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糖尿病の早期診断の鍵を握る「指先HbA1c検査」の普及〜「糖尿病診断アクセス革命」〜

筑波大学大学院人間総合科学研究科 内分泌代謝・糖尿病内科 准教授
矢作 直也

2011年8月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2007年の厚生労働省国民健康・栄養調査で日本の糖尿病人口は890万人と推定された。さらに2010年には1000万人の大台を超えたものと予想されている。この50年間で実に40倍にも増加したことになる。一方、2008年の厚生労働省患者調査によると、医療機関を定期受診している糖尿病患者数は 237万人に過ぎない。

すなわち650万人もの糖尿病者が未治療となってしまっており、これは糖尿病有病者の実に3/4にも相当する。しかもその内のおよそ半数は血液検査を受けたことがなく、糖尿病を発症していることを全く自覚していない未発見糖尿病であると言われる。糖尿病激増の一因は、まさにこの「無自覚性」という特徴にある。

なぜ糖尿病は放置されやすいのか?それは、糖尿病の大多数を占める2型糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状のないままに病状が進行していくことが特徴であり、検査を受けねば見つからないことが多いからである。

逆に、数年から10年以上かけて糖尿病予備群から緩徐に進行し発症していくことが多いため、予備群の時期に運良く見つかれば、生活習慣の改善などによって糖尿病の発症を予防することもある程度可能であることがこれまでの複数の大規模臨床研究から示されている。

従って、糖尿病対策として「血液検査の重要性」ということはいくら強調しても足りないくらいだが、「何の症状もないのになぜ血液検査を?」という意識の人々もいまだに多いのが現状である。

その肝心の血液検査を多くの人々が敬遠し、糖尿病やその予備群の治療開始が遅れてしまっている大変残念な実態に対し、問題解決(=糖尿病を減らしていくこと)へのひとつのアプローチとして、我々は、最新の「微量血液検査装置」の活用を提案している。

近年、複数のメーカーから開発・発売されている「微量血液検査装置」では、わずか1μlという、ごく微量の血液(蚊の吸う血液の1/5程度)からHbA1cを迅速(約6分)かつ正確に測ることができるようになった。このレベルの微量の血液で済むということは、すなわち、「指先穿刺でよい!」ということであり、このことは「自己採血が可能!」ということを意味している。

指先自己穿刺採血は、これまで主にインスリン治療患者の自己血糖測定として、広く普及してきた方法であるが、これを今後はHbA1c検査にも応用していくことが可能となったわけである。これは、「採血=注射=痛い」というイメージなどにより、(静脈採血による)血液検査を敬遠する人たちにとって、大いなる福音である。

既に我々は、この自己採血方式による指先HbA1c測定を一般の方々に広く受けて頂けるようにすることで糖尿病スクリーニングを行っていく試みを昨年10 月より開始している。具体的には、東京都足立区において、足立区医師会ならびに薬剤師会と連携(=医薬連携)し、区内の9箇所の薬局店頭に「指先 HbA1c測定装置」を常設することで、希望者にはどなたにも(糖尿病治療中の人は除く)検査を受けて頂き、糖尿病発見の新たな機会を提供する試みを続けている。

この、薬局を新たな窓口とする医薬連携下の糖尿病検査体制を「糖尿病診断アクセス革命」と名付けている。「医薬連携」が重要なのは、検査で異常値が出た人をそのままにせずに近隣医療機関へきちんと紹介し、早期治療開始へとつなげていくことが本質的に重要であるからである。

「糖尿病診断アクセス革命」では、昨年10月から今年7月までに総計466名の希望者にHbA1c検査を実施し、HbA1c6.1以上が60名 (12.9%)と非常に高率であった。この率がどのくらい高いかと言うと、同地区の国保の特定健診では、糖尿病未治療群からの新規糖尿病発見率は4.2% という成績になっており、その約3倍に相当する。

受診勧奨は、HbA1c5.6以上(予備群以上相当)について行っているが、それは136名 (29.2%)という高い率である。このような高いスクリーニング成績になるのは、「健診を避けてきた人々」に検査の機会を提供できている結果ではないかと解釈している。

昨年5月、日本糖尿病学会はアクションプラン2010として「DREAMS」という5つの行動プランを提示した。その1つである「糖尿病の早期診断・早期治療体制の構築」に向け、薬局と医療機関の連携による全く新たな枠組みを提案するとともに、その有効性を実地に検証してきたのが「糖尿病診断アクセス革命」プロジェクトであり、この方式による新規糖尿病患者の掘り起こしは、効率・費用対効果に優れていることが証明されつつある。

糖尿病を始めとする生活習慣病の多くは初期には自覚症状に乏しく、医療機関を受診する特別な機会がない限り、発見されることなく長い年月が過ぎてしまうことは珍しくない。そうした事態への対策として、特定健診制度が2008年より実施されているが、必ずしも健診受診率は高くない傾向が依然として続いている (国民健康保険加入者では30%台)。

そうした現実を受けて、では、どのように「血液検査のハードルを下げて早期発見につなげるか?」ということを考えた場合、最新の「指先検査装置」を活用して薬局でのスクリーニングを施行し、医療機関との連携により紹介していく、という新たなモデルの必要性・有効性は極めて高く、今後のさらなる普及・定着が望まれる。

「糖尿病診断アクセス革命」の詳細については、プロジェクトホームページ ( http://a1c.umin.jp ) も併せてご参照ください。

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