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トランプの「中国製品に45%の関税をかける」という公約は、実行に移される

ひとつ前の記事、「トランプがこれまでに出した14の大統領令」を見ればわかるとおり、ドナルド・トランプは大統領に就任して以降、怒涛の勢いで選挙中に公約したことを実行に移し始めています。

トランプの選挙戦のマネージャーだったキャリアン・コンウェイは現在、トランプの顧問になっていますが、彼女は「トランプが選挙戦に公約した事は、全部、実行に移されるだろう」とテレビのインタビューにこたえています。

これは、我々投資家が期待していたシナリオとは、ちょっと違う展開なのではないでしょうか?

投資家が期待したシナリオとは「トランプには税制改革だけをやって欲しい!」ということでした。

なかでも「中国製品に45%の関税をかけるのは、ぶちこわしになるから、止めてほしい」わけですが、ここまでの流れを冷静に観察すれば、そういう「選り好み」は許してもらえそうもありません。

ところで大統領には本当に中国製品に45%の関税をかける権限があるのでしょうか?

これはいろいろなシナリオが考えられますが、結論的には「ありえないとは、断言できない」ということになると思います。その様々なシナリオは、下にまとめておきます:

貿易戦争のためのツール

【1974年通商法 セクション201】
輸入品がアメリカ国内市場を席巻することで国内産業に深刻な打撃を与える危険がある場合、当該産業を一時的に保護するための暫定措置として大統領令を発することができる。
そこではまず下院歳入委員会(House Ways and Means Committee)ないしは上院財政委員会(Senate Finance Committee)が米国国際貿易委員会(International Trade Commission)に対し調査を指示する。米国国際貿易委員会は120日以内に調査を完了し、大統領に提言(recommendation)を行う。大統領はその提言を採択し、必要な措置を4年間講ずる。これは8年まで延長できる。但し二国間協議で合意された内容に関してはセクション201に基づく暫定措置は使用できない。また暫定措置を講じようとしている対象商品に関しては、どの国からの輸入品にかかわらず、全ての国からの輸入品に同様の扱いをしなければいけない。暫定措置の内容としては関税やクウォータ(数量規制)が含まれる。

注:これが最後に使用されたのは2002年です。なおWTOは独自の暫定措置を持っており、米国が1994年以降に発動した全ての暫定措置に対し違法の判断を示しています。

【1974年通商法セクション301】
産業界からの請願があった場合、米国通商代表部(United States Trade Representative)は外国政府の貿易政策や過去の行動を調査することができる。もし、それらが国際的な協定に違反、ないし米国の通商に対し理不尽、ないしは正当化できない、もしくは差別的な制限や負担を課すものであると判断されれば、罰則を課す(punitive action)ことができる。
セクション301を利用することで米国は外国に与えた許可を取り上げることができるほか、関税を課す、貿易を制限する、フィーを課す、などの措置を実施できる。なおセクション301は主に外国政府が米国製品に対し差別的な政策を当てはめている場合に援用される。

注:最後にセクション301が使用されたのは2006年です。WTOは、「まずWTOの調停機能を使うことをせず、WTOの承認なしに罰則を課すことはルール違反だ」と主張しています。この批判を受けて米国は「WTOの承認なしにUSTRが罰則を課すことを禁ずる」ことを成文法化しています。しかし今回米国通商代表部代表に任命されたロバート・ライトハイザーは、セクション301をもっと積極的に活用することを提唱しています。さらに「WTOの仲裁メカニズムは中国との交渉において全く有効性を発揮してこなかった」と辛口の指摘をしています。

【1962年通商拡大法セクション232】
米国商務相は特定の輸入品が「米国の安全保障をおびやかす恐れがあるかどうか」調査することができる。このような調査を実施する場合、それを270日以内に完了し、大統領に報告書を提出する。米国が「信用の置けない、安全でない輸入品」に依存することを避けるため、また米国の国内産業が国防上のニーズを充足させる能力を、輸入品が殺ぐことになることを避けるために適用される。大統領はそのような輸入品を無制限に禁止できる。

【1917年敵国通商禁止法、1977年国際緊急経済権限法】
これらの法律は、戦時、もしくは緊急事態の際、大統領に商業に関し広範な権限を付与することを目的にしている。下院の承認は必要ない。調査も必要ない。具体的には外国の資産凍結、交易の禁止などを行う事が出来る。

いずれにせよトランプが貿易問題で行動を起こすのは時間の問題だと思います。

トランプは日本人からは「ハチャメチャだ」と思われていますが、実際にはビジネススクールで教えている交渉術に則った、きわめてオーソドックスなネゴシエーション・スタイルです。

そこではまず「ぱぁ~ん!」とべらぼうに高い数字を吹っ掛け、相手を威嚇します。これは自分の次の行動の選択肢を最大限に確保するためにも重要なことです。

また自分が最初に言った数字は、相手の頭の中にこびりつきます。そのような印象操作のことを「アンカー(投錨)リング」と言います。

次に相手が「最低限、これだけは譲れない」と考えているワースト・ケース・シナリオがどこなのか? を探ります。それはビジネススクールではBATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement)と呼ばれます。

こうして定義される上限と下限を「バーゲニング・レンジ」と言います。

交渉に際しては、アンカーを自分の近くに投げ過ぎると、後で交渉の際、譲歩しなくてはいけなくなったとき、自分の利益を減らしながら、失地してゆく羽目に陥ります。だからアンカーは、なるべく遠くに投げた方が良いのです。

また実際の交渉ではWIN-WINのカンケーをつくらないと、なかなかシャンシャンできません。そこでは譲歩が双方feel goodのために不可欠です。

いくら相手を腕力でねじ伏せたところで、実際に仕事を始めると、相手の心からの賛同(buy in)が無ければ、仕事に熱が入りません。

「自分も頑張った。だけど相手も頑張った……」そういうオーラを出すことが大事なのです。

そのためにも、最初は「中国製品に45%の関税をかける!」というようなトンデモな出発点から交渉事を始めるのが、少なくともビジネススクール的な交渉術としては「正解」になります。

但し……

世界の人々が上に述べたようなアメリカ流の交渉術をよしとするかどうかは、保証の限りではありません。

一例として、中国はとてもメンツを重んじる国です。だから彼らが「コケにされた」と感じたら、雰囲気はとたんに剣呑になるでしょう。

その場合、中国側が「一罰百戒」で、みせしめの報復措置を講じるというのも、フツーに考えられるシナリオです。

それについては別のところに細かく解説しておきました。

「ドナルド・トランプ政権の保護貿易主義が米国株に与える影響」

さて、投資戦略ですが、僕は今後のマーケットの先行きに関しては、「2017年の投資戦略」で述べた通り、楽観視していません

1月もほぼ終了ですが、これまでのパフォーマンスは次の通りです。

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