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トランプの入国禁止令は、へき地医療を崩壊させるリスクがあるだけでなく、質の高い診療を行っている外国人医師を追い出すことになりかねない

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(写真:Yuya Tamaiクリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般

2017年1月27日、アメリカのトランプ大統領は、中東やアフリカの7か国の人の入国を90日間禁止することを命じた大統領令を出した。これに関して、トランプ大統領は「悪意を持った悪者を国に入れないため」と正当性を主張しているが、これに対して全米や世界各地で抗議デモが起きるなど反発が広がっている。アメリカではクリーブランドクリニックに勤務しているスーダンのパスポートを持つ医師がアメリカに戻れなくなったり、今年度マッチングに応募した研修医のうち260名がこの7か国出身であり入国できなくなるという事態が新聞報道されており、波紋が広がっている。

日本にいると外国人医師の診療を受ける機会はあまりないかもしないが、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアでは、医師のおよそ1/4は外国人医師であり、大きな割合を占めていることが分かる。さらに、外国人医師は、米国人医師があまりやりたがらない、へき地や貧困層の住む地域の医療を担う傾向にあることが過去の研究からも知られており、アメリカの医療を支える重要な人材となっている。外国人があまりアメリカで医療を行うことに魅力を感じなくなると、アメリカでも医師不足(特にプライマリケア医)が起こったり、へき地医療が崩壊するのではないかということが心配されている。

ここで言う「外国人医師」とは、外国の出身でアメリカ(イギリスやカナダでも事情は一緒であるが、ここではアメリカという表現で統一する)の医学部を出た医師のことではなく、海外の医学部を出てからアメリカに渡り、そこで医師免許を取り直して診療している医師のことを指す。つまり、本文では、海外の医学部出身の医師(International medical graduate)のことを、(このままだと長すぎるため)「外国人医師」と表現する。もちろん、日本の医学部を出てアメリカで臨床医として第一線で奮闘している医師も、「外国人医師」に含まれる。

外国人医師がアメリカの医療を支える人材であることは明らかであるが、その医療の質が高いのか低いのかに関してはあまり知られていなかった。そこで、ハーバード公衆衛生大学院の津川友介氏らが率いる研究グループは、アメリカの急性期病院に内科疾患のために入院した約120万件の入院データ(医師数=約44,000人)を解析し、その担当医が外国人医師(海外の医学部出身の医師)であった場合と、アメリカ人医師(アメリカ国内の医学部出身の医師)で、①入院日から30日以内の死亡率、②退院日から30日以内の再入院率、③一入院あたりの医療費が異なるのかを検証した。この研究結果は英国医師会の学会誌であるBritish Medical Journal(2017年2月3日オンライン版)に掲載された。

外国人医師の方が軽症患者を診療している可能性を取り除くために、①患者の重症度(患者の年齢、性別、人種、主診断、27個の併存疾患、郵便番号から推定された収入レベル、貧困層向けの保険であるメディケイドに加入しているか、入院した曜日)、②医師の特性(年齢、性別、治療した患者の数)、③病院の特性で補正した。つまり、同じ病院内で、同じ重症度の患者の治療を行ったという条件の下で、外国人医師とアメリカ人医師の患者のアウトカムを比較していることになる。

解析の結果、外国人医師に治療してもらった患者の方が死亡率が低いことが明らかになった(図1)。リスク補正後の30日死亡率は、外国人医師が11.2%であったのに対して、アメリカ人医師は11.6%であり、統計学的に有意な差であった(補正後のオッズ比0.95、95%信頼区間0.93~0.96、P<0.001)。一方で、再入院率は、外国人医師とアメリカ人医師で差はなかった。リスク補正後の医療費は外国人医師の方が若干高いと言う結果が得られた

図1.海外の医学部出身の医師と、アメリカ国内の医学部出身の医師の患者のアウトカムの比較

入院件数

(医師数)

リスク補正後の患者のアウトカム

(95%信頼区間)

補正後のオッズ比もしくは差

(95%信頼区間)

P値*

海外の医学部

出身の医師

アメリカ国内の

医学部出身の医師

30日死亡率

1,180,879

(42,710)

11.2%

(11.1%~11.3%)

11.6%

(11.5%~11.7%)

0.95

(0.93~0.96)

<0.001

30日再入院率

1,149,024

(42,667)

15.4%

(15.3%~15.5%)

15.5%

(15.4%~15.6%)

1.00

(0.98~1.01)

0.54

一入院あたりの医療費 1,240,867

(42,944)

$1145

($1140~$1150)

$1098

($1093~$1103)

$47

($39~$55)

<0.001

(出典:Tsugawa et al. BMJ 2017を一部改変)

患者の重症度、医師の特性、病院で補正している。つまり、同じ病院内で、同じ重症度の患者を治療した場合、2つのグループがどう異なるか検証している。

*今回は3つのアウトカムを検定したため、P値が<0.016の時に統計学的に有意に異なると結論付けることができる。

外国人医師の方が軽症患者を診ているのではないかという意見もあるかもしれない。しかし、データを見てみると(論文中のTable 2)、外国人医師の治療した患者の方が併存疾患が多く、収入も低いことが分かる。

もちろん観察できない要因において外国人医師の患者の方が軽症であるという可能性はゼロではないものの、観察できるデータがほぼ全て外国人医師の患者の方が重症であることを示唆しており、観察できないデータがその逆のパターンを取るということは考えにくい。さらに、以前の女性医師の医療の質を評価した論文と同様に、ホスピタリスト(入院患者の治療の身を担当する内科医のことであり、シフト勤務であるため患者をえり好みすることができず、どの医師も患者の重症度がほぼ一定であることが知られている)を用いた分析も行った。その結果、ホスピタリストに限定しても、外国人医師の方が患者の死亡率が若干低いことが明らかになった。

トランプ大統領の大統領令は、アメリカの医師不足やへき地医療の崩壊を引き起こすリスクがあるだけでなく、質の高い医療を提供している外国人医師を追い出すことになりかねないことが今回の研究で明らかとなった。この大統領令によってアメリカ人が質の高い医療を受けにくくなるという予期せぬ結果になる可能性すらあるのである。

日本でも2020年の東京オリンピックを見据えて、外国人医師の診療拡大に向けた動きが活発化している。2015年には、国家戦略特区法の改正案が成立し、外国人医師が日本で診療することを可能にする「臨床修練制度」の規制が緩和された。通常は外国人医師は厚生労働省が指定した病院か、指定病院と連携体制が確保された診療所でしか診療できないが、国家戦略特区では指導体制を整えていれば単独の診療所でも診療できるようになる。

今後2020年に向けて、一般の人が外国人医師を目にする機会が日本でも増えるかもしれない。外見、人種、言葉で医療の質を推し量るのではなく、きちんとしたデータを元に質の高い医療を提供している「質の高い診療を行っている名医」を評価することの重要性がますます高くなってきている。日本ではそのようなデータが存在していないため、患者さんが質の高い診療を受けられるようにするためにも、データを整備することが急務であると思われる。

参考文献

Tsugawa Y, Jena AB, Orav EJ, Jha AK. Quality of care delivered by general internists who graduated from foreign versu U.S. medical schools in U.S. hospitals: observational study. BMJ 2017 (forthcoming on February 3, 2017)

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