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日米首脳会談、火中の栗を拾った安倍首相

今回のテーマは「火中の栗を拾った安倍首相」です。日米首脳会談では、ドナルド・トランプ米大統領の安倍晋三首相に対する破格の待遇が顕著に現れていました。両首脳はワシントンからフロリダ州へ大統領専用機で移動し、その後2カ所のゴルフ場で27ホールを一緒に回り、2日連続の夕食会も共にしました。本稿では、この待遇に隠されたトランプ大統領の意図を中心に述べていきます。

ダメージコントロール

 破格の待遇の背景には少なくとも3つの意図が隠れています(図表1)。第1に、トランプ大統領は孤立していないリーダーを演出してダメージコントロールを行う必要があったのです。同大統領が署名した例のイスラム圏7カ国からの入国一時禁止の大統領令に関する政権側の主張は、控訴裁判所で退けられました。同大統領にとって敗北です。

 さらに、ヨーロッパ各国の政治指導者が上の大統領を非難しています。しかも、トランプ大統領は隣国メキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領と良好な関係を築くことができていません。正に孤立状態にあったのです。そのような状況の中、唯一同大統領に好意的な安倍首相がホワイトハウスを訪問したのです。同大統領は同首相との蜜月ぶりを演出して、自分を熱烈に支持する政治指導者が存在するというメッセージを全米及び全世界に発信して、外交でポイントを稼ぐことによってダメージコントロールをしたのです。

雇用創出のお客様

 第2に、トランプ大統領にとって日本は雇用創出のための同盟国であるという位置づけだからです。率直に言ってしまえば、安倍首相は雇用を創出してくれる大口のお客様なのです。

 では、どのようにして日本を活用して雇用を拡大するのでしょうか。トランプ大統領の狙いは、日米安全保障条約第5条の尖閣諸島適応を取引材料にして、熱烈なトランプ支持の白人労働者がいる中西部に工場を新設することにあります(図表2)。それに加えて、日本企業のメキシコにある生産拠点の撤退と中西部への移転です。同大統領は、安全保障と経済をセットにして取引を行うので、結局、尖閣諸島を守るために、日本の自動車メーカーや部品メーカーにしわ寄せがくるわけです。

 今回の日米首脳会談では在日米軍駐留経費の増額にトランプ大統領は言及しなかったと言われています。なぜでしょうか。トランプ大統領は、駐留経費の件で日本に譲歩したと言いたいのです。尖閣諸島と同様に、駐留経費も取引材料にして交渉してくる可能性があります。

 日米首脳会談後に行った米加首脳会談における共同記者会見でトランプ大統領は、フォードの国内投資及びGMの工場新設を賞賛しました。同大統領は、日本側が経費負担のみならず経済においてもフォード及びGMに習って「お手本」になるように迫ってくる可能性は否定できません。

 フロリダ州のゴルフ場ですでに上で指摘した取引があったのか、今後情報がリークされていくでしょう。仮になかったとしても、トランプ大統領は尖閣及び駐留経費を交渉における取引材料にして、経済問題を有利に進めて行くことは確かです。

トランプループ「安心」の段階

 第3に、トランプ大統領は安倍首相を厚遇し、「ノー」と言わせない環境を作るためです。同大統領は、選挙期間中から在日米軍駐留経費の増額及び貿易不均衡の是正を求め、日本の為替政策に対しては口先介入をしてきました。さらに、ツイッターを使ってトヨタ自動車を標的にしてメキシコに工場を新設しないか、それとも高い関税を支払うのかの二者択一を迫りました。ところが、今回の日米首脳会談では安全保障及び経済に関して日本に対する痛烈な批判はありませんでした。トランプ大統領の日本に対するアプローチは、メキシコに対するそれと類似したところがあります。

 周知の通り、トランプ大統領は国境の壁を建設して、メキシコ政府にその費用の全額を支払うように要求しました。その後、ペニャニエト大統領との会談はキャンセルになりましたが、電話会談を行って対話を継続していくことを確認しました。これがトランプループの罠です。

 無理難題を交渉相手に押し付け、いらいらせるのですが、その後で一旦相手を「安心」させます。「トランプの電話に隠された意図」で説明しましたトランプループの「安心」の段階に日本は入っているとみてよいでしょう。この段階を経ると、トランプ大統領から本格的に要求が出てきて、日本はそれに翻弄され、外交の主導権を完全に握られていきます。

トランプの非言語コミュニケーション

 今回の日米首脳会談は、トランプ大統領のハグ、握手及び表情といった非言語コミュニケーションが印象的でした。同大統領が安倍首相とハグをして出迎えた理由は上で述べた第1と2に拠るところが大きいと言えます。

 次に握手です。握手の種類には、堅実型、無力型、強烈型、指触型及び過剰型があります(図表3)。堅実型握手は、互いの手の付け根まで深く入れて堅く握り、上下に2、3回振ってさっと引きます。堅実型は自尊心と相手に対する敬意を示しており、適切な握手の仕方です。

 日本人に多い無力型握手は、自信がないというメッセージを相手に送ります。そう言われて、堅く握り過ぎると強烈型握手になってしまいます。指先だけで握手をする指触型及び右手で握手をしながら左手で相手の腕をつかむ過剰型も不適切な握手です。

 余談ですが、米大統領選挙期間中、筆者はバラク・オバマ前大統領と3回、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事と11回、ヒラリー・クリントン前国務長官と4回、ビル・クリントン元大統領、娘のチェルシーさん、クリス・クリスティニュージャージー州知事(共和党)とそれぞれ1回握手を交わしたことがあります。オバマ大統領の握手は堅実型というよりもソフトで暖かみがありました。クリントン前国務長官も比較的柔らかい握手をします。夫のクリントン元大統領は堅実型です。では、娘のチェルシーさんはどうでしょうか。2016年民主党候補指名争いの最中、ミシガン州デトロイトにあったクリントン選対を訪問したシェルシーさんと握手をしましたが、父親のクリントン元大統領と同じ堅実型でした。

 一方、ロムニー元知事の握手は堅実型で、しかも手のひらに余韻が残ります。クリスティ知事の握手は、日本人の筆者にとって強烈型で早く手を離してもらいたいと思ったほどです。

 さて、日米首脳会談では、トランプ大統領と安倍首相は約19秒握手をしました。安倍首相を笑顔で見つめる同大統領の表情に親しみを抱いた日本人も少なくなかったでしょう。ただ、同大統領の仕草から心理的な側面が見えてきます。

 まず、トランプ大統領は握手をしている安倍首相の手をポン、ポンと叩き、自分の左手をその上にのせました。そこには相手を支配ないしコントロールする意識を読み取ることができます。同大統領の握手をしながら自分に引き寄せる動作も看過できません。この動作には自分が主導権を握るという意識が現れています。日米首脳会談とは対照的に、米加首脳会談ではカナダのジャスティン・トルドー首相とトランプ大統領は堅実型握手をして、「同等」な関係をアピールしています。

「価値外交」はどこに行ってしまったのか

 日米首脳会談における共同記者会見で、外国人記者が安倍首相にトランプ大統領が署名したイスラム圏7カ国からの入国一時禁止に関する大統領令について意見を求めました。同首相は「内政問題」としてコメントを回避したのです。一方、米加首脳会談でトルドー首相は、大統領令を「内政問題」としながらも難民受け入れの重要性を強調したのです。

 トランプ大統領の大統領令は内政問題ですが、その一方でイスラム圏7カ国からの入国一時禁止はグローバルな争点になっていることも確かです(図表4)。日本が民主主義、自由及び平等といった価値観に基づいた「価値外交」を展開するならば、共同記者会見での質疑応答で全世界の人種、民族及び宗教を含めた文化的多様性の必要性について言及するべきでした。そうしなかった日本は、すでにトランプ大統領の「取引外交」のループに嵌ってしまったのです。

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