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地方から広がった土地の「所有者不明化」問題 「所有者不明化」問題から見える土地制度の根本課題(2/3) - 吉原祥子

 

第1回目では、所有者不明の土地について、その大きな原因が相続未登記にあることを指摘した。それでは、こうした問題は全国でどのくらい起きているのだろうか。また、問題の全体構造はどのようになっているのだろうか。

557自治体で「問題あり」

 筆者らは、土地の「所有者不明化」の実態を定量的に把握するため、2014年秋に全国1,718市町村および東京都(23区)の税務部局を対象にアンケート調査を実施した。相続未登記が固定資産税の納税義務者(土地所有者)の特定にどのような問題を生じさせているかを調べることで、間接的ではあるが、「所有者不明化」の実態把握をめざした。888自治体より回答を得た(回答率52%)。

 本調査で明らかになったことは、大きく2つある。順番に見ていこう。

 まず1つは、土地の「所有者不明化」問題は、一時的、局所的な事象ではなく、平時に全国の自治体にその影響が及んでいるということだ。

 土地の「所有者不明化」によって問題が生じたことがあるか尋ねたところ、63%にあたる557自治体が「あり」と回答した。具体的には、「固定資産税の徴収が難しくなった」(486自治体)がもっとも多く、次いで、「老朽化した空き家の危険家屋化」(253自治体)、「土地が放置され、荒廃が進んだ」(238自治体)がほぼ同数だった。

 次に、「死亡者課税」について尋ねた。これは土地所有者、すなわち固定資産税の納税義務者の死亡後、相続登記が行われていない事案について、税務部局による相続人調査が追いつかず、やむなく死亡者名義での課税を続けるもので、146自治体(16%)が「あり」と回答した。納税義務者に占める人数比率(土地、免税点以上)は6.5%だった。「なし」は7自治体(1%)のみ。735自治体(83%)は「わからない」と回答し、所有者の生死を正確に把握することが困難な現状の一端がうかがえた。

このままでは問題の拡大は不可避

 本調査から明らかになったもう1つの点は、このままでは「所有者不明化」問題の拡大は不可避だということだ。

 死亡者課税が今後増えていくと思うか尋ねたところ、「そう思う」もしくは「どちらかといえばそう思う」という回答が770自治体(87%)に上った。その理由を記述式で尋ねたところ、回答は制度的なものと社会的なものに大きく二分された。

 まず、制度的な理由として多かったのが、手続きの煩雑さや費用負担の大きさ等を理由とする相続未登記の増加、自治体外在住者の死亡情報がいまの制度では把握できないこと1、人口流出によって不在地主が増加し相続人情報を追うことが困難になっていく、などだ。

 社会的な理由として挙がったのは、土地の資産価値の低さや管理負担を理由とする相続放棄の増加や、親族関係の希薄化に伴う遺産分割協議の困難化などだ。

 具体的には、「土地の売買等も沈静化しており、正しく相続登記を行っていなくても当面実質的問題が発生しないケースが増えている」、「相続人が地元に残っていない。山林・田畑について、所有する土地がどこにあるかわからない方が多い」、「土地は利益となる場合よりも負担(毎年の税金)になる場合が多いので、相続人も引き受けたがらない」、「過疎地で固定資産の価値も低い上、所有者の子が地元に帰ることがますます少なくなり、固定資産に対する愛着がなくなってゆく」といった記述があった。

 さらに、寄せられた回答の中には、相続放棄によって所有者が不存在となった土地の扱いについて、相続財産管理制度などの制度はあるものの費用対効果が見込めず、放置せざるをえない例が少なくないこと、また、その後の当該土地の管理責任や権利の帰属が、実態上、定かでない点があることなど、制度的、法的な課題を指摘するコメントもあった。

 こうした結果から、人口減少に伴う土地の価値の変化(資産価値の低下、相続人の関心の低下)と硬直化した現行制度によって、「所有者不明化」の拡大がもたらされている、という問題の全体像が徐々に浮かび上がってきた(図1)2

図1 土地の「所有者不明化」問題の全体像(出所:筆者作成)
写真を拡大

 

1:自治体内に住民登録のない納税義務者(不在地主)が死亡した場合、現行制度では、死亡届の情報が当該自治体に通知される仕組みはない。
2:アンケート調査結果の詳細は、東京財団『土地の「所有者不明化」~自治体アンケートが示す問題の実態~』(2016年3月、http://www.tkfd.or.jp/files/pdf/lib/81.pdf)を参照いただきたい。

問題は地方から広がっていた

 こうした相続未登記による「所有者不明化」の拡大は、いつ頃から始まっていたのだろうか。

 前回、紹介したように、国土交通省が行った登記簿のサンプル調査によると、最後に所有者に関する登記がされた年が50年以上前のものが全体の19.8%、30~49年前のものは26.3%に上っている。

 つまり、一世代を30年と考えるならば、一世代以上、所有者情報が書き換えられていない登記簿が全体の半分近くを占めていることになる。相続未登記という現象は、今に始まったことではなく、過去数十年にわたり蓄積されてきているのだ。

 実際、地域レベルで見るとこの問題は決して新しいものではない。相続未登記が、地域の土地利用という公益に及ぼす影響については、一部の関係者の間では経験的に認識され、長年、指摘されてきている。

 たとえば、林業の分野では、1990年代初頭には、森林所有者に占める不在村地主の割合は2割を超え、林業関係者の間では、過疎化や相続増加に伴い所有者の把握が難しくなるおそれのあることが懸念されていた。柳澤(1992)は、急速に高齢化の進む農山村世帯において、都市部へ転出した子ども世代が相続に伴い不在地主となるケースが増え、林業の支障となることを懸念し、次のように述べている。「問題は彼らが所有する大量の土地の行方である」「不在村対策としては迂遠であるようにみえるかも知れないが、今いちばん必要なのは、将来の不在村所有者とのコンタクトではないか。」3

 農業では、各地で慢性的に発生している未登記農地の問題について、安藤(2007)が、「ただでさえ追跡が困難な不在地主問題を絶望的なまでに解決不能な状態に追い込んでいるのが相続未登記であり、これは農地制度の枠内だけではいかんともしがたい問題なのである」と指摘している4

 自治体の公共事業の用地取得でも、同様の問題は起きていた。「用地取得ができれば工事は7割済んだも同じ」と言われるように、用地取得における交渉や手続きの大変さは関係者の間でしばしば指摘されてきていた。

3:柳幸広登(1992)「不在村森林所有の動向と今後の焦点」林業経済45巻8号1-8頁。
4:安藤光義(2007)「農地問題の現局面と今後の焦点」農林金融60巻10号2-11頁。

しかしながら、こうした問題の多くは、関係者の間で認識されつつも、あくまで農林業あるいは用地取得における実務上の課題という位置づけにとどまってきた。たとえば、堀部(2014)は次のように指摘している。「農業経済学にとって農地制度とその運用は、長い間一貫して強い関心を寄せる対象であったが、それはあくまでも農地市場分析、農業経営における農地集積活動の与件としてであり、それ自体は『実務の問題』とされ、ほとんど分析対象とはならなかったのである。5

 関係省庁が複数にわたり、個人の財産権にもかかわるこの問題は、どの省庁も積極的な対応に踏み出しづらいこともあり、政策議論の対象となることはほとんどなかった。それが、近年、震災復興の過程で問題が大規模に表出し、また空き家対策のなかで都市部でも表面化したことで、ようやく政策課題として認識されるようになってきたのだ。

 それでは、なぜ、任意の相続登記がされないことで、土地の所有者の所在や生死の把握が難しくなっていくのだろうか。そもそも、日本では土地の所有者情報はどのように把握されているのだろうか。次回は、所有者不明化問題から見えてくる日本の土地制度の課題を整理し、今後必要な対策について考えてみたい。
 

5:堀部篤(2014)「遊休農地や山林・原野化した農地が多い地域における利用状況調査の取り組み実態」農政調査時報571号29-34頁。

(第3回:3月10日公開予定 へ続く)

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