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米メディア「脱真実」時代で暗中模索

大原ケイ

ようやく日本でも「フェイクニュース(Fake News:嘘ニュース)」の成り立ちやその影響がマスコミでも取り沙汰されるようになってきたが、アメリカのマスコミは「呼吸するように嘘をつく」大統領誕生のおかげで、性急なパラダイムシフトを余儀なくされている。

大統領やホワイトハウス報道官が記者会見中に、明らかに真実ではないことを口走ったとしても、途中で「今のは事実とは違いますよね?」とさえぎるわけにはいかないし、これは本当ではない、事実ではない、という記事を書けば政権側から「悪意を持って我々を攻撃している」と名指しで蔑まれ、会場から追い出されたり、ツイッターで因縁をつけられる有様だ。

ホワイトハウスが明らかにマスコミを敵に回した、とわかるのは、1月11日、大統領当選後はじめての記者会見で、ロシアのウラジーミル・プーチンがトランプの弱みをあれこれ握っているという文書がすっぱ抜かれた直後のことだ。モスクワの高級ホテルでドナルド・トランプが娼婦2人と放尿に及んだというスキャンダルを含む文書を「ウラは取れていない」と認めながらも全文公開した米ニュースサイト「バズフィード」と、全文公開されたというニュースを伝えたケーブルニュース局CNNがともにトランプから「フェイクニュース」と名指しされた。

1月20日の就任式後も、トランプ大統領は執拗に自分の就任式の観客が歴代大統領の中でも一番多かったと言い張り、明らかにそうではないように見える写真を公開した公園局の管理長を電話で呼び出してもっと人が多く見える写真を出せと言い張ったり、職務中に殉死した諜報員の名が彫られたCIA本部でのスピーチでも延々と就任式の参加人数の自慢話を続けた。

それでも飽き足らず、ショーン・スパイサー報道官を差し向け、就任式の数にこだわり続けてマスコミに文句をつけさせ、その発言を今度は顧問のケリーアン・コンウェイがテレビニュース番組で報道官をかばって、あれは「オルタナティブファクツ(Alternative Facts:代替的事実・もう一つの事実)」を述べただけと発言したことから、この「オルタナティブファクツ」という言葉が流行語となったほどだ。

国のトップにフェイクニュースだ、最も不誠実な奴らだと毎日のようにクソミソ言われているマスコミだが、粛々とその任務を果たそうとしているに過ぎない。健闘しているのはやはりメインストリームのニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙で、大統領の記者会見記事に細かく注釈をつけたり、偽証発言の度にその検証記事を掲載している。

もともとアメリカのジャーナリズム業界では「ファクト・チェック」を重視しており、ピューリッツァー賞をとった「ポリティファクト」のウェブサイトでは、トランプの発言に逐一「嘘メーター(TRUTH-O-METER)」をつけて「だいたい事実」「ほとんど間違い」などと表示しているが、目立つのは「パンツ・オン・ファイヤ(Pant on Fire!)」。「尻に火がつく」と訳すと意味が通じない。これは「真っ赤なデタラメ」という意味だ。

何しろ「大統領が嘘をついた」を端的に言っても、本人が事実でないことを知っていて言っている確信犯的ウソなのか、それとも自分でもそれが事実なのだと信じて発言しているのかはマスコミにも判断できない。そこでニュース番組や記事では最近、同じ嘘という意味でも“Lie”ではなく“Falsehood”という言葉が頻繁に使われるようになった。

トランプ政権が使う「MO(modus operandi:常套手段・手口)」にも慣れてきたようだ。その手法とは、①まず、勝手なことを前触れなく突然やる。②それがバレて非難されたら「オバマ政権がやっていたことだ」と嘘をつく。③オバマ政権関係者が否定したら急遽撤回する。④だんまりを決め込む、というものだ。

散々物議を醸し出した、イスラム7カ国からの入国者前面禁止の大統領令がそうだ。最初は「この7カ国を対象として選んだのはオバマ政権だ」と言い訳をしたが、事実はかなり異なる。9-11以後、ビザ発給のための入国審査が追いつかず、「バックログ(Backlog : 未処理のまま放置されている業務)」が溜まりに溜まったので新しく発給するビザを滞らせてでも審査をきちんとやるために暫定的に6ヶ月ビザ支給を遅らせた、というのが真相だ。

サウジアラビアやトルコ、エジプトなど、イスラム教徒が多いのに禁止国に指定されなかったのはトランプと提携ビジネスがある国だから、というのも正しいが、これらの国からは弁護士や有料サービスを使ってビザやグリーンカードの発給が比較的早く、バックログが少なかった、という説明もできる。

もう一つの深刻な事態は、1月29日、イエメンにあるアル・カーイダの潜伏施設に海兵隊のエリート部隊シールズを投入しながらも、海兵隊と一般市民に死者を出してしまった奇襲攻撃の失敗だ。

これはそもそもオバマ政権時代に念密な攻撃計画が練られていたものだが、「新月の夜でないと実行は難しい」と保留になっていたものを、トランプが夕食をとりながら娘婿に指示を出してオーケーしてしまったといわれている事案だ。これも最初はオバマ政権時代の計画に非があったような言い訳をしているが、もしこんな失態をヒラリー・クリントンが犯していたら、と考えるとその後の対応があまりにも甘いと言えるだろう。

これほどまでに平然と嘘をつく大統領に対し、「ナルシスティック・パーソナリティ・ディスオーダー:Narcissistic Personality Disorder」つまり、「自己愛性人格障害」という精神障害があるのではという声も上がるようになってきている。

あまりにも非現実的な展開の中で、立ち止まって考える間もなく日々の報道という対応を迫られているのが米マスコミなのだ。

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