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意外にも常識的な「トランプ外交」 - 村上政俊

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 トランプ外交が本格的に始動したが、その背景にある考え方は極めて常識的であり、同盟国日本としては大いに歓迎すべき滑り出しだ。トランプ外交の最大の特徴は同盟国重視の姿勢であり、これを端的に示すのが外国首脳の訪問受け入れ順序だ。

まずは米英同盟の強化から

 1月20日のトランプ政権発足後にまずワシントンを訪れたのは、アメリカにとって最も緊密な同盟国であるべきイギリスの首相メイだった。オバマによって大統領執務室から不当にも撤去されていたチャーチルの胸像がトランプによって元の地位を無事回復。トランプ、メイ、チャーチルの「3人」で撮影された集合写真は、米英同盟に新たな息吹が吹き込まれたことを象徴していた。

 そもそもチャーチルはフランクリン・ルーズベルトにぴったりと寄り添って連合国を第2次世界大戦の戦勝に導いたアメリカの大恩人だ。そんなチャーチルを追い出すとはオバマもとんだ忘恩の徒である。なおルーズベルトもチャーチルの帝国主義者としての顔を内心苦々しく思い、むしろ共産主義国家ソ連の独裁者スターリンとの方が、馬が合うと思っていたようだ。ルーズベルトにしてもオバマにしても、民主党の大統領はチャーチルのことがどうもお好きではないらしい。逆に共和党トランプとチャーチルと同じ保守党メイの仲を取り持ったのがチャーチルだったということになる。

 米英同盟を重視するトランプの姿勢は共和党主流派とも軌を一にする。メイが外国首脳の中で最初にトランプのもとを訪れたことは、トランプが従前の2国間同盟を重視していることの表れであり、アメリカから大西洋に架かる米英同盟、太平洋に架かる日米同盟というアナロジーで考えれば、日本にとっても喜ばしいことだ。

 先月、我が国はこのイギリスとの間で日英ACSA(物品役務相互提供協定)に署名したが、日本とイギリスの防衛協力強化はこうした考えとシンクロしており、現代の日英同盟ともいうべきレベルに関係が徐々に深化しつつある。なお、イギリス側の署名者は、昨年のEU離脱国民投票で離脱派の先頭に立ち、『チャーチル・ファクター』という本を著すほどチャーチルを尊敬する外務大臣ボリス・ジョンソンだった。

オバマ時代とは違って日本重視?

 メイに続いて2番目に訪問が予定されているのが安倍晋三首相だ。8年前のオバマ政権の発足時、私は外交政策の全体調整にあたる外務省総合外交政策局総務課で勤務していたが、当時の麻生太郎首相の訪米へのオバマの対応は、冷淡そのものだと感じた。2009年2月24日の日帰り訪米は確かに外国首脳の先陣を切ってではあったが、午前中の会談が終わると麻生はホワイトハウスを後にせざるを得なかった。オバマからは前日夜の非公式夕食会はおろか昼食会すら用意されなかったからだ。麻生は、アメリカでの政権交代にかかわりなく日米同盟の理解者である、共和党きっての知日派アーミテージら外交安全保障サークルの重鎮らと食卓を囲む以外になかった。

 これとは対照的だったのが、オバマの習近平に対する歓迎ぶりだった。習近平はそれまでの慣例を破って国家主席就任から僅か3カ月弱という早期の訪米を実施。オバマは丸々2日間にわたりカリフォルニアの別荘地で習近平を歓待し、軍事的圧力ではなく話し合いによって米中関係を安定させようとした。しかし、それが完全な逆効果となり中国の南シナ海や尖閣周辺での挑発行動をエスカレートさせたことは読者ご案内のところだ。

 オバマの麻生への冷淡な対応と比較すれば、トランプが安倍訪米を如何に重視しているかがわかるだろう。トランプは安倍を既に友人、もっといえば身内として遇しているのだ。それが最初に表れたのが大統領選挙直後のトランプタワーの自宅への安倍訪問だった。普通の人間関係でもそうだが、プライベート空間に招き入れるということは友情と信頼の証だ。先月の安倍訪比では大統領ドゥテルテが、元々市長を務めていたダバオの私邸に安倍夫妻を招待して朝食をともにしたが、これも同様の意味があった。ドゥテルテは寝室にまで案内したという。

 フロリダのトランプの別荘で、ゴルフも含めた形で2月10日に予定される日米首脳会談の行方を見守る必要があるとはいえ、安倍トランプ関係、いやシンゾー・ドナルド関係は極めて順調な滑り出しを見せていると言ってよい。

 日米首脳のゴルフ外交といえば安倍の外祖父岸信介とアイゼンハワーの故事が思い起こされる。アイゼンハワーは、ゴルフは好きな相手としかできないと述べたという。こうして培われた首脳間の個人的信頼関係を梃子に実現したのが、日米安保条約の改定だ。なおこれも現在と同じ共和党政権での出来事だった。こうして考えれば共和党政権下の方が日米関係は順調であり、毀誉褒貶があるトランプのいまのアメリカも、ホワイトハウスだけでなく連邦議会の上下両院をも共和党が握っているという事実はもっと強調されてもよいだろう。

韓国を優遇した米民主党政権

 国防長官マティスの日本訪問にも同盟国重視の姿勢が貫かれていた。最大のポイントは、報道の通り尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用がマティスによって改めて確認され、習近平中国への強烈な牽制球となったことだが、私が注目したのは日米防衛相会談後の記者会見でマティスが、日米同盟はアジア太平洋地域における平和と繁栄の「礎石(cornerstone)」だと述べたことだ。このcornerstoneという語は、アジア太平洋における日米同盟の重要性を端的に表現する語で、歴代政権で引き継がれてきた言い回しだ。日米同盟は日本とアメリカという当事国のみが利益を享受するのではなく、21世紀の世界経済のエンジン役であるアジア太平洋の安定と経済的繁栄を下支えする公共財として機能しているのだ、という考え方から導き出された表現であり、これをトランプ政権も継承することが明確となった。

 また、訪日に先立つ韓国訪問で米韓同盟はlinchpin(要の意味)だとして、前政権の表現を踏襲した。それまで日米同盟のみに使用されてきたlinchpinを米韓同盟に初めて転用したのは、2010年6月のG20サミット(カナダトロント)に出席したオバマだった。当時、日本では日米関係を混乱に陥れた民主党の鳩山由紀夫が退陣した直後であり、混迷を深める日米同盟に代わって米韓同盟に期待したいという、オバマの個人的な願望による表現の変化だったといえよう。時に日米同盟よりも米韓同盟を重視しようとする定石から外れた姿勢は国務長官クリントンも同じであり、同年9月のスピーチでアジア太平洋の同盟国を韓国、日本、豪州という順に挙げた。日本よりも韓国を先に言及するなど前代未聞であり、日本の外交安保関係者を驚愕させた。もし昨年の大統領選挙でクリントンが当選し民主党政権が継続していたなら、日韓逆転の不正常な路線が続いていた可能性が高い。

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