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移民の「聖域」ワシントンDC動揺

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

ここ数日、一気に春らしくなったアメリカの首都ワシントンの私の自宅に女性市長のミュリエル・バウザー氏からの一通の手紙が届いた。「この地域のコミュニティーのみなさんへ」と記された書簡はトランプ政権下での移民政策の変更に対してワシントンDC.つまり首都のコロンビア特別区当局は従来の外国出身の居住者保護の政策を続けるから心配しないように、と書かれていた。

アメリカには年来、移民難民に関して「聖域都市」(Sanctuary Cities)という制度がある。各地の市や郡などの地方自治体がその域内では外国からの違法滞在者に対する法的な取り締まりはせず、地域の住民として公的な福祉を供することを宣言する制度である。つまり外国からの違法な入国者、違法な居住者に対しても摘発や送還など法的措置を執行しないという宣言なのだ。違法の難民や移民にとっての治外法権の地域だともいえる。

ワシントンDCもその「聖域都市」のひとつなのだ。日本ではちょっと想像できない制度だろう。なにしろアメリカに違法に入ってきて、違法な居住を続けても、その「聖域都市」内で暮らす限り、少なくともその都市当局の取り締まりは受けないというのだ。移民の国のアメリカならでは措置だといえよう。ニューヨークの港に建つ「自由の女神」の碑文がうたう「戻る祖国なく、動乱に弄ばれた人々を私のもとに送りたまえ」という理念の発露だろう。

しかしアメリカの違法居住者が合計1100万人にも達し、治安や経済や雇用などでの一般のアメリカ人や合法居住の外国出身者たちにも深刻な悪影響が起きてきたいま、この理念も大きく変わってきたわけだ。トランプ大統領が違法滞在者に対して厳格な措置をとることもそんな移民難民の潮流の変化が原因である。トランプ政権はこの「聖域都市」宣言にも反対を表明し、連邦政府資金を供与しないと述べている。

そんな状況下で私のマンションにも届いた市長からの手紙はこれまでの「聖域都市」の基本は揺るがせにしないという方針の通達だった。具体的には

(1)DC当局は居住者すべてに対して入国の違法合法の地位にかかわらず、従来のサービスを提供する

(2)どの居住者もDC当局の緊急救急サービスや犯罪通報サービスをこれまでどおりに利用できる

(3)居住の状態について市当局の管轄下にある警察など法執行機関が調査や取り締まりをすることを阻む

――ことを明記していた。要するに違法居住者もその違法を摘発することはDC市内ではないのだ、という確認の知らせだった。

ワシントンDCの人口は約70万人、そのうち10万人もが外国生まれだという。その外国出身者のなかには当然、違法滞在者もかなりの数、存在することだろう。

このバウザー市長の手紙はもちろんトランプ政権の最近の移民対策などへの対応だといえよう。バウザー市長は民主党の政治家である。またワシントンDCの住民も全体として民主党支持者が圧倒的に多い。だからこの手紙のような動きには共和党のトランプ政権への党派的な反発がからんでいることは自明である。トランプ大統領という異端の指導者の登場は首都ワシントンをもさまざまな形で揺れ動かすのだ。

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