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中国新興財閥の悲哀 - 澁谷 司

 中国では有力政治家と特別な関係がなければ、ビジネスで成功することは難しい。多くの新興財閥は、共産党幹部の権力をバックにしてのし上がって来た。党と財界は“癒着”していると言っても過言ではない。

 王丹が喝破したように、その新興財閥らは党内の権力闘争に巻き込まれて、悲劇的な末路を辿る場合がある。2010年代以降に発生した幾つかの事例を挙げてみたい。

(1)薄熙来と大連実徳集団の徐明

 2012年2月、重慶市党委員会書記だった薄熙来は、部下の王立軍(同市の公安トップ)が「米成都領事館逃亡事件」(同年2月)を起こしたため、翌3月に失脚した。結局、2013年9月、薄熙来は無期懲役の判決を受け、翌10月、その刑が確定している。

 新興財閥の徐明は薄熙来が大連市長・遼寧省長等を歴任している間に、密接な関係を築いた。薄と手を組む事で、中国の10大富豪にのし上がっている。

 徐明は薄熙来一家に2100万人民元(約3.4億円)を拠出した。また、徐は薄が中国のスター、章子怡らと交際した時にも出費した。

 薄熙来と妻、谷開来との間には薄瓜瓜という一人息子がいる。瓜瓜は米ハーバード大学ケネディ・スクール(大学院)へ行った。この瓜瓜へ学費等を援助していたのが徐明である。

 その後、徐明は2013年に「経済犯罪」で懲役4年の判決を受けた。そして、2016年9月11日で刑期が満了する予定だった。

 ところが、徐明(44歳)が、2015年12月4日、突然、湖北省武漢の刑務所内で謎の獄死を遂げた。徐明の死因は急性心筋梗塞だったという。だが、徐明には心臓疾患などの病歴はなかった。そのため、誰かに殺害されたのではないかと疑われている。

(2)令計劃と方正集団の李友

  胡錦濤主席の側近だった令計劃はかつて党の脳中枢とも言うべき中央弁公庁主任を務めた。その任期中、令計劃に悲劇が襲った。2012年3月18日、息子の令谷が北京でフェラーリに乗っている最中、事故を起こして即死した。いわゆる「黒いフェラーリ事件」である。その際、令谷は2人の女性を乗せていた。事件当時、その2人は奇跡的に生き残った(だが、1人の女性は、その後、しばらくして死亡している)。

 令計劃は、カネで事件をもみ消そうとした。また、死亡した女性の遺族に多額の見舞金を支払った。そのカネは方正集団のCEOだった李友が支払っている(その他、中国石油天然气股份有限公司<PetroChina>の蒋潔敏・董事長もカネを出している)。

  令計劃は、昨2016年7月に無期懲役の判決を受けた。一方、李友は、同年11月、4年6ヶ月の実刑判決を受けている。

(3)馬建(国家安全部副部長)と北京政泉の郭文貴

 2008年8月の北京オリンピック開催時、その準備のため王岐山は2003年に北京市長となった。

 その時、北京盤古氏投資有限公司・北京政泉控股有限公司(ホールディングス)代表、郭文貴は、馬建(2016年12月、党籍剥奪される)と組んで、北京市副市長だった劉志華(2006年に失脚)に便宜を図ってもらった。

 そして、郭は、北京摩根(モルガン)投資有限公司を通じて、巨額の利益を得たと言われる。北京五輪準備段階で、当時、王岐山北京市長は郭文貴や李友とかなり親密な関係だったという。

 なお、現在、郭文貴は米国に逃亡していると言われる。

(4)「明天系」蕭建華

 今年(2017年)1月27日(旧暦大晦日)、中国有数の大富豪、蕭(肖)建華(45歳)が、突如、香港のフォーシーズンズホテルから失踪した。

 蕭建華は、15歳の時、同省泰安市で成績トップとなり、北京大学法律系に合格した。蕭建華は卒業後、「明天系」の会社を設立した。現在、蕭は9つの上場会社を保有している。蕭の個人資産は、1000億元(約1.6兆円)は下らないという。

 さて、なぜ蕭建華が中国当局によって香港から拉致されたのか。

 一説には、習近平の親族の会社を買収したため習近平の怒りを買ったとも言われる。仮に、蕭が習近平主席に近ければ、拉致されることもなかっただろう。

 実は、蕭建華は1989年の「民主化運動」の際、北京大学学生会の主席、全国学連副主席等を務めていた。だが、蕭建華は、1990年、北京大学卒業後、大学に残り、中国共産党委員会学生工作部で働いた。

 1993年、蕭は、北京北大明天資源科学技術有限公司を立ち上げた。そして、1999年には、蕭建華は明天ホールディングスを設立している。その後も、蕭はビジネスを順調に拡大していった。

 高文謙(周恩来研究者)の指摘によれば、蕭建華は中国国家財政の一部を穴埋めするために利用されたとも考えられる。
澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)等多数。

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