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TVドキュメンタリー番組が魅せた「民主主義のカタチ」

1. TBS報道の魂「言論のちから 民主主義のかたち」

久しぶりに見応えのあるTVドキュメンタリーを観た。1月17日にTBS「報道の魂」で放映された「議論のちから 民主主義のかたち」という番組だ。プロデューサーの秋山浩之氏は、昨年トランプが大統領選に勝利したのを機に、民主主義の危機を主題にした番組を作り、米大統領就任式の2017年1月のタイミングで放映したいと考えた。そして、旧知の工藤泰志(言論NPO代表)のドキュメンタリーを制作しようと決心する。だが、最初から工藤氏を理解していたわけではないようだ。工藤氏とは15年以上の付き合いだが、彼が言うことが気宇壮大かつ抽象的で理解できなかったのだという。だが、英国のEU離脱、米国のトランプ現象と民主主義の牙城のような国で雪崩打つように崩れてゆく現実を目の前にして、工藤氏が訴えてきたことの意味が腑に落ちたのだという。

2. ドキュメンタリー番組の5つのキイワード

このドキュメンタリー番組のキイワードは、「民主主義」「政治」「市民」「知識層/ジャーナリズム」そして「誠実」である。いずれも抽象的で、理解しがたい、青臭いと批判されそうな言葉ばかりだ。しかも、それをどうやって映像にするというのか。制作者はかなり悩んだはずだ。しかし、ドキュメント映像に図解を組み入れることによって、工藤氏が行おうとしていること、そして言論NPOの活動を明快かつ適切に表現していた。

3. メディアからの”脱藩”から「言論NPO」へ

工藤氏は元大手出版社の編集長だった。20年ほどジャーナリストの仕事の従事したが、その限界を感じて会社を飛び出した。その限界とは次の通りだ。ジャーナリズムや知識層は本来、社会課題に向かい合い、その解決に向けて、政治と市民をつなぐ役割を果たすべき存在である。だが、自らの地位を維持することに埋没し、その役割を果たせなくなっているか、放棄している。そうであれば、その役割を果たすべく、メディアから”脱藩”して、自ら新たな言論空間を作ろうと工藤氏は考えた。そして、2001年に「民主主義を強くする」ことを使命に掲げ、言論NPOを立ち上げた。だが、このような壮大で、抽象的な使命をどう具体的な活動に仕立てるのか。

4. マニフェスト評価と「東京-北京フォーラム」

言論NPOが最初に手掛けた本格的な活動がマニフェスト評価だった。2001年は、小泉政権が発足した年でもある。当時、マニフェストという言葉が流行語大賞にもなり、複数のシンクタンクや団体が主要政党が掲げた政権公約の評価を行ったが、言論NPOも参加した。しかし、2017年現在、マニフェスト評価を継続的に行い、また、政権公約の評価のみならず、その実績評価を行っているのは言論NPOだけである。ドキュメンタリーは、昨年12月30日に毎日新聞と共同発表した安倍政権の実績評価の過程を追いかけていた。11の政策分野60項目の評価点をめぐって、深夜まで記者と工藤氏が議論する姿から緊張感が伝わってきた。

次に言論NPOが着手したのが日中対話である。2005年、靖国問題で揺れ、日中関係が悪化し、官民の様々な交流事業がストップする中で始ったのが、言論NPOと中国英字新聞「チャイナ・ディリー」共催によるフォーラムである。工藤氏が目指したのは「喧嘩をしてもよいから、本音で課題解決のために話し合う」対話である。そして、日中共同世論調査を行い、双方の国民が互いの国にどのような考えや感情を抱いているのかを明らかにし、その結果をもって議論することを対話の条件とした。言論統制のある中国に世論調査を申し入れるということ事態、奇想天外なことだ。しかし、工藤氏は貫いた。それを支えてくれたのが今は亡き加藤紘一氏や小林陽太郎氏であった。2013年には明石康氏や武藤敏郎氏の尽力もあり、日中共同で「不戦の誓い」声明文を出している。昨年、12回目の対話が行われたが、今では、日中双方の主要メディアだけでなく、世界のシンクタンクやメディアが注目するようになった。

5. 「民主主義のカタチ」が教えるポピュリズムのカタチ

マニフェスト評価と「東京北京フォーラム」。一見、まったく異なる活動であるが、そのどこに接点があるのか。さらには、言論NPOの使命である「民主主義を強くする」こととどうつながるのか。この疑問にわかりやすく応えているのが番組で示された図と解説である。

以下の図は、番組で示された図を参考に筆者が作成したものである。

図1 民主主義のカタチと言論NPO

図1は、工藤氏の問題意識を図解したものである。政治と市民の間には健全な緊張関係が必要である。すなわち政治は課題解決のために政策を立案、実行し、有権者である市民はそれをチェックする。そして、その媒介役として、知識層やジャーナリズムが存在する。しかし、前述のようにそれが機能していない。そこで、自らメディアを辞め、新たな媒介役として「言論NPO」を立ち上げた。

図2 民主主義のカタチとマニフェスト評価

図2はマニフェスト評価を示したものである。政治は公約を掲げる。有権者である市民は公約の達成状況を監視し投票する。こうした緊張関係があることで政治の質が維持・向上されてゆく。しかし、多種多様な公約の内容を理解し、その達成状況を判断するのは容易ではない。言論NPOは、マニフェスト評価を行いその情報を判断材料として有権者に提供する。政治に対してはこの評価をもって監視役を果たす。言論NPOがこの役割を果たすためには、常にその立ち位置を有権者側に置く必要がある。

図3 民主主義のカタチと「東京-北京フォーラム」

図3は「東京-北京フォーラム」を図示したものである。2005年当時、日中両国の世論は悪化の一途を辿っていた。世論が悪化すれば、政府も外交政策を止めざるをえなくなる。一般に外交政策は専門家や官僚など一部の者によって担われているように捉えられがちだが、有権者たる世論を全く無視して、外交政策を施行することはできない。「東京-北京フォーラム」では、この世論調査を導入し、中国に対する日本人の認識、日本に対する中国人の認識を明らかにした上で、官民双方が加わる対話のルートを構築している。図3は、日本側の構図を示したものだが、中国側にも同じような仕組みを作り、対話によって両者をつないでいるのだ。

図4 民主主義のカタチとポピュリズム

図4は、民主主義にとって最強の敵であるポピュリズムを図示したものである。「民主主義のカタチ」図と工藤氏の言葉を参考に作成した。政治が社会課題に応えきれず、また、知識層やジャーナリズムが課題から逃げている時、市民は不安や不満、怒りを覚える。そうした中で、特定の人物が市民の不安や怒りを利用して政権を掌握しようとするのがポピュリズムである。工藤氏は「途中までは、ポピュリズムと言論NPOの主張は似ているが、決定的に違うところがある。ポピュリズム政治家は自らに力を委ねろと訴える。しかし、言論NPOは、市民が強くならなければならないと考える」と述べる。

こうしてみると、マニフェスト評価と「東京-北京フォーラム」は「民主主義のカタチ」というコンセプトでつながっていることがわかる。そして、今、私たちが懸念するポピュリズムもこの図を共有しているのだ。

6. 「誠実」が意味するもの

本番組には5つのキイワードがあると述べた。5つ目のそれは「誠実」である。この番組を制作するために、どれだけ沢山の思考を重ねたのだろうか。また、言論NPOの活動を理解するために妥協を許さなかった跡が見てとれる。そうでなければ、「民主主義のカタチ」の図は生まれなかっただろう。その意味で「誠実」は番組制作者のことをさしている。しかし、それは工藤氏が批判し、脱藩したジャーナリズムに求められる本質ではないだろうか。

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