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【アメリカの保守主義】

トランプさんの矢継ぎ早の対応に目が回りそうです。最高裁判事の人選にしても、移民入国禁止令にしても、円に対する発言でも、その根底にあるものは何か?
そんな疑問を持ちながら、アメリカの保守主義研究の権威の George Nash 先生のお話を聞きました。笹川平和財団が主催の講演で、タイトルはAmerican Conservatism and the Problem of Populism (米国における保守主義とポピュリズム)です。

「これからのアメリカ政治を決定づけるのは右か左かではなく、(教育や所得など)社会・経済の定規で上か下かだ」などがすとんと腹に落ちました。印象に残った点をざっくりご紹介します。
一言で言うと、根底にあるのは右と左(the left andthe right)のハイブリッド的なポピュリズムで、その理論的支柱はSteve Bannonが考えているということです。キーワードとして「リスペクト」も。
ジョージ・ナッシュ博士

特に20世紀のアメリカの政治史を専門とする在野の研究者、歴史家で、ハーバート・フーバー元大統領に関する研究の権威

著書は"The Conservative Intellectual Movement in America Since 1945"や "Reapraising the Right: The Past and Future of American Conservatism" など

今回が初来日。「京都と奈良への旅も楽しみ」とも



アメリカは今、かつてない事態を迎えている。そして、アメリカの保守主義もまた重要な節目を迎えている。そもそもアメリカの保守主義とは一枚岩ではなく、さまざまな潮流の合体として進化してきた。

戦後のアメリカ政治はもともとは左よりだった。それに対抗したのが■ Friedrich Hayek や Milton Friedman とった伝統的なリベラル派やリバタリアン、■ Russell Kirk のような宗教を重んじる伝統的な保守派、■冷戦時の反共産主義者、■ Irving Kristol に代表されるネオコン、■宗教右派 (=social conservatives) 。

冷戦の終焉で共通の敵がなくなり、とりわけこの 20 年で起きたことは、人種や文化の異なる者どうしの交流だ。そうした中で登場したのがポピュリズムだ。

ポピュリズムとは、一般庶民がエリートに反乱を起こすこと。ポピュリストと言えば、左側が批判する相手は銀行や企業経営者。悪党 (villain) と呼んできた。ポピュリスト的な保守主義を打ち出したのはレーガン大統領。お別れ演説で we the people と表現したのが象徴的だ。

これまでは、■左の標的がウォール街に代表される銀行など民間企業( big money, private sector elites = Wall Street) に対して、■右の標的がワシントンに代表される大きな政府という官僚組織( big government, bureaucratic elites = Washington DC)だった 。

一方、トランプ氏は、この右と左のいわばハイブリッド型だ。このトランプの爆発的な広がりをみな予測できなかった。これまで、右と左を包含するようなナショナリスト、ポピュリストはいなかったのだ。

これが生まれた背景は、■グローバル化、■移民の増加、■テロに対する恐怖。人々の間に「グローバルエリートには問題を解決して社会を良くしようという能力も意思もない」と思いが広がった。

これからのアメリカ政治を決定づけるのは右か左かではなく、(教育や所得など)社会・経済の定規で上か下かだ (those above and below on the socio-economic scale) 。それをもっとも感じているのがワーキングクラスの白人だった。

これに拍車をかけたのが、ラジオのトークショー、ケーブルネットワーク、ツイッターなどのソーシャルメディアだ。エリートが操作できないものだ。

トランプ大統領の原理原則を支えているのは Steve Bannon であり、彼は自らの主張を経済ナショナリスト( economic nationalist) だと呼んでいる。バノンはインタビューをほとんど受けていないが、数少ないインタビューをきっちり読んで考えを理解する必要がある。

トランプ側は戦後の保守主義を根本から変え、宗教や倫理的な懸念にまったく無頓着だ。これに対するのが共和党の議会下院議長の Paul Ryan 。レーガン的な保守主義を信奉している。

今後のアメリカの保守主義はどうなるのか?レーガン的な保守主義とトランプ的なポピュリズムは、物事を進めるために(to get things done)コラボレートできるかもしれない。そのためには、この両派が互いにいがみ合わないこと (resist to feud with each other)が鍵だ。声だけでなく心が必要だ (needs minds not just voices)。

今回の選挙は一般の人々が「エリートは自分たちのことを考えちゃいない」という反乱だった。とりわけクリントン候補が "half of Trump’s supporters are a basket of deplorables( トランプ支持者の半分は人種差別主義者など情けない人たち) " と発言したのが痛かった。こうした人たちはトランプからはリスペクトを感じたのだ。

今回の選挙でよく次のように言われた。Trump critics didn’t take him seriously but took him literally whereas Trump supporters took him seriously but not literally (トランプを批判する人たちは、トランプの言動を文字通りに受け取ったが、トランプの存在を真剣には受け止めなかった。一方、トランプ支持者は、トランプのことを真剣な候補として受け止めたが、言っていることをいちいち文字どおりに実現するとは思っていなかった)。言い得て妙だ。

アメリカはかつてないほど分断している。この分断をどう埋めていくかは難しいが、経済がこれまで以上に成長し、政治に対する怒りが収まり、トランプが経済成長の担い手だったと顔を立ててもらえれば、少し埋まると思う。

仮に私がトランプをアドバイスするならば、私が研究してきたフーバー大統領のように世界を旅して知見を増やしてもらいらい。もう一つは、レーガン大統領の素晴らしい特技であるユーモアのセンスを身につけて欲しい自らをネタに笑いを取るくらいの余裕があれば、緊張も解けるものだ。トランプはこのあと、もう少し普通の大統領になるかもしれない。しかし、それは希望的な観測かもしれない。

トランプの特徴は、■国際機関を信用しておらず、なるべく二国間で問題を解決したいと考えていること、■強い国家が好きで、リーダーとは 1 対 1 の個人的な関係を望むこと、■相手をリスペクトでき、しかも相手が自分のことをリスペクトしてくれる人とはうまく協調できること。


✴︎モデレーターは元共同通信記者で青山学院大学教授の 会田弘継さん

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