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テスラ車死亡事故に関する報告書について

2016年5月7日にアメリカ・フロリダ州で起きたテスラモデルSとトレーラーとの衝突死亡事故について、約6カ月間に及ぶ調査を実施していたNHTSAが、「現時点では、安全関連の欠陥は特定されていない」として、調査の打ち切りを公表した。

これを受けて、イーロン・マスクCEOは、「レポートのハイライトは、『テスラ車の事故率がほぼ40%低下したことをデータが示したことだ』」とツイートしたと報じられている。これを受けた1月20日のGigazineは、「テスラのオートパイロットに欠陥はなし、むしろ事故を40%も減らすとの調査結果」との見出しで報じている。

そこで、NHTSA報告書の原典に当たって確認してみた。

NHTSAとは、National Highway Traffic Safety Administrationの略で、直訳すれば「国家高速道路交通安全局」となる。国土交通省の自動車安全担当部署に該当する組織と思われる。

全13ページとなる報告書は、「テスラモデルSは、フロリダ州ウィリストンの西にある道路の信号のない交差点を横断するトレーラーと衝突し、テスラドライバーに致命傷を負わせました」から始まっている。「横断」とあるが、事故現場の見取り図をみると、左折する大型トレーラーの荷車部分に直進するテスラが突っ込んだ形で衝突したことが分かる(米国は右側通行だから、左折車は対向車線を横切ることになる)。報告書によれば、テスラ車から得られたデータより、①衝突時にテスラ車がオートパイロットモードであったこと、②自動緊急ブレーキシステムは警告または自動制御しなかったこと、③運転者は制動その他の事故回避措置を取らなかったこと、④最後に記録された運転者の行動は衝突前2分以内にクルーズコントロールの設定速度を時速74マイル(時速120㎞)に上げていたこと、が分かるという。また、事故当時は晴れで、道路は乾燥していたという。また、NHTSAが行った再現実験によれば、衝突の少なくとも7秒前からは、テスラ車のドライバーからトレーラーが見えたはずだ、ということである。

テスラは、見通しのよい道路の前方を横切るトレーラーが引く荷台の下に潜り込むように衝突した。自動ブレーキシステムはなぜ作動しなかったのか。オートパイロットに問題はなかったのか。報告書は、この2点を中心に分析を行っている。

第一に、自動緊急ブレーキ(AEB=Automatic Emergency Braking)システムについて、報告書は、AEBは前方障害物警告(FCW=Forward Collision Warning)、ダイナミックブレーキ補助(DBS=Dynamic Brake Support)、衝突直前ブレーキ(CIB=Crash Imminent Braking)の3システムによって構成されるとしたうえで、直角交差や左折車・対向車との衝突、木や電柱への衝突は守備範囲外と述べている。そして、本件事故についても、「フロリダの致命的なクラッシュに存在するような交差路衝突のブレーキングは、システムの期待される性能能力の範囲外である」と述べ、テスラ車のAEBシステムには問題がないとの見解を示した。

確かに、AEBの目的は、現在のところ追突防止であり、対向・右折・左折車との衝突や出合頭の衝突防止は、技術的に難易度が高い。そのため、米国の安全基準は本件事故が回避できるレベルでのAEBを求めていないので、テスラ車のAEBには問題がない、との結論になったものと思われる。

第二に、本報告書は、テスラのオートパイロットシステムはTACC(Traffic Aware Cruise Control=同一車線内を、先行車と適切な間隔を空けて走行する)とオートステア(Autosteer=車線、標識、周囲の車の位置に基づき、最適な車線の中央を走行する)の二つによって成り立っているとしたうえで、双方について、マニュアル上ドライバーに対して「ハンドルを握り、周囲に注意」することを求める警告が記載されているとしている。また、ドライバーがハンドルから手を離すと、15秒後から警告が鳴り始め、その後10秒間に応答がなければ、その5秒後に減速が始まるよう設定されていると述べる。本件テスラ車のシステムが、これらの設定どおりに働いていたか否かについて、本報告書は具体的に言及していないが、おそらく、問題がなかったということなのだろう。なお、事故後の9月には、ドライバーが警告に対応しなかった場合、再度オートパイロットに変更しようとしてもできないという「ストライクアウト」にシステムがアップデートされたという。

上記2点を中心とする検討を踏まえ、報告書は「フロリダの死亡事故の原因は、少なくとも7秒間という長期の注意散漫によって引き起こされたように見える。7秒間もの注意散漫というのは、(注意散漫によって引き起こされる自動車事故の大半が、3秒程度の注意散漫であることに比べると)珍しいが、あり得ないことではない。」と述べている。このことと、テスラ車のシステムについて政府が定める基準違反が発見されなかったことをもって、「現時点では、安全関連の欠陥は特定されていない」と結論づけたものと思われる。

以下は感想となるが、確かに、直線で見通しが良いとはいえ、時速120キロで走行しながら7秒間以上前方を見ない、というのは、日本の高速道路でさえ、相当危険な行為であろう。まして、今回事故が起きた道路には所々交差点があって、対向車などが進入してくるというのだから、時速120キロで7秒間前方を見ないというのは、自殺行為と言われても仕方あるまい。その意味で、本件事故の主たる原因がドライバーにある、という報告書の結論に異論はない。

また、NHTSAの立場としては、テスラ車に装備されたAEBやオートパイロットのシステムが、国の基準を満たしていることが確認できたならば、それで調査を打ち切るのも当然といえる。

しかし、NHTSAが問題なしという報告書をまとめたのは、単に、現時点での国の基準に照らして問題がないことを認めたに過ぎないことには、注意する必要がある。NHTSAは、与えられた基準の中で当否を判断しているだけであって、その基準が、テスラのような自動運転自動車の(将来)あるべき基準として妥当か否か、という判断はしていない。

不幸なドライバーは、時速120キロで走行しながら少なくとも7秒間前方を見ない、という致命的なミスを犯した。だが、彼がなぜそのような無謀なことをしたかといえば、テスラ車の機能を信頼したからであろう。もし「AEBでは対向車との衝突を避けられない」ことを知っていたら、同じ行動に出ただろうか。AEBの限界はマニュアルに書いてあるのだから、読まない方が悪い、と断言してよいのだろうか。

さらに不幸なことに、衝突したトレーラーの荷台は、道路と床面との間が非常に広かったため、テスラ車は前方に障害物ありと認識しなかったものと思われる(障害物ありと認識してれば、結果的に衝突は避けられなかったかもしれないが、自動的に制動していたはずだ)。しかし、広いとはいえ運転席の屋根が丸ごと吹き飛ぶ程度の空間しかなかったのだから、この程度で障害物なしと認識されたのでは、完全自動運転に移行するのはまだまだ先と言わなければならない。また、イーロン・マスクCEOは、テスラ車が障害物と認識できなかった理由として「白く塗装された荷台が光を反射したため」と述べているが、少なくとも人間が障害物と認識できるものであれば、機械が障害物と認識できなくては困る。

報告書は確かに、オートパイロットシステムを導入したテスラ車の事故はほぼ40%低下したと述べている。だが、単純に事故数を引き算することは間違いだと思う。なぜなら、「4割の減少」は、実は「5割の減少と1割の増加」の結果かもしれないからだ。オートパイロットの導入によって、「いままで起きた事故が起きなくなった」だけなら、無条件に良いことといえるだろう。だが、もしかしたら、「今まで起きなかった事故が、起きるようになった」ことがあるかもしれない。それはたとえば、人間がシステムを信頼したがゆえに、自らハンドルを握っているときにはおよそ起こさなかった事故に巻き込まれる、ということであるかもしれない。「人間のミス」に起因する事故が5割減ったとしても、「機械のミス」に起因する事故が1割増えた場合、社会は「差し引き4割減ったから自動運転車の方がよい」として受け入れるとは限らない。

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