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トランプより女優の出家 「平和な日本」を担った首相の訪米 ~プロの偽善者に拍手~ - 山本 一郎

 安倍晋三首相が訪米してトランプ大統領との旅程が終わった翌日、朝のテレビに出させていただく機会があったのですよ。日米首脳会談、それも首相だけでなく、麻生太郎副首相はペンス副大統領と、また岸田文雄外相はティラーソン国務長官と会談したってことで、ほぼマンツーマンディフェンスのような大掛かりな外交だったもんで、てっきりトップニュースなのかなと思ってたんですよね。

 で、蓋を開けてみたらトップニュースが女優・清水富美加の芸能界引退とまさかの幸福の科学への出家話。次いで無断で線路に侵入し書類送検された松本伊代さんと早見優さんの謝罪の話、芦田愛菜が高偏差値中学に猛勉強で合格した中学受験成功話で、安倍首相の訪米がなんと4番目のニュース。

 最初、本当にこれでいいのかと悩むわけですよ。もちろん、番組の構成上「こうなのだ」と言われれば「そうですね」と申し上げる立場ですが、これって大事なニュースのように思うんですけれども。ただ、報じられる映像を観ますと「ああなるほど」と感じたのは、単純にとてもうまくいった外交だからでした。何というか、文句のつけようがない。何ゴルフしてるんだとか、距離が近すぎるとか、トランプ流の握手はマウントじゃないかとか、安倍首相が帰国後のトランプ公式ツイッターに「L」という文字があってこれは“Loser”(負け犬)って意味じゃないのかとか、そういう言いがかりぐらいしか思いつかないわけです。

例のトランプのツイッター

 これが「トランプ大統領、安倍首相の訪米を一蹴」とか「シンゾーアベ、お前はクビだ」なんて事態になれば、むしろ「女優の出家」なんて吹っ飛ぶ話です。外交なんて国益を大事にしつつ相手との友好を演じるという、ある種の「偽善」や「駆け引き」を駆使しなければならない。そして、日本の最大の国益は平和であることですから、平和にトランプ大統領とゴルフをした安倍首相、なんてニュースがトップに来ないのも仕方がないのだろうな、と。平和を守るために営業スマイルを保ち、偽善的にふるまうことのできる指導者は大事だと、心から感じます。ここでトランプ大統領にうっかり「日米は対等な関係だと認めろ」とか言ってしまう指導者を戴いていなくて良かったです。マジ切れして「帰れ」とか言われそう。

 そりゃあ政治を取り扱うのに、視聴者の混乱や悲しみや怒りが伴わない「うまくいっているネタ」は数字が取れないのだろうなあ、面白くはないものなあ。そして、朝の時間帯の情報バラエティはだいたい同じような構成であったことが分かって、これが平和な国日本のニュースの特徴なのか、と改めて感じたわけであります。

なんですかこのBL紛いのラブラブぶりは

 もちろん、外交面でいろいろな情勢分析が進んで、日米関係がどう進展しそうかということは注目の的になっております。繰り返し報じられている通り、今回の安倍首相は政治的な経験の乏しいトランプ大統領としっかり関係を築き、日米の信頼関係を強くアピールする、というニーズは見事に達成されました。尖閣諸島への協調も言葉上はしっかりと取り付け、訪米日程中にまるで祝砲のような北朝鮮からのミサイル発射で安倍首相の単独記者会見のはずがトランプ大統領も横に立って強いメッセージを与えようとするなど、なんですかこのBL紛いのラブラブぶりは、とまで感じるものでした。

©getty

 最初は狂人を演じて着地点を有利に進めたい「マッドマン・セオリー」ではないかとか、言葉を二転三転翻す外交話法に過ぎないなどの言説も多数ある中で、絶対値としての日米関係はまあとても良好な出だしということで良かったのではないでしょうか。意気揚々と現地に乗り込んでみたらトランプさんの機嫌が悪くて「帰れ」ぐらいのことを言われるハプニングも予想していたのですが、あのニッコニコのトランプ大統領を見て「なんだこの人…」と逆に恐怖さえも感じるんですけど。

 ただ、絶対値としての日米関係がトップレベルでどうやら相性抜群だという話とは別に、理念よりも国益を追求してくるであろうトランプ政権の細やかな現場の要求に対しどこまで日本が応えられるのかはこれからのことではないかと思います。

中国の本音レベルでの「チャイナ・ファースト」

 また、TPPをお蔵入りにさせたトランプ大統領の、多国間、マルチでの外交よりも一対一、バイでの外交志向が強い以上、どうしてもハレーションを起こすアジア近隣のパワーバランスへの対処は悩ましいものがあります。例えば、外向けにはあれほど台湾を守る、一つの中国を認めないと豪語していたトランプ大統領が、いざ中国・習近平国家主席との電話会談になると一転して一つの中国に配慮するような発言をしたと報じられ、中国膨張主義にアメリカが制裁を加えるであろうと予測した筋は綺麗に梯子を外されることになりました。結果として、アメリカに関する報道に規制が敷かれていない中国国内では対アメリカ、対トランプ大統領で言いたい放題の状況になっています。そこには環球時報英語版(Global Times)のように「アメリカ・ファースト」に対抗する「チャイナ・ファースト」とのせめぎ合いがアジアを動かす的な中国流の大国主義思想も本音レベルで平然と報道されていたりします。ああ、中国はやっぱりそう思っているんだね。

Xi-Trump call heralds new phase in relations communication

[引用] In terms of national strength, the US is more powerful than China. However the US has broader interests around the globe and some of its interests extend close to China's area of core interest. This has led to a special type of balance in East Asia, especially in areas around China, where China's strength and resolution to defend its core interests matches with that of the US.

[抄訳] 国際的な力関係ではアメリカの方が中国より勝っている。だがアメリカはその力を世界的に分散させていかなければならず、その一部は中国の核心的利益にまで伸びている。東アジア、とりわけ中国周辺地域での核心的利益を守る中国の力と決意があれば、アメリカとの力関係も拮抗するだろう。

アメリカ追従情けないと感じるか、トランプの歓心買ってくれて良かったと思うか

安倍・トランプのゴルフ外交も上々 ©getty

 そういう大国主義をむき出しにしている中国と、経済では互恵関係ながらいつまで平和が続くか分からない日本が隣国同士でお互い実に不幸だと思うんですよ。ただ、安倍首相という平和のセールスマンみたいな偽善的な笑顔でも献身的なトップがいてくれるお陰で助かっている面はあるんじゃないかと感じます。トランプさんみたいなおっさんと、2泊3日でゴルフ三昧やって、際どい首脳会談もやって、機嫌取って「楽しかった」って言わせるんですよ。接待の鬼ですよ。私ならやれって言われても絶対にできない。安倍首相よくやった。そう思うわけです。プロの偽善者です、あれは。もしくは凄まじいセールスマン。仕事とはいえ、辛かったと思います。アメリカから協調的な姿勢を取り付け、長い長い握手をし、ゴルフのお供をしている姿を見て、アメリカ追従情けないと感じるか、あの程度の話で安倍首相がトランプ大統領の歓心を買ってくれて平和が維持できるなら良かったと思うのかは、人それぞれなんじゃないかと思うわけですよ。

 その結果として、安倍首相訪米中に行われたNHK世論調査では安倍首相の支持率は上がって58%、不支持率は下がって23%だそうです。ある意味で、安倍首相は結果として平和のセールスマンみたいな状態だからこそ、トップニュースが女優の出家や著名ママタレの書類送検でも「まあいいや」ってなれるんでしょう。

 たとえ、それがかりそめの平和に過ぎないとしても。

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