約を行った。

平成13年には、東京都中央卸売市場審議会の答申を経て東京都卸売市場整備計画(第7次)に豊洲移転が明記され正式決定、平成15年の豊洲市場基本構想、平成16年の豊洲市場基本計画、平成17年の豊洲新市場実施計画、平成18年の豊洲新市場整備等事業実施方針が、順次とりまとめられたのである。

焦点の土壌汚染対策については、平成19年設置の専門家会議、平成20年設置の技術会議で検討され、後々の混乱の原因ともなる「豊洲新市場整備方針」が平成21年2月に策定された。平成26年に土壌汚染対策工事が全街区で完了し、平成27年7月には、豊洲市場の開場日を平成28年11月7日とすることまで決定していた。

そして、舛添要一前知事の辞職に伴う都知事選挙において勝利した小池百合子都知事は、昨年8月31日、「都民ファーストに基づいていないものは都民目線で情報を公開し、経緯を明らかにする」等と述べ、1)安全性への懸念、2)巨額かつ不透明な費用、3)不十分な情報公開、の3つを理由に築地市場の豊洲市場への移転延期を正式に表明した。

3.論点(核心的問題の所在)

小池百合子都知事が豊洲市場への移転延期を決めた3つの理由のうち、2)巨額かつ不透明な費用、及び3)不十分な情報公開、の2点については、過去の経緯を含めて、豊洲市場に移転してからでも十分に精査し検証することが可能である。従って、私たちは、1)安全性への懸念、こそ、豊洲市場への移転問題に関する最大の論点であると考えた。

(1)安全基準と安心基準

さて、その安全性への懸念について、日本維新の会の橋下徹法律政策顧問は、当初から、「豊洲ではもともと地下水は飲まない。だから地下水対策は本来不要」(昨年9月20日)等とツイッターを通して指摘。こうした橋下顧問の発言に関し、同年9月23日の定例会見で記者から問われた小池都知事は、「これは総合的な話でございまして、地下水の汚染ということがどれほど生活者にとって影響を与えるのか、安全に対して疑問を抱かせるのか、そのような感性、ということが必要なのではないか」とコメント。

この小池都知事のコメントに対し、橋下顧問は改めて「感性に基づくならば、築地は豊洲よりもよほど危険だろうし、徹底調査が必要だと感じるはずだ。豊洲問題を政局に利用してきたので論理矛盾を起こしている」と喝破したが、日本維新の会としても、安全の問題は、論理で判断すべきものであり、感性で決めるものではない、と考える。

既に3月3日に国会内で開催した緊急会見でも指摘したように、土壌の汚染や地下水の水質に係る規制基準には、3つの基準が存在する。第一は法律上の安全基準=土壌汚染対法、第二は条例上の安全基準=東京都環境確保条例、そして第三が豊洲市場のみに適用されている安心基準=豊洲新市場整備方針である。

注意が必要なのは、土壌汚染対策法と東京都環境確保条例は安全基準であるが、豊洲新市場整備方針は(科学的な安全を超えた)主観的な安心を確保するための基準であり、その科学的根拠は極めて薄弱地下水に環境基準を適用するのは、地下水中の揮発性物質(ベンゼンとシアン)が気化して建物内に侵入するリスクを考えてのことであるが、1)日本では評価方法が確立されていない、2)仮説に仮説を重ねている、3)主観的な安心基準とならざるを得ない、といった指摘が専門家会議でもなされていた。

実は、国の卸売市場法の枠組みにおいても、第10次の卸売市場整備基本方針(平成28年1月14日)及び中央卸売市場整備計画(平成28年4月1日)等に「安心」という用語が使われているが、それらは、あくまでも、原産地表示の徹底、生産履歴情報等の適切な確認・伝達、食品衛生上不良な食品の流通防止に向けた検査体制の充実、生鮮食料品等の入出荷に係るトレーサビリティの確保等により「安心につなげていく」、生鮮食料品等の安全確保により消費者等の「安心につながるように」する、という趣旨である。

昨日8日の衆院農林水産委員会においても、農水省の井上食料産業局長が、中央卸売市場整備計画の当該規定を紹介しつつ、「生鮮食料品等の安全を確保すること、それが消費者の安心につながるという基本的な考え方を示したもの」と明言した通りである。

決して安全基準と別に安心基準があるのではなく、安全についての適切なリスクコミュニケーションの中にしか安心はないのである。焦点の豊洲市場についても、法律上そして条例上の基準は十分に満たされており安全であることを、東京都は、都民に対し、しっかり説明すべきなのである。

(2)東京都の二重基準

そもそも、東京都が豊洲新市場整備方針に規定した安心基準=地下水基準は、豊洲市場には適用されても築地市場には適用されない、いわゆる「二重基準」である。例えば、こうした地下水基準が条例等として制度化されれば、築地市場を含め都内に11ある中央卸売市場のすべてに当該基準が適用されることとなるが、安心基準たる地下水基準は豊洲市場のみに適用されている。

仮に豊洲市場以外の地区に土壌汚染のおそれが全くないとすれば、そうした取扱いも合理的かもしれないが、実際には2月28日、日本維新の会による東京都への情報公開請求を通じて築地市場にも「土壌汚染のおそれがある」という新事実が明らかとなり、追いかけるように東京都建設局がその一部を公表したのである。

豊洲市場の土地は東京ガスの工場跡地であり土壌汚染対策法が求める以上の過剰とも言える土壌汚染対策が講じられてきたが、築地市場の土地についても、第二次世界大戦後に米軍のドライクリーニング工場が建設されていた時期があり、土壌が洗濯用の有機溶剤で汚染されているおそれがあるというのである。

こうした新事実を都建設局が公表した2月28日の夜、小池都知事は「(築地を)豊洲と同じ観点で見るわけにはいかない」とコメント。3月2日の都議会一般質問でも、「(築地市場に土壌汚染があったとしても、)コンクリートやアスファルトで覆われており、土壌汚染対策法などの法令上の問題もない」「人の健康に影響を与えることはない」と答弁した。

しかし、「コンクリートやアスファルトで覆われており、土壌汚染対策法などの法令上の問題もない」のは豊洲市場も同じである。築地市場の土壌汚染が「人の健康に影響を与えることはない」と断言するのであれば、豊洲市場についても「人の健康に影響を与えることはない」と言わねばならないし、豊洲市場で地下水モニタリングをするのであれば、築地市場の地下水についてもモニタリングしなければ、論理が一貫しない。東京都は、11ある卸売市場に一貫した論理を適用すべきである。

(3)安心のためのリスクコミュニケーション

以上、豊洲新市場整備方針が安心を確保するための主観的な基準でしかないこと、更には、それを豊洲市場のみに適用するのであれば「二重基準」との謗りを免れないこと、等を指摘してきた。もちろん、私たちも、科学的基準こそが全て、だとか、安心のための取り組みは不要、等と考えているわけでは決してない。

特に土壌汚染については、大気や水の汚染とは異なり、国民、都民がより大きな不安感や嫌悪感を抱いてしまう理由があるのも事実である。例えば、土壌中の汚染物質は大気中や水中の汚染物質と比べて移動性が低いため、局所的な汚染となり、特別の対策を取らない限り長期間にわたって汚染が続くこととなる。

また、地下にある汚染であるため、地上から目で見て分かりにくい。汚染物質の移動性の低さもあって、工場等の私有地内で土壌汚染が発生した場合、土壌汚染状況調査を行うまで汚染の有無や状態が分からない。情報が公表されなければ周辺の住民も汚染の状況を知る術がない。「目に見えない」という特徴が、リスクへの過剰反応を引き起こすのである。

そもそも、産業活動に伴う有害物質の排出については、水質汚濁防止法によって有害物質を含む水の地下浸透が禁止されたのが1989年、土壌環境基準が制定されたのが1991年であり、それ以前は現在のように対象物質の有害性に注意が払われることがなかった。土壌汚染は、都心であればどこにでもあり得る汚染であると認識すべきなのである。

一方、土壌汚染は、汚染された土壌を人体に取り込む摂取経路を遮断することで、健康への影響を防止することができるという特徴もある。大気汚染などの場合は、汚染が広範囲に拡散する上に、呼吸によって体内に汚染物質が取り込まれるため摂取経路の遮断は極めて困難であるが、土壌汚染の場合には、人への健康影響を防止することができる。

こうした土壌汚染の特徴を踏まえれば、大事なことは、土壌汚染の除去に執着するのではなく、仮に土壌汚染があったとしても、「コンクリートやアスファルトで覆われており、土壌汚染対策法などの法令上の問題もない」「人の健康に影響を与えることはない」(小池都知事)ことを、築地のみならず豊洲についても一貫して説明することなのである。

(4)豊洲市場移転と築地市場再整備等との比較考量

以上のように、土壌汚染に関する適切なリスクコミュニケーションに積極的に取り組んだ上で、最終的に豊洲市場への移転がベターな選択肢なのか、やはり築地市場の再整備がベターなのか、あるいは第三の選択肢があり得るのか、それこそ総合的に検討を行い、最終判断をしていく必要がある。

私たち日本維新の会は、この豊洲市場移転問題に取り組み始めた当初から、実現可能な選択肢を「比較考量」することが重要であると指摘してきた。政治とは、この地球上に存在し得ない理想を掲げて混乱を惹き起こすのではなく、よりよき社会、よりよき地域を目指して、ベターな選択肢を実現していく不断の営みだからである。

本年2月に築地市場及び豊洲市場を視察した際、私たちは「移転以外に根本的な解決策はない」(馬場幹事長)と確信したと述べたが、決して印象論で主張しているわけではない。視察に前後して築地市場及び豊洲市場に関するデータ等を収集し、都議会のみならず国会でも農水省、環境省等を問い質し、それらに基づき東京都への情報公開請求を通じた調査を展開、客観的データに基づいて比較考量を重ねてきた。

あわせて読みたい

「築地市場移転問題」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    証人喚問が"犯罪捜査"という暴論

    郷原信郎

  2. 2

    森友学園騒動の本当の問題は何か

    ニコニコニュース

  3. 3

    籠池氏の印象操作する邪悪な自民

    小林よしのり

  4. 4

    森友問題は国家システムの私物化

    小林よしのり

  5. 5

    森友問題で考えた"FAX"の破壊力

    常見陽平

  6. 6

    官僚の世界における"忖度"の実態

    郷原信郎

  7. 7

    桜を"嫌っていた"明治の日本人

    田中淳夫

  8. 8

    籠池氏「100万円」偽証の可能性

    和田政宗

  9. 9

    格安旅行"てるみくらぶ"が破産

    東京商工リサーチ(TSR)

  10. 10

    久々の"凄玉"カズレーザーの魅力

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。