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自由貿易を巡る不都合な真実 ~トランプが突きつける自由貿易批判~

スミス/リカード以来の自由貿易論は、実は砂上の楼閣? 

トランプ大統領に「当然の事実」を突きつけられて、世界が当惑している。これまで、世界がある意味で金科玉条のように信奉してきた自由貿易論は、実は、理論的には、砂上の楼閣のように簡単に崩れうる代物だったのではないか、と。ごく簡単に、自由貿易論を巡る歴史的経緯を振り返りながら、その衝撃を改めて確認しておきたい。 

近代経済学の祖とも言われるアダム・スミスの主著『諸国民の富』(1776)が、当時、王室中心に展開されていた「重商主義」への批判の書であることは割と広く知られた事実である。王室が国富の中心を「貨幣」におき、貿易差額等で金銀を蓄積しまくることについて批判を加え、むしろ貨幣ではなく、「貨幣によって買われるもの」=「(究極的には)労働」こそが富であると喝破した。王室経済ではなく、国民経済を称揚することで、市場主義・自由貿易論への道筋をつけたとも言われる。原題を見るだけでも、その雰囲気が伝わってくる。(An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations) 

そんな中、株式仲買人として成功していたある男は、風呂(バス)の語源ともなった都市バースでの保養中に、このアダム・スミスの著作を読んで影響を受け、経済学者に転じたと言われている。その男こそ、今日につながる自由貿易論の基礎を作ったデービッド・リカードである。彼は、世界が自由貿易を信奉する原点となった衝撃的著作を19世紀に入って世に出した。以下の説明は一般に「二財モデル」と言われるが、二つの財からなる世界で交易関係を想定した場合、なんと、両方の財についてA国がB国よりも生産性で上回っていたとしても(A国は「絶対優位」)、互いに相対的に効率の良い財に特化した生産活動を行い、交易をする方が、全体としても両国としても、得であることを証明してしまったのである(比較生産費説/比較優位の理論)。 

その後は、基本的に、このイギリス出身の2人の経済学者の議論がベースとなって歴史は推移した。即ち、超大国は、自由貿易を錦の御旗として世界に押しつけた。当時の後進国であるドイツからは、フリードリヒ・リスト等の反論(「ドイツ関税同盟」などに結実)、つまりは、「自分たちこのままだと一生、ハイテク製品が作れず、役割が固定化する」「自由貿易は先進国のエゴ」との議論がぶつけられた。しかし、役割が固定化して有利になる超大国が「心からの聞く耳」を持つはずもなく、「超大国(自由貿易論)vs 後進国(保護貿易論)」の図式は、時を経て国は変わっても基本的に不変だった。 

ところが、である。トランプ大統領を擁したアメリカは、なんと、超大国が事実上、保護貿易へのシフトを主張するという、驚天動地の挙に出て来ている(現在、アメリカは輸入関税の引き上げなどを真剣に検討している)。理論的には、これまで、超大国が短期的な視点でエゴを振りかざす事態は、あまり想定されていなかったが、現実になった。これは、アメリカが振りかざすもう一つの御旗である「民主主義」と深くかかわっているのだが、紙幅の関係でそこは詳述しない。ただ、いずれにせよ、非常に堅固に見えた正義の御旗「自由貿易論」は、実は、砂上の楼閣かも知れないという不安が、今の世界を覆っているのは間違いない。 

もちろん、同時に、理屈は理屈として、現実的には、貿易と投資で深く複雑に入り組んだ国際的な経済関係は、下手に動かすと互いに傷も深くなるため、そう簡単には崩れない、という期待ももちろんある。現に、トランプ政権も、かなり現実的になってきているという見方もある。今後の動向から目が離せない。 

本来、本論考は、「資本主義を巡る二つの不都合な真実」と題して、「一億総活躍・女性活躍」などが剥き出しにしつつある「市場主義の暗い未来」についても考察を加える予定であったが、紙幅が尽きてしまった。予想外に誕生したトランプ政権対応については、これまで、安倍政権はとてもうまくやっている印象だが(例えば、以下の拙稿を参照して頂きたい:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170215/mca1702150500001-n1.htm)、米国の新政権が生み出す直接的な波乱とは別に、より構造的に、資本主義の根本を揺るがす難しい課題が待ち受けているような気がする。根本から物事を考えて動けるリーダー(始動者)が、混乱の世界・日本の中で、益々必要になる。 

次号以降、どこかで先述の「もう一つの不都合」について書いたり、読者の皆様と議論したりする機会があることを祈念しつつ、とりあえず、筆をおくこととしたい。 

筆頭代表・CEO 
朝比奈 一郎 

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