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ハーレムのイスラム教徒〜私の隣人たち

■イエメンからの男性



 先日、TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』に電話出演し、10分ほど荻上さんの質問に答える形式で「イスラム7ヶ国民の米国入国禁止」の大統領令が出された後のニューヨークの状況を説明した。その時に話したイエメン系の男性の話を補足したい。

 番組出演にあたって7ヶ国からの移民の話を聞きたかったが知り合いにはいなかった。ニューヨーク市内のイスラム団体に電話をすれば話は聞けるはずだが、できれば直接会って話をしたかった。そこで「ボデガ」に行くことにした。

 ボデガとはニューヨークに無数にある食品と雑貨を売る店だ。ダウンタウンではデリと呼ばれるが、ここハーレムではボデガと呼ばれる。経営者はドミニカ系か中東系。ハーレムでの密集度は日本のコンビニよりはるかに高い。だから家の近所で数軒回れば7ヶ国の人に一人くらいは当たるだろうと思った。

 さっそく家を出て角を曲がり、まずは自宅にいちばん近いボデガに入った。レジカウンターにいるオーナーらしき年配の男性は携帯で熱心に話し込んでいる。アラビア語ではないかと思う。電話が終るまで待とうと思ったが、おそらく現状について語りあっているのだろう、長くなりそうな気配だった。

 その時、背後からアラブ系の訛りのある英語で「グリーンカード(米国永住権)が~」という会話が聞こえた。若い店員だった。これはチャンスと思い、日本のライターです、大統領令について話を聞いていいですかと尋ねた。

 その店員はいぶかしげな顔付きで「日本人なのになぜ?」と聞き返してきた。もっともだ。今回の大統領令は日本でも大きな話題になっているし、私自身アメリカに暮らす移民であり、アメリカには戦時下に日系収容所を作った歴史があると説明すると、「へぇ、なるほど」と彼自身の状況を話してくれた。

 その青年は7ヶ国のひとつ、イエメンの出身だが、すでに市民権を取得していた。大統領令が出されたちょうどその日、親戚一家が里帰り中の故郷からアメリカへのフライトに乗っていたと言う。ワシントンD.C.の空港に到着した際、一家の両親は市民権保持者で大丈夫だったが、子ども二人はグリーンカード保持者だったので勾留されているとのこと。

 その日の朝、連日のデモと法律家たちの抗議に屈したトランプ政権は「グリーンカード保持者は禁止令から除外」の発表を行っていた。朝から店で働いてたらしい青年にそのことを告げると、「それは良かった!」と喜んだ。

 途中で録音してもいいかと尋ねると予想どおり、「ほら、分かってると思うけど僕たちはプレッシャー下にあって、家族とかいるし……」。もちろん理解している。だから青年の名前も親戚一家の詳細も敢えて聞かなかった。


■甘いコーヒー



 これが今のハーレムだ。中東出身のムスリムがたくさんいる。他にも西アフリカ諸国からの移民とその子どもたち、南アジア諸国からの移民とその子どもたち、そしてマルコムXのようにどこかの時点でキリスト教から改宗したアメリカ黒人とその子どもたち。

※ハーレムに住んでいるのはアメリカ黒人とアフリカ移民。中東系と南アジア系はそれぞれのコミュニティに暮し、ハーレムに“通勤”している

 だからハーレムの日常生活では当たり前にイスラム教徒と接する。買物に行く店の店員だけでなく、ダンキンドーナツの店員(ほとんどが南アジア系だ。砂糖抜きのコーヒーはコーヒーではないらしく、入れないでと言っても入れる人がいる)、道ですれ違う通行人(ヒジャブを被っていればおのずと分かる)、露天商の中には歩道に小さな絨毯を敷いてお祈りをする人もいる。息子の小学校のクラスメイトにも何人かいた。あるお父さんはPTAのイベントによく来ていた。

 私のハーレムツアーで立ち寄る店にもイスラム教徒が経営するものがある。彼らとは普通に雑談する。宗教の話は滅多にしない。かなり以前、「君、宗教はなに?」と聞かれて「無い」と答え、見事にどん引きされたことはある。別の店で店員の男性に日本のお菓子をお裾分けした時、「ポークは入ってないよね?」と念押しされたことはある。(ラマダンの時期だったが、その人は「やってないんだよね~」と笑っていた)

 息子の遠足に付き添い、教会見学の際に中に入ろうとしないイスラム教徒の生徒と、ちょっとした話をしたことはある。ヒジャブを被った女の子から「断食を少しずつ練習してるの」と聞いたこともある。

 そういえば、以前勤めていたハーレムYMCAでの同僚だったバングラデシュからの移民で当時大学生だった女性は、ムスリム女性のファッションや、親の世代との宗教観の違いについていろいろ教えてくれた。

 しかし普段はそうした違いを気にすることはほとんどなく、皆、普通の隣人たちだ。そんな人々が今、一週間前と同じように当たり前に働き、学校に通いながらも心の底には大きな恐怖を抱えているのである。

連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)





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