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まるで機能していない刑事司法

僕は大学は法学部出身。専門科目の中でも刑事法関係は良い成績だった。

卒業後警察に入り、いろいろな部局で働いた。銃器対策課や暴力団対策課など凶悪な犯罪者らと直接対決するいわゆる"強面"部門でも働いた。また、鹿児島県で警察のトップである県警本部長を務めた。

一般の方々には経験できないほど多くの犯罪(容疑)者を見つめてきた自分だが、就職以来約40年間ず~っと一つの疑問を抱えてきた。警察から離れて十数年経つが、今ではその疑問は確信へと近づいている。

刑事法、つまり大学で教える「刑法」、「刑事訴訟法」そして犯罪者の更生や矯正に関する「刑事政策」などが前提とする「社会」と「人」が、いずれも現実の犯罪や犯罪者の実態にそぐわない"絵空事"なのではないかと言う問題である。

刑法をはじめ刑事法体系は、犯罪者に自分の犯した反社会的行為について自覚と反省を迫ることが基本になっている。国家は犯罪者の自覚と反省に対して、矯正と更生の機会や便宜を提供する。「眼には眼を」のハムラビ法典の時代とは目的が異なることを繰り返し強調する。

しかし、メソポタミア文明は論外としても、現代の日本社会は、"レ・ミゼラブル"の時代のように、貧しきが故に自分や家族の食べるパンを盗むような、(悪いことは悪いとしても)同情できる事情で犯罪を犯す犯罪者などは見かけない。

第二次大戦後、生存権などの認識が高まり福祉施策が充実した社会では、真っ当に生きていく考えの方なら生活、教育、医療など各般にわたって様々な公的な支援が提供される。"貧しい(併せて心が弱い)が故に、道徳的罪悪感を感じながらも犯罪に手を染める"という刑事法の前提実態が存在しなくなっているように思う。

社会に蠢く大半の犯罪者たちは、大学で学ぶ法律の想定とはジャンルの異なる人々である。薬物中毒を含めて先天的または後天的に精神に何らかの病いを持つ人か、暴力団などの組織犯罪関係者や職業的常習犯罪者のいずれかだと断言して良いだろう。

こういう人々には、自覚や反省を求めても無理がある。矯正や更生の措置が効果を上げることも期待できない。再犯も減らないばかりか、同じ手合いの"常連の客"が繰り返し警察、裁判所、刑務所の間を行き来するだけの事である。従来の刑法理論が辛うじて適用できそうなのは、家庭内の犯罪や会社犯罪、一部の業務上の故意・過失による犯罪くらいに止まるのではないか?

心を病んでいて刑事責任を問えないケースも話題になるが、そんな状態のまま重大犯罪を犯す時点まで野放しにしてきた社会や行政の側の怠慢こそ見逃すことは出来ない。

昔、学生時代には再犯防止の治療処分などの保安処分は国家権力による人権侵害として強く嫌悪したものである。しかし、却って一般人となった今では、古典的な意味の刑罰権の行使よりも反社会的で危険な存在を社会から隔離すると共に再犯防止のための予防的措置こそが求められていると思う。

被害者補償や被害者・証人保護など刑事関連分野でも新たな課題が広がっている。一方で、犯罪者に対する措置の方は、いつ迄も(司法の一部としての)刑罰権の行使を金科玉条のように考えるのは如何かと思う。医療や教育(の一部)を含めた社会政策の一分野と位置付けるべきではないかと考える。

薬物中毒などを徹底的に治療する医療施設と自立プログラムの国による無料提供が何より必要である。組織犯罪者については、反社会的組織から"足を洗わせる(離脱させる)"方策こそが唯一最大の犯罪者対策である。

現代における「罪を憎んで人を憎まず」の意味は、こういう事ではないかと思う。異論反論も多いと思うが、あえて問題提起させて頂く。

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