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トランプの移民政策をめぐる「ウーバー」と「リフト」の争い 企業の人気取りマーケティングにだまされてはいけません - 佐久間 裕美子

 1億人を軽く超えるアメリカ人が、テレビにかじりつく年に一度の大イベントだけあって、試合中のコマーシャルに30秒で500万ドル(6億円相当)の値が着くアメリカン・フットボールの「スーパーボウル」。アメリカを代表する大ブランドたちが、総力を上げて競う日なのだが、今年は若干例年と様相が違っていた。

 バドワイザーは、ドイツからの移民だった創業者が、よそ者扱いされながらアメリカでビール醸造の夢を追いかけるストーリーを描き、コカ・コーラは2014年に作った「アメリカ・ザ・ビューティフル」を多言語で歌うCMを再び放映した。建築資材会社84ランバーは、アメリカを目指す移民の母娘の旅を描いたショートフィルムの冒頭部分を放映し、最後に「結末は」と特設サイトのURLを載せた(余談だが、84ランバーのCEOは、スーパーボウル翌日に、トランプ大統領が提唱するメキシコの壁建設に賛成であることを明らかにした)。


スーパーボウル当日のスタジアム周辺でも、トランプの移民政策への抗議行動が見られた ©getty

 製作の準備などを考えると、CMの内容は以前から準備されていたに違いないのだが、トランプ大統領が就任直後に出したイスラム教国7カ国の入国を禁止する行政令の合憲性が、裁判所で争われる中、奇しくも移民問題をめぐる議論に、大企業のCMが意見を差し挟むような格好になったわけだ。

 そもそもその数日前から、このトピックについて考えていたのは、この入国禁止令をめぐるサブストーリーのひとつに、「UBER(ウーバー)と「Lyft(リフト)」というふたつの配車アプリの戦いのエピソードがあったからだ。

「#UBERアカウントを削除せよ」という抗議運動が勃発


 きっかけは、入国禁止令が発せられた翌日、ニューヨークのJFケネディ空港で勃発したデモである。中東にルーツを持つ運転手の多いタクシー業界で、イエローキャブの従業員団体がストを行っている最中だった。車の需要が増すと料金も上がるシステムを採用するUBERのニューヨーク支部のツイッター・アカウントが、割増料金から通常料金に戻したことを発表。「ストの妨害だ」と批判され、「#deleteuber(UBERアカウントを削除せよ)」という抗議運動が勃発した。

 このタイミングで競合のLyftがすかさず、今回の行政令が違憲だと連邦裁判所に申し立てをしている米国自由人権協会(ACLU)に100万ドルを寄付することを発表したものだから、Lyftは一気に新規のユーザーを獲得し、ナンバー1の配車アプリに躍り出た。UBERのトラヴィス・カラニックCEOは、緊急の危機管理措置として、一連の移民法改革で影響を受けるドライバーたちの裁判費用などとして300万ドルの資金を用意したと発表し、自身もトランプ大統領の経済諮問委員会から辞任した。

 この事件が起きる前から経済諮問委員会への参加が批判されていたカラニックCEOは、現政権と直接的な関わりを通じて移民法の改革に携わっていく意思を示していたが、結局は、消費者と従業員からのプレッシャーに譲った形だ。ボイコット運動の当事者たちは、これをひとつの勝利として喜んだけれど、トランプ支持者として有名な投資家カール・アイカーンがLyftに1億ドル投資していたことがわかり、事態はそんなに単純ではないことが明らかになった。


©iStock.com

「トランプ不支持」というスタンスの裏には?


 移民の労働力への依存度が切実に高いテック業界には別の思惑があるとしても、企業がトランプ政権やその方針に反対するスタンスを示す裏には、マーケティング効果があることは否定できない。トランプ大統領を支持した層からの反発やボイコットなどを差し引いても、これだけ話題になれば宣伝効果は抜群である。

 とはいえ、極端な行政に企業が「NO」を突きつけることは心強くもある。女性の権利拡大も、LGBTQ人口への差別撤廃も、アメリカ社会が目指してきた「平等」は、こうしたアメリカ企業の商魂によって後押しされてきた側面もあるから、商売=悪とも決めつけられない。

 いずれにしても、今回の騒動が、アクティビズムが商売になる時代の到来を告げていることは確かなようだ。けれど、ここに登場した企業へのトランプ支持層からの反発を見るかぎり、アクティビズムの体裁をとったマーケティングは、トランプ支持者とリベラルの断絶を広げはしても、閉じる結果にはならないだろう。

 消費者としては、自分の価値観に近い価値観を標榜してくれる企業にお金を使いたい、と思うのは当然のことだ。けれど同時に、商品のバーコードをスキャンするとその企業の情報がわかる「バイコット」というアプリを使うと、自分が遣うお金の行き先は、想像以上に複雑に入り組んでいることがわかって呆然とする。ますます、消費者としては企業の人気取りマーケティングに踊らされず、何層にも重なるレイヤーに気を配りたいものだ。

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