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【映画評】沈黙 -サイレンス-



沈黙 (新潮文庫)沈黙 (新潮文庫)

全編、暗くて重い映画です。考えてみれば、どんなに願っても神は降りてこないということを3時間弱かけて描くのですから、それは当たり前かもしれません。

タイトル「沈黙」の主語は神です。なぜ神は、信者がこんなに苦しんでもなお、沈黙を貫き通すのか…? それは、一神教を信じるものとして当然の疑問で、信仰心の篤ければ篤いほど、より強く感じてもしかたないものです。

でも、「沈黙」があるからこそ、信者は神に声を想像して、居住まいを正さなければならない。踏み絵も形式的に踏んでしまえばいいのに、とついつい不信者は思ってしまうものですが、神の「沈黙」があるからこそ、信者にはそれができない。この映画は宗教弾圧の苛烈さを描く一方で、どこかで、そうした宗教そのものの不条理さをも描いています。

その点、窪塚洋介が演じたキチジローという存在が興味深い。お前いつも踏み絵してんなという仕方がない(その一方でどこか憎めない)ヤツで、途中からはそれが面白くなってきてしまいますが、彼は踏み絵を踏むたび、主人公の司祭(パードレ)に告解をせがんで帳消しにしてもらおうとする。彼のような心の弱い信者ほど生き延びるというのは、どこか皮肉です。

もっとも印象的なのは、イッセー尾形が演じる官吏でした。演じているのは、井上筑後守という異教徒の根絶やしを目論む存在ですが、別に彼は鬼の形相で主人公らに棄教を迫るわけではありません。終始にこやかに、真綿で首を締めるように、転向(当時の言葉で「転ぶ」という)を勧めるのです。でも、その笑みがかえって、ああ、絶対この人は許してくれないだろうという絶望感を与えます。

そのくせ、この人自身には強い信念がなさそうなのも恐ろしい。原作を読むと、井上とキリスト教の関係はもう少し掘り下げられていますが、今回の映画の井上については、信教などどうでもよくて、彼はただお上の命令にしたがって担当地域を管理しているだけのように思える。それがかえって、ナチスドイツのアイヒマンをめぐる恐ろしさに通じるものがあるのです。

さて、そんな映画版「沈黙」ですが、クライマックスは原作と照らしあわせてみると、かなり思い切った「継ぎ足し」がなされています。ラストカットによって、主人公の晩年の意味が反転するのです。それは、信仰のしたたかなあり方を表現しているような気がしました。

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