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JASRACの音楽教室から著作権料徴収によってほとんどの音楽教室は赤字に転落する - 岡崎よしひろ(中小企業診断士)

JASRACが音楽教室から著作権料の徴収に乗り出すといったニュースが世間を騒がせています。

少し長いですが以下の議論を進めるにあたり必要なので引用します。報道では

ヤマハや河合楽器製作所などが手がける音楽教室での演奏について、日本音楽著作権協会(JASRAC)は、著作権料を徴収する方針を固めた。

中略

歌謡曲や映画音楽などJASRACが管理する楽曲を使っている講座も多いとみて、著作権料を年間受講料収入の2.5%とする案を検討している。7月に文化庁に使用料規定を提出し、来年1月から徴収を始めたい考えだ。

中略

JASRACの推定では、この大手2グループに他の事業者も加え、合計約1万1千カ所の教室があるという。そのうちウェブサイトなどで広く生徒を募集している教室約9千カ所を徴収対象とし、個人運営の教室は当面除外する方針だ。

音楽教室から著作権料徴収へ JASRAC方針、反発も 朝日新聞デジタル 2017/2/2 

とされており、音楽教室側ではこれに対抗して

日本音楽著作権協会(JASRAC)が、音楽教室での演奏について著作権料を徴収する方針を決めたことに対し、ヤマハ音楽振興会や河合楽器製作所など方針に反対する音楽教育事業者によって結成された「音楽教育を守る会」が、考え方に歩み寄りがなければ、民事訴訟などに踏み切る方針を固めたことが10日、関係者への取材で分かった。
「演奏権」解釈めぐり対立 JASRAC問題 音楽教室が提訴検討 産経新聞 2017/2/10 

と全面対決の様相を帯びてきました。

本稿では著作権法上どちらに理があるかといった話ではなく、JASRACが音楽教室から徴収しようとしている金額が仮に認められたら、音楽教室にどのような影響が生じるかについて考えていきます。

■音楽教室の利益率は高くない


と、その影響について論じる前に一般的な音楽教室が売上高に対してどの程度の利益を上げているかについてみていきます。

音楽教授業(黒字企業かつ自己資本がプラスの企業平均)における各種利益率
売上高総利益率  80.7%
売上高経常利益率 0.8%
日本政策金融公庫HP 小企業の経営指標 2016より筆者抜粋

本資料は日本政策金融公庫が融資を実行した法人企業の内、債務超過でなく黒字経営で従業員数が50名以下の企業の平均値となっています。

金融機関が融資を実行した企業という事で極端な赤字企業や債務超過企業が含まれていないというバイアスに注意が必要です。

また、黒字企業といいますが、わが国の法人企業の中で黒字企業の割合は意外と少なく、国税庁の統計によると以下のように欠損法人(赤字企業)が法人全体の66.4%に上ります。

欠損法人割合
平成24年 70.3%
平成25年 68.2%
平成26年 66.4%
国税庁 会社標本調査結果(税務統計から見た法人企業の実態)平成26年より筆者抜粋

■売り上げのほぼ2.5%の著作権料の支払い


さて、これらの統計資料を前提としたとき、年間受講料収入の2.5%といった著作権料の水準はどのような影響を音楽教室側に与えると考えられるでしょうか?

ここで注意したいのは著作権料は年間受講料収入の内2.5%とされているので、ほぼ売り上げの2.5%を徴収したいと言っているのに近いという事です。

もちろん音楽教室の場合、楽器の販売や楽譜の販売などいろいろな売上は存在しますが、音楽教室はあくまで音楽教授業ですから受講料収入が主であると考えられます。

そのため、受講料収入の2.5%はほぼ売り上げの2.5%であると考えて以下の議論を進めていきます。

■売上が1億円の音楽教室について考えてみる


例えば1億円の売上を上げている音楽教室企業を考えてみたいと思います。

音楽教室業は基本的には小売業とか卸売業のように何かモノを販売しているわけではないので売上高のほとんどが粗利益(売上総利益)になるといった業種です。

前述の指標でも売上高総利益率は80.7%になっています。これは売り上げの80.7%が粗利益であるという事を示しています。

しかし、音楽教室が高収益事業であるかというとそうではありません。

確かに粗利益は大きいのですが、教室を運営しないとならないので講師の人件費や各種楽器に係る減価償却費、教室の賃借料、受講生の管理に係る費用など様々な費用が発生します。そして、それらの費用をこの粗利益の中から支払っていく必要があるのです。

その結果、前述の指標によると、黒字企業であっても売上高の0.8%しか経常利益を上げていません。

これは言い換えると1億円の売上で80万円しか利益を上げられていない状態です。

これに対し年間受講料の2.5%を徴収するという事は250万円ほどの支払いが発生します。

その結果、今回考えた1億円の売上を上げている音楽教室企業は著作権料の支払い負担が重く170万円の赤字に転落してしまうのです。

■多くの音楽教室はJASRACへの著作権料支払いで赤字に転落すると考えられる


このように、もし著作権料を受講料へ価格転嫁ができなければJASRACへの著作権料を支払うことで多くの法人が運営している音楽教室は赤字に転落します。

多くの法人企業と言いますが、音楽教授業を営んでいる平均的黒字企業の売上高経常利益率は0.8%なので、平均的な黒字企業は赤字に転落します。

そして、我が国の法人企業の66.4%が赤字企業であるという事を合わせて考えるのなら、JASRACへの著作権料支払い義務が発生するとほとんどの企業が赤字に転落することを余儀なくされるといっても言い過ぎではないでしょう。

■著作権料分の価格転嫁ができるか


さて、消費税が5%から8%に増税された際、消費税は最終的には消費者が負担すべきものであることから3%分を価格転嫁する必要があるとして、国が全面的に価格転嫁についてバックアップをしていました。

それでも、中小企業、小規模事業者は価格転嫁ができないため苦境に陥ってしまったケースが多く出てしまったのです。

国が全面的にバックアップをして価格転嫁キャンペーンまで実施しても価格に転嫁することは容易ではないのです。

今回、もしJASRACが著作権料を受講料から徴収するようになるのであれば、音楽教室を営む企業としては何らかの形で受講料へ転嫁していく必要が出てきます。(著作権料は最終的には受講生が負担すべきものなのか、企業が負担すべきものなのかといった議論は今回は行いません)

しかし、この消費税増税時の前例のように価格転嫁は容易ではないのです。

そのため、もし、受講料から著作権料を徴収することが正当であったとしても、音楽教室は音楽文化の担い手を育てるという社会的意義を担っているため、JASRAC側にも音楽教室運営会社の経営を過度に圧迫せぬよう、価格転嫁を支援する、料率を2.5%よりも安くするなどといった努力が求められるのではないでしょうか?

【参考記事】
■内部留保を活用しろなんてご冗談を。賃上げを目指すなら内部留保なんて考えずに利益の獲得に焦点を当てるべきです
http://okazakikeiei.com/2016/11/08/naibu2/
■翻訳アプリで接客時のデータを収集すれば、接客業で働く人が求められる能力が変わります。
http://okazakikeiei.com/2016/11/01/sekkyaku/
■お店を経営している人も生活者ですよね?消費税をめぐる報道を考える 岡崎よしひろ
http://sharescafe.net/38555851-20140430.html
■恵方巻という食料品を大量に廃棄する行為は自らのブランド価値を貶めることになる(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47753424-20160208.html
■適正な在庫水準を保つという商売の基本に忠実なら恵方巻の大量廃棄は防げる(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50552626-20170131.html

岡崎よしひろ 中小企業診断士

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