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大慶市民によるアルミ製錬工場建設反対運動 - 澁谷 司

 中国黒竜江省の大慶市は、かつて「大慶油田」で栄えた都市である(同地は、当初、安達市と命名されたが、1979年に、現在の大慶市へと名称が変更されている)。

 1959年9月、同地で油田が発見された。当時、建国10周年に近かったので、「大慶油田」と名付けられた。

 翌1960年から63年にかけて、「大慶油田」の発掘が行われ、63年から石油生産が始まった。一時、年間5000万トンの石油生産量を誇った。そして、石油を日本へ輸出していた時期もあった。現在でも操業は続けられているが、かつての面影はない。

 時が移り変わり、2011年、大慶市政府は、同市に民間企業の中国忠旺ホールディングスによるアルミ製造工場誘致を決定した。工場の敷地面積は13平方キロ、総投資額は460億元(約7360億円)に上る。

 中国忠旺は、1993年、劉忠田(現、董事長<理事長>)によって遼寧省遼陽市に創立された。中国忠旺は、世界第2位、アジアでは最大のアルミ製品メーカーである(2009年5月、香港証券取引所へ上場)。

 もし、中国忠旺のアルミ工場が稼働すれば、年間200万トンのアルミ製品やアルミ加工製品の製造が可能となる。大慶市政府は、アルミ工場建設で3万人の雇用が創出されると試算している。

 今年(2017年)早々、中国忠旺の工場建設工事が始まった(来年には工場の創業開始予定していた)。但し、その工場建設にあたり、大慶市政府及び中国忠旺から、市民に対し、一切の説明がなかったという。

 昨今、中国では、環境問題に対する意識は徐々に高まりつつある。よく知られているように、同国では、PM2.5をはじめとする大気汚染が深刻である(大気汚染以外にも、水質汚染や土壌汚染も同時に悪化している)。

 大慶市政府は、中国忠旺の工場設備は世界基準に達し、環境問題を引き起こさないと自信をのぞかせていた。だが、大部分の大慶市民は、市政府の言葉を全く信じていなかったのである。

 実際、工場の建設予定地は、多くの大慶市民らが住むマンションから1キロも離れていない。また、同地は生活水源地にも近い。

 普通、アルミはボーキサイト(2014年、中国の生産量はオーストラリアに次ぎ、世界第2位)から製錬する。その際、粉塵が大気中に放出される。すると、塵肺(“ボーキサイト肺”等)で、健康被害を及ぼす可能性がないとは言い切れない。

 そこで、今年2月14日、大慶市民は市政府の前で、大規模な抗議デモ(1万人以上と言われるが、1000人説もある)を起こした。市政府側は、公安や武装警察を使って、デモを弾圧している。

 ところが、翌15日、一転して、中国忠旺は工場建設を中止すると発表した。

 この忠旺の決定は、大慶市での工場建設再開のため、一旦撤退すると見せかける戦術なのか、それとも、同市での工場建設を諦めて本当に全面撤退するのか、現時点では定かではない。

 大慶市政府としては、中国忠旺の工場建設に期待していたはずである。特に、中央から派遣されて来た党幹部は、当地のGDPの伸びで、出世が決まる。そして、彼らは数年も経てば、別の省市へ赴任してしまう。そのため、工場建設に伴う住民の健康被害に関心を払うことは殆どない。

 ところで、昨2016年3月、米国商務省は、中国忠旺に対して調査を行い、同企業が米国の関税を逃れるため、アルミ製品をメキシコ経由で米国へ輸出していると非難した。

 一方、同年8月、中国忠旺傘下の忠旺米国投資公司(Zhongwang USA)が米国のアルミ圧延製品研究開発製造大手のアレリス社(Aleris。本社はオハイオ州クリーブランド市)を正式に買収すると発表した。

 中国忠旺は、有利子負債など合わせて23億米ドルあまりを投じ、翌17年を目処に完全子会社化すると伝えられた。アレリスは、中国忠旺ホールディングスのグループに入る。

 アレリスは、世界に14の工場を持ち、年間30億米ドルの売上がある。また、米軍の兵器製造にも関与している。

 同年11月、米上院議員12人が、中国忠旺によるアレリス買収は国家の安全の根幹に関わるとして、米国連邦政府にこれを阻止するよう書簡を送った。

 その後、ホワイトハウスが中国忠旺のアレリス買収に対し、どのような決定を下したのか不明である。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)等多数。

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