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『産経』の「慰安婦」報道こそ捏造そのもの(吉方べき)

『産経新聞』は、『朝日新聞』が「吉田証言」のウソをばらまいたため、「慰安婦」が「強制連行されたと世界で誤解された」と批判している。だが、このような批判こそ捏造そのものなのだ。

産経新聞出版刊の『歴史戦 朝日新聞が世界にまいた「慰安婦」の噓を討つ』の第1章「朝日『慰安婦』報道が犯した罪」は、『朝日新聞』が、韓国・済州島で女性を強制連行したという故吉田清治氏の証言を取り上げていなければ、「慰安婦」問題の争点化はなかったとの前提の下に、論を進めている。そこでは「かつて1人の男の作り話が、これほど日本の国際イメージを損ない、隣国との関係を悪化させたことがあっただろうか」などとも述べられている。だが、その前提自体が虚構から出発しているのだ。

ここで確認すべき事実は、次の通りだ。まず、『朝日新聞』報道をきっかけに、吉田氏が韓国で注目された経緯はない。そして吉田氏の証言内容は、韓国側の問題意識を変化させるような性格のものではなかった。故に、「吉田証言」が否定されようがされまいが、「慰安婦」問題の枠組みには影響しない。

吉田氏が、「慰安婦」強制徴用に関わった人物として初めて韓国紙で言及されたのは、本人が「謝罪碑を建てたい」と韓国側に働きかけたのが契機だった。またいわゆる「吉田証言」が報道されたきっかけも、『朝日』とは無関係だ。吉田氏は1984年、タイ在住の元「慰安婦」、盧壽福氏が韓国へ一時帰国することを知り、「罪の意識に駆られて」訪韓した。そして同年5月27日、吉田氏の「『慰安婦』狩り」証言が、帰国中の盧氏への注目に乗ずる形で放送されることになる。

しかし吉田氏の証言が当時、新事実として注目された形跡はない。その後、1990年8月10日に、韓国KBSが「光復45周年特別企画」として放送した「慰安婦」特集番組でも、数多くの日本側証言が取り上げられる中、吉田氏は登場していない。「慰安婦」問題を「韓国女性史に影を落とす20世紀最大の事件」と告発した同番組で、吉田氏の証言は必要とされなかったのである。

崩れ去ったプロパガンダ

そして1991年8月15日、金学順(キム・ハクスン)氏による実名会見のスクープをものにしていた『北海道新聞』が、その余勢で吉田氏の単独インタビューを11月22日付で掲載する。これを同紙記者と親交のあった『東亜日報』特派員が、韓国に転電。他紙も追随し、吉田氏の「懺悔」が初めて証言として本格的に注目を集めることになった。

この時期は、「慰安婦」制度の日本政府関与を「当然の事実」と考える韓国側に対し、日本側が認めない態度で一貫していたため、責任立証のための証言や資料が待ち望まれていた。吉田氏の証言はしばらくの期間、元「慰安婦」の証言を別の角度から裏付けるものとみなされたのである。

一方、筆者が『週刊金曜日』2015年4月10日号「『「朝日」捏造説』は捏造だった」で解説した通り、韓国で「慰安婦」は強制されたとの認識に基づく記事は、1970年代以前の新聞でも確認できる。また日本でも、1974年刊のサンケイ新聞社出版局『誰も書かなかった韓国』、82年3月1日の日本テレビ番組「女子てい身隊という名の韓国人従軍慰安婦」など、「吉田証言」以前に韓国の「慰安婦」強制徴用の言説が詳細に取り上げられていた。

そうした日本側の関心が、韓国側に認知され、時に高く評価されていたことも分かっている。現在に至るまで、強いられた「慰安婦」という認識が変わらないのは、それが長年蓄積してきていた言説や、盧氏やそれ以降に韓国で名乗り出た元「慰安婦」らの証言に基づくものだからであり、「吉田証言」が根拠とされているからではない。まして現在の議論の重点は、「強制」かどうかといった「連行」の形態にあるわけではない。

さまざまな出来事を徹底的に無視しながら、「慰安婦」問題自体が「吉田証言」や『朝日』によって創られたかのように印象操作する『産経』――。同紙の報道は、都合の悪い歴史問題を『朝日』もろとも闇に葬ろうとのプロパガンダにすぎない。この虚妄は、歴史修正主義の安倍政権には感謝されても、国際社会はもちろん、後世の評価にも堪えられないだろう。
(よしかた べき・ソウル在住、言語心理学者。2月17日号)

※『週刊金曜日』2月17日号では、上記記事に加え、『産経』の「捏造記事」一覧や「南京大虐殺」「東京裁判」報道の問題点など『産経』の問題点を詳しく報道している。

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