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上野千鶴子さんの「平等と貧困」~その美しさと偽善~(田中俊英)

■平等と貧しさ

少し前の話題だが、上野千鶴子さんが「みんなが平等に貧しくなればいい」と提起して「炎上」したようだ(上野千鶴子氏「貧しさを受け入れる」発言が炎上 批判の対象とは?)。

人々の炎上の動機はおそらくそれほど深くはなく、「無責任だ」とか「移民の難しさ」など、以前から日本社会でささやかれていたテーマを上野氏が彼女らしく顕在化しただけであり、その行いはある意味賞賛されてもいいと僕は思う。

そうした点を差し引いても、実は僕にはどことなく違和感が漂う。その違和感をたぶん、炎上させた人々もどこかで抱いていると想像する。

上野氏らしい主張を無条件に支持してしまう人々はそれこそ「ポリティカル・コレクトネス」な人々であり、あのアメリカでトランプ政権支持者が過半数いたということを証明できない人々だ。

僕の思想はリベラルだが、上野氏的行為を無条件に支持してしまうことは現代社会のおもしろさと不思議さ(なんでトランプみたいな変なおっさんが大統領になるのか)を看過することになるので、上野氏を支持できない。

また後述するが、上野氏を感覚的に批判することは、自分の中の「ルサンチマン」(自らのコンプレックスを隠蔽すること)を肯定することになるので、哲学好きの僕にはとてもできない。

■貧困と平等は同じ地平で語れない

そもそも、貧困と平等は同じ地平で語れないような感覚が僕にはある。

これは「概念」やコンセプトの領域の問題であり、現代日本人にはとても苦手な分野だと僕は捉えている。貧困とは何か(統計やジャーナリズムの領域ではなく)、平等とは何か(同じく統計でもジャーナリズムでもなく)、それらは「概念」としてどういうものなのか、こうしたそもそも論を語ることは、10代で哲学を学ぶフランス人でもないかぎり、どの国民も苦手かもしれない。

だから、以下に書くことは普通は「はあ?」かもしれないけれども、僕が感じたことを綴ってみる。

それは、「貧しさという概念」と「平等という概念」は同じ地平で語るものか、ということだ。

ふたつの概念は、そもそも同じ地平/オーダーで語れるものだろうか。

これは感覚的なものではあるが、僕には、このふたつは概念的に少し離れた地平にあるものだと思える。

豊かさや貧しさは、それほど思考的に深い概念ではなく、むしろ社会学的あるいは経済学的あるいはジャーナリズム的概念のように思える。こうした学問的基礎付けがあって初めて存在できる概念、それが豊かさや貧しさのように思える。

だが、こうした豊かさや貧しさと違って、「平等」という概念は、もう少し基本的で未来的なな概念のように思える。

そしておもしろいのは、豊かさや貧しさは、「差異」という概念にはかなり近いのではないかということだ。何かと何かの違い、つまり差異は、豊かさや貧しさの根源的説明のことでもある。

豊かさと貧しさはつまり、「差異」のことなのだ。

■「余裕」のある人々へのルサンチマン

けれども、「平等」は一見「差異」概念の亜流のように見えながらもそこからはかなり違い、それは「理想」という、今ここの私とは程遠い、はるか先に設定されているものだ。

そもそも人類は「歴史」が始まって以降、事実として平等ではない。平等ではないからこそ、平等への希求と欲望が生まれる。現代ではその欲望は「ポリティカル・コレクトネス」という技術的な問題に修練されており、説得力を失った。

平等は誰も否定できないものの、すべての人を納得させることができない。だからこそそれは「理想」であり、今現在の私たちからは遠いもの、そしていつでも希求しているもの、そして事実として「差異/貧しさ」があるという次元から程遠い概念だ。

言い換えると、違い(差異)と、平等(理想)はだいぶ離れた地平にある概念だ。

人の概念操作に戻ると、人は、違い(差異)と貧しさは同時に受容できる。

が、平等(理想)と差異/貧しさは同じ地平で受け止められないと思う。

上野氏への違和感の1つは、「平等への安易な信頼」を人々がそこに感じ取っているからだろう。

その安易さと、貧困のリアルへの無知が(その理想主義は美しくもあるが)、人々を感情的にさせたが、その根本は、そもそも貧困/差異と平等(理想)を同時に論じることができる「余裕」のある人々へのルサンチマンだったのではないだろうか。★


※Yahoo!ニュースからの転載

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