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“原発処理費40兆円に拡大・・・”との東京新聞記事について

 今朝の東京新聞ネット記事では、同紙が政府推計や予算資料を集計したところ、国内の“原発処理経費”は最低40兆円に上ることが判明したとのこと。この記事には誤解を与える部分が少なくないので、細かに事実関係に照らして正誤を見ていく。(記事原文をそのまま引用したのが以下の斜字部分)
・40兆円は国民1人当たり32万円。原子炉や核燃料処理費がかさむのは危険な核物質を処理する必要があるため。自治体補助金も「迷惑料」の色彩が強い。原発の建設・運営費も事故後は安全規制強化で世界的に上昇している。
➡︎原子力発電所に掛る諸経費が「安全規制強化で世界的に上昇している」のは事実。焦点を原発にだけ当てれば、原発関連コストが増えたとの見解は、実に正しい。
 米国のスリーマイル島原発事故(1979年)や旧ソビエトのチェルノブイリ原発事故(1986年)の後も、安全規制強化によって、国ごとに違いはあれど国ごとに原発関連コストは増えてきた。福島第一原発事故(2011年)の後も、日本を含めて多くの原発立地国で原発関連コストは増加している。

➡︎「原子炉や核燃料処理費がかさむのは危険な核物質を処理する必要があるため」とあるが、その必要性については全くその通り。
 だが、ここで言う「処理費」が事後的に加算されるコストだとすれば、火力発電や水力発電その他再生可能エネルギー発電などの原発以外の電源でも、事後的に加算されるコストは相応にある。
 例えば、火力発電全般に係るCO2など温室効果ガスやSOx・NOxなど公害物質による事後的な環境影響対策に要するコスト、水力その他再エネ発電に係る事後的な環境影響対策に要するコストが挙げられるが、これらには電源コストに含まれていないものがまだまだ相当ある。

➡︎「自治体補助金も「迷惑料」の色彩が濃い」とあるが、これは原発に限ったことではない。他の例として、ダムや空港、高速道路、ゴミ処理場など公共インフラの立地・建設に当たっては、こうした「迷惑」を全て含み置いた上で、立地地域の経済社会振興の観点からも、国や自治体の予算が組まれている。
 これらを殊更に迷惑料だと称して批判するならば、その矛先は国民の代表者の集まりである国会やちほ議会に向けられなければならない。
・政府は福島事故処理費を13年時点で11兆円と推計したが、被害の深刻さが判明するにつれ、21.5兆円と倍増。本来は東電が負担すべきものだが政府は原則を曲げ、電気代上乗せなど国民負担の割合を広げている。被災者への賠償金は、新電力会社の利用者も含め全国民の電気代に転嫁され、福島原発廃炉費も東電管内では電気代負担となる方向だ。除染も一部地域について17年度から税金投入(初年度300億円)する。
➡︎「13年時点で11兆円と推計した」のは、想定が甘かったからと言うより、想定の範囲がその時点での政策判断の範囲であったからに過ぎない。いったん推計された負担水準が事後的に増減することは、原発事故処理だけのことではなく、社会保障、国防、教育、公共事業など他の政策領域でも常時発生していることだ。その典型例は『消費増税』である。

➡︎「本来は東電が負担すべきもの」というのは正しくなく、福島第一原発事故後の政治プロセスにおいて本来は国家賠償として負担すべき政府が国家賠償を逃れられたという結果論でしかない。
 「電気代上乗せなど国民負担の割合を広げている」のは、東電の責任ではなく、原子力規制を運用する政府の責任。それこそ本来の原則に立ち返ると、世界共通の常識的な原子力規制運用をしつつ、原子力発電収益から捻出する運用とすれば、『追加費用は発生するが、追加負担は発生しない』ことになる。つまり、「電気代上乗せ」など不要にすることができる。それをしないのは、政治の不作為である。
・1兆円を投入しながら廃止が決まった高速増殖炉「もんじゅ」についても政府は昨年末に後継機の研究継続を決定。税金投入はさらに膨らむ方向。青森県の再処理工場などもんじゅ以外の核燃料サイクル事業にも本紙集計では税金などで10兆円が費やされた。核燃料全般の最終処分場の建設費も3.7兆円の政府見込みを上回る公算だ。
➡︎「もんじゅ」は1997年にナトリウム漏洩事故を起こして以来、不遇に処されてきた。これには様々な要因があるが、政治・行政がしっかりとした対応をしてこなかったことが最大の原因だろう。失政の誹りを免れることはできない。

➡︎「青森県の再処理工場」とは、六ヶ所再処理工場のことだが、これは軽水炉に係る核燃料サイクルを担うものであるので、高速増殖炉「もんじゅ」と結び付けて論ずるのは正しくない。しかし、つい最近までの政府資料においては、軽水炉サイクルと高速炉サイクルを関連させていたので、世間が両者を結び付けて考えるのも仕方ないこと。

➡︎六ヶ所再処理工場は、4年前にアクティブ試験を通過しているので、新規制基準の運用が改善されれば、今すぐにでも竣工はできる状態にある。これは一般に報じられた形跡はなく、また、国会や政府審議会の場で叫ばれたこともない。現政権は、“世論”を読み過ぎている。(六ヶ所再処理工場の早期竣工や原子力発電早期再開を含めた原子力正常化を政治判断すると、支持率は一瞬落ちるかもしれないが、一週間もすれば回復するだろう。)

➡︎「青森県の再処理工場など・・・税金などで10兆円が費やされた」とあるが、軽水炉サイクルの開始による化石燃料コスト削減効果だけを見ても、十分にお釣りが貰える計算になる。もちろん、竣工を遅らせる分だけ損は出るので、早期の竣工が望ましいことは言うまでもない。

➡︎「核燃料全般の最終処分場の建設費も3.7兆円の政府見込みを上回る公算」とあるが、仮にそうだとしても、事後的な費用の増加は適宜対処していくしかない。現実の政治・行政は、常にその繰り返しである。
・自治体への補助金も電気代に上乗せする電源開発促進税が主な財源。多くの原発が非稼働の現在も約1400億円(15年度)が予算計上されている。
➡︎この補助金の多寡はどうであれ、この補助金が減ったり無くなったりした場合にどうなるか、記事では全く述べていない。この補助金は、立地地域と国の間の約束事。そう簡単に止めるわけにはいかない。この類の報道に言えることだが、批判するだけしておいて、解決策への提言は一切ない。批判するだけなら誰でも楽にできる。
・大島堅一立命館大教授によると1kWh当たりの原発の発電費は安全対策強化で上昇した原発建設費も算入すると17.4円と、水力(政府試算11.0円)を6割、液化天然ガス火力(同13.7円)を3割上回る。原発を進める理由に費用の安さを挙げてきた政府の説明根拠も問われている。
➡︎この話については、昨年12月20日のBSフジ・プライムニュースで山本拓・衆議院議員や大島堅一・立命館大学教授とスタジオで議論した際にも若干申し上げたが、
  ①費用計算結果は、費用計算前提でどうにでも変わること、
  ②原発関連コストの前提だけを広げるのは、比較対象を恣意的に歪めるので不適切であること、
  ③火力コストには、計算し切れていない将来の温暖化被害コストが含まれていないこと、
  ④火力や水力には落命など被害コストや他の事後コストが含まれていないこと
等々のことから、日本では既設原発が最も安いことには変わりない。

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http://www.bsfuji.tv/primenews/text/txt161220.html

➡︎「原発を進める理由に費用の安さを挙げてきた政府の説明根拠も問われている」とあるが、原子力だけでなく、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)、水力その他再エネ(地熱、バイオマス、風力、太陽光など)に関しても、同じように説明根拠を問う必要がある。
 この場合、①事故時の避難コストでは原子力は大敗し、②発電単価当たりの落命数からは水力と石炭が大敗し、③低廉安定供給能力の観点からは太陽光と風力は大敗する等々になるだろう。下表と同じようなものを原子力以外の電源についても試算してみるとわかるだろうが、当面の日本では、原子力発電コストが最安値となることは間違いない。

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2017.2.26 東京新聞ネット記事

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