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「大統領令差止めで米三権分立は機能」のウソ



岩田太郎(在米ジャーナリスト)

【まとめ】
・司法が大統領令執行を一時停止したことが評価されている。
・しかし、今回の判決は差別違憲判断を避けている。
・人種差別的移民政策において三権は癒着している。

 共和党のドナルド・トランプ米大統領が1月27日に発令したイスラム圏7か国出身者入国禁止の大統領令を、シアトル連邦地裁が2月3日、全米規模で暫定的に差し止める仮処分を下し、その判断を上級審である連邦裁判所第9巡回区控訴裁判所が2月4日に支持した。これを受け、米連邦政府は大統領令の執行を一時停止している。

日本では、「司法の独立が機能している」「司法が、行政府の暴走に歯止めをかけた」「米国は法治国家だ」「米司法の迅速な判断がうらやましい」「まともだ」「行政府と司法府が癒着していない」などの声が一斉に上がっている。

 しかも、大統領令の一時差し止めを命令したのが、リベラル派裁判官ではなく、共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領に指名された判事であったことが、「米司法は独立しており、健全だ」との見方をさらに強めている。

しかし、実は米司法は機能しておらず、また、三権は分立などしていない。まず、今回の大統領令差し止めの判決は、差別違憲判断を避けている。判決文は、「これらの国からの移民(がもたらす脅威)から米国を保護するという理由付けには、根拠がない」としながらも、大統領令の手続きの妥当性に焦点を当て、核心問題である同命令の非白人に対する差別性に踏み込むことは避けている。

その理由は、トランプ大統領の大統領令が、ブッシュ元大統領によって最初に発令され、オバマ前大統領の任期全体にわたって維持・強化されてきた「対象国に渡航歴のある者は、米国のビザ免除渡航制度を利用することを禁ずる」「対象国からの入国者には審査を厳重化する」という差別的な大統領令を、「進化」させたものだからである。

もし差別を違憲と認めれば、2001年の同時多発テロ以降の移民政策の不当性にスポットが当たってしまう。だから、シアトル地裁の命令は、差別を廃止する正義のためではなく、ブッシュ・オバマ・トランプ政権の一貫した差別政策が根源的なところで正統性を問われる事態を避け、差別を以前のような穏便な形で温存することが目的なのである。

同様に、大統領令の執行をしないように指示を出し、トランプ大統領に解任されてヒーロー扱いを受けている民主党のサリー・イエーツ前司法長官代行は、オバマ政権時代に差別的移民政策を違憲だとして、執行を止めるよう運動しなかった。それは、民主党政権・共和党政権を問わず、米政府の一貫した目的が、隠れた形での非白人に対する差別の温存にあるからだ。

特定国からの非白人移民を事実上制限する大統領令で想起されるのが、今からちょうど100年前の1917年に成立した米移民法の「アジア移民禁止地帯条項」だ。この流れは、日本人を含むアジア人を「帰化不能者」とした1922年の米連邦最高裁における日本人移民の小澤孝雄の敗訴や、日米戦争の遠因のひとつとなった差別的な1924年の移民法へとつながってゆく。

これらの歴史的イベントでは、米立法・司法・行政は一体となって非白人の排除に動いた。小澤孝雄が1917年に非白人の帰化権をめぐり米最高裁に上訴した際には、第一次世界大戦や戦後処理に絡んで米国が日本の協力を必要としていたため、米司法省が米最高裁に日本を刺激する差別的判決の言い渡しを延期するよう申し入れ、受け容れられている。三権は分立などしていなかった。

一世紀を経た今、米司法は人種差別的な移民政策を、いかに「公正」、「三権分立」の体裁を保ちながら温存するかに心を砕いている。だが、その外面がフィクションであることは、警察官が「脅威を感じた」との根拠薄弱な理由でだけで、丸腰の黒人をインスタント処刑し、警察とズブズブの検察が無法警官の訴追を拒否し、それに米連邦最高裁がお墨付きを与えている不公正な癒着の現状を見れば明らかだ。
自国民たる黒人の生命や権利さえ蹂躙し続ける米司法が、キリスト教世界と歴史的対立関係にある国々の非白人の権利に関心を持つ理由はない。

アイゼンハワー元大統領が1953年に連邦最高裁長官に任命したアール・ウォーレン判事が、アイゼンハワーの意に沿わなかったのは有名な話だ。しかし、司法は方法論において大統領や議会と対立することはあっても、人種問題という建国以来の核心問題では、一貫した癒着を示すのだ。

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