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日本マクドナルドが、やっぱりすごい企業だと思う理由。 - 多田稔(中小企業診断士)

日本マクドナルドホールディングスの業績が回復しています。2月9日に発表した通期決算で、同社は3期ぶりの最終黒字に転換しました。
日本マクドナルドホールディングスが9日発表した2016年12月期連結決算は、最終損益が53億円の黒字(前の期は349億円の赤字)だった。新商品投入や店舗改装で客足が伸びた。(「日本マクドナルド3期ぶり最終黒字 16年12月期」日本経済新聞 2017/2/9付)
記事では、このほかの好調要因として、スマホゲーム『ポケモンGO』との提携も客数増につながったと分析しています。いずれにせよ、期限切れ鶏肉使用問題や異物混入問題に揺れ、大きく落ち込んでいた日本マクドナルドの業績は、ここにきて底入れの兆しを見せています。

ここまで業績が回復するのに、記事に挙げられた施策が効果的だったのは間違いないでしょう。しかし、同社の財務諸表を分析すると、この間の経営陣の努力と執念がより深く、より緻密に考えられたものであったことが理解できます。今回はそのことを説明していきます。

■驚くべき貸借対照表を実現した“2008年のマクドナルド”。


その材料として、直近(2016年度)と、日本マクドナルドが好決算を連発していた最中の2008年度の財務諸表を比べてみましょう。

はじめに損益計算書を見てみます。売上高は、2008年の約4,064億円に対し、2016年は2,266億円と、約55%程度の水準です。業績回復といっても、数字的には全盛期の半分程度ですから、まだまだ道半ばといったところでしょう。

これは他の損益関連の数値でも同じで、売上総利益率(17.0%から13.8%)、売上高営業利益率(4.8%から3.1%)、総資本営業利益率(9.8%から3.8%)など、収益性を示す財務指標は軒並み8年前より数字を落としています。

もっとも、これらは近年の経営環境の厳しさを考えれば、容易に想像できる範囲の動きです。むしろ変化が特徴的なのは貸借対照表の方です。

中でも、2008年の日本マクドナルドの貸借対照表を見て驚くのは、その流動比率と当座比率の低さです。流動比率とは、預金や売掛金など、比較的現金化しやすい流動資産と、買掛金や短期借入金など、比較的短期に返済しなければいけない流動負債の割合を示したものです。また当座比率とは、流動資産から在庫など、現金化に時間がかかる資産を除いてより慎重に企業の手元流動性を見よう、という指標です。

会計の入門書を読むと、「流動比率は120%、当座比率は100%あるのが望ましい」などと書かれていることが多いですが、マクドナルドのような飲食業では必ずしもこれは当てはまりません。飲食業は日銭商売なので、日々のオペレーションの中で潤沢なキャッシュを確保できるからです。よって、流動比率や当座比率が100%を切っている優良企業はいくらでもあります。

それにしても、2008年の日本マクドナルドの流動比率53.6%、当座比率34.4%という数字は驚異的な低さです。それに対し、長期借入金残高はわずか5億円しか計上していません。これが意味するところは、「銀行なんかに頭を下げなくても、カネは売上という形で全国のマックファンがいくらでも融通してくれる」ということです。

■貸借対照表に別の驚きを現出した“2016年のマクドナルド”。


しかし、一連の不祥事による客離れで、この強気の貸借対照表は修正を余儀なくされました。
たちまち対応を迫られたのは、売上減少による資金不足を回避することです。

2016年の貸借対照表を見ると、8年前には5億円しかなかった長期借入金が、206億円と約200億円も増えています。それと同時に現金・預金も98億円から212億円と倍以上に増えています。結果として、流動比率は103.4%、当座比率は79.9%と、数字上、日本マクドナルドは「普通の」飲食業チェーンになりました。

その一方で、同社の貸借対照表に、8年前にはなかった別の注目すべき数字が出現します。2016年に計上されている買掛金残高は8億4,000万円あまりで、104億円を計上していた2008年より9割以上も減少しているのがそれです。

仕入代金債務を表す買掛金が減るということは、仕入先に対して積極的に支払っているということです。支払いサイトを計算してみると、わずか1.36日。つまり、仕入れた翌日にはもう支払いを済ませているということになります。

確かに、日銭商売である飲食業は、もともと支払いサイトも短い傾向があります。それにしても1.36日というのは尋常ならざる数字です。実際、8年前の日本マクドナルドの支払いサイトは9.41日でした。他の外食チェーンの最近の数字を取ってみても、日高屋を運営するハイデイ日高が8.4日、ロイヤルホストを運営するロイヤルホールディングスが9.0日、競合のモスフードサービスが24.7日となっています。いかにマクドナルドの1.36という数字が突出しているかお分かりいただけると思います。

■数字から垣間見える経営陣の“執念”。


ここまで急激に買掛金を減らした理由としてまず考えられるのは、仕入先から強いプレッシャーを受けたことです。業績悪化を深刻に捉えた仕入先から、早めの支払いを要求されたということです。

しかし、買い手(日本マクドナルド)と売り手(仕入れ先)の力関係から考えて、この想定はあまり現実的ではないと、私は思います。このドラスティックな仕入債務圧縮は、やはり日本マクドナルド側が何らかの意図を持って、主体的に行ったと見るのが自然ではないでしょうか。

つまり、透けて見えるストーリーは以下の通りです。

マクドナルドが苦境に陥った原因は期限切れ鶏肉の使用や異物混入など、食材の安全に関わることでした。これを改善するために国産食材へのシフトや検査体制の整備などを行えば、どうしてもコストアップは避けられません。

そこで、長期借入金でキャッシュを確保した経営陣は、その資金を店舗改装など投資だけではなく、仕入先に対する資金回転を速めることにも使いました。仕入先の取引条件を良くする見返りに仕入価額を下げてもらい、少しでも上昇コスト分を吸収しようとしたのではないでしょうか。

だとすれば、もともと10日以内に払っていたものを1日に短縮してまで利益を確保しようとする執念は大したものです。マクドナルドは身近であるだけに、いろいろと批判にさらされやすい企業ではあります。しかし、普段、大して儲かってもいないのに危機意識の薄い経営者と接する機会がある身としては、今回の分析を通じて、個人的にはやはり大した会社だと認識を新たにした次第です。

【参考記事】
■富士フイルムの事業転換は、本当に"華麗な転身”なのか。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49986760-20161112.html
■マイナス金利下でもローソンが銀行をやる理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49724245-20161008.html
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■ロイヤルホストが24時間営業をやめる本当の理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50052834-20161121.html
■2018年開幕予定の「卓球プロリーグ」が本当に儲かるか計算してみた。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50185951-20161209.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表

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