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調査報道メディア「ワセダクロニクル」の衝撃

上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)

ワセダクロニクル」というメディアがある。2015年1月に設立されたジャーナリズム研究所(所長・花田達朗教授)が発行する調査報道メディアだ。2月1日、最初の特集「買われた記事 電通グループからの「成功報酬」」が公開された。

中味は、バイエル薬品から抗凝固薬「イグザレルト」の販促を請け負った電通パブリックリレーションズ(電通PR)が、カネで記事を買ったという内容だ。

加担したのは一般社団法人共同通信(社団共同)とその子会社である株式会社共同通信社(KK共同)だ。記事中では、電通PRの当時の担当者が「記事配信の成功報酬だった」とコメントし、子会社の社員も「営業案件であるとの認識はあった」と認めている。

さらに、社団共同の元編集主幹で、KK共同の社長も務めた原寿雄氏が、動画インタビューに登場し、「貧すれば鈍するで、人の命まで売っちゃたら、そんなものジャーナリズムじゃないよ」と批判する。見事な調査報道だ。

第二弾は、2月9日に配信された「「国の看板」でビジネス」という記事だった。電通が「健康日本21推進フォーラム」(高久史麿理事長)という組織を隠れ蓑に、厚労省が策定した第3次国民健康づくり運動『健康日本21』を支援する形で、会社を挙げて販促に邁進する姿が紹介された。

この取材で中心的な役割を果たしたのは、渡辺周氏だ。渡辺氏は元朝日新聞記者。昨年3月に朝日新聞を退職し、ジャーナリズム研究所に移籍した。「ワセダクロニクル」立ち上げの中核となった人物である。筆者が渡辺氏と知り合ったのは三年前だ。仲介してくれたのは、朝日新聞の依光隆明記者である。

実は、この二人はメディア業界では知らない人はいない有名人だ。ニューヨーク・タイムズの元東京支局長のマーティン・ファクラー氏は自著『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』の中で、彼らの仕事を絶賛している。その中で例に挙げられているのは、依光氏が主導した『プロメテウスの罠』と渡辺氏が主導した医師と製薬企業癒着を批判する記事だ。

2015年4月1日に朝日新聞が一面トップで「医師に謝礼、1000万円超184人 製薬会社、講演料など 13年度分、朝日新聞集計」、社会面で「講演会で薬名繰り返す 講師の医師、製薬会社から謝礼」という記事が掲載されたのをご記憶の方も多いだろう。これは渡辺氏が書いたものだ。

翌2日には、「公表、医師抵抗で1年遅れ 製薬会社から講演・原稿料 印刷できず閲覧期間制限」という続報が出た。

ところが、記事が掲載されたのは、ここまでだった。知人の製薬協の職員(当時)は、「製薬企業は朝日新聞に抗議しました。広告の引き上げもちらつかせました」という。その後、渡辺氏は地震担当に異動となる。そして、一年後には朝日新聞を去る。

渡辺記者は、2014年5月に発覚した東京大学を舞台としたアルツハイマー臨床研究(J-ADNI)の不正疑惑も追及した。知人の朝日新聞の記者は「あの対応は朝日の恥です」と語るが、製薬企業および製薬企業に癒着した医師はほっとしたことだろう。

ただ、そうは問屋が卸さなかった。渡辺氏は新たな活動の拠点を整備し、ジャーナリストとしての活動を再開した。それが、「ワセダクロニクル」だ。

現在の医療界には様々な利権が蔓延っている。この利権構造が、我が国の医療を非効率化し、医療費を増大させるとともに、国際的な競争力を損ねている。この事態を糺すには、優秀なジャーナリストの存在が不可欠だ。

新聞社の経営状況が加速度的に悪化している昨今、ジャーナリストのあり方も変わらねばならない。これからの渡辺氏に注目したい。

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