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仕事としての保育士を認めよ

 千葉県千葉市は「男性保育士活躍推進プラン」として、保育士が男女の別にかかわらず同じ業務を行えるようにしたり、男性トイレや更衣室の増設といった環境整備を進めることを決めた。

 この決定について、千葉市の熊谷俊人市長がこれまで男性保育士が活躍できる機会が少なかったことには、「女児の保護者の「うちの子を着替えさせないで」という旨の要望が通ってきたなどの課題がある」としてTwitterにつぶやいたところ(*1)(*2)、賛同も多い中で「男性保育士に警戒するのは仕方ない」「性犯罪の加害者の9割が男性であり、考慮する理由になる」など、男性保育士による女児の着替えを忌避する反応があったという。(*3)

 この件に関してやり取りをした結論を、熊谷市長が自らフェイスブックに掲載している(*4)ので読んでほしいのだが、僕もこの主張に賛同する。
 保育にまつわる多くの仕事がある中で、男性保育士だけを女児の着替えやオムツ替えだけから外すことは不適当であること。また、安易に男性保育士を女児から遠ざけることは、性差別や他者に対する偏見を助長することにもつながる。

 そして何より、そもそも男性保育士を排除するよりは、男性女性にかかわらず、情報や状態を共有し、いつでも複数の保育士の目が届くようにオープンな体制を維持することのほうが、建設的であるという、熊谷市長の見地に対して、まさにそのとおりだと思う。
 保育員は集団生活の場である以上、個々の児童をある程度画一的に扱う必要がある。それは一見、合理主義的な愛情なきものに見えるかもしれないが、愛情というレッテルがむしろ現実に潜む問題を見えにくくすることもある。

 少子化が進んでいる現状では、当然、子育て経験の乏しい親も多く、決して親は我が子に対する専門的な知識を持つわけではない。人はそれぞれ違うけど、ある程度は同じであることも事実だ。多くの保育士が多くの子供と接する中で、体調不良を発見したり、危険な兆候を発見し、問題が発生する前に保育士や親たちと情報を共有し、子供の成長を見守っていくということは非常に重要である。

 そうした場に対して、これまで通り「子育ては女性のもの」として女性の聖域にしていくのか、男性保育士を増やして行くのか。単純なリスクヘッジという点では、ただでさえ社会的ステータスが低く、給料も多くの子供の成長と命を預かるという仕事でありながら、そのわりには高く無いと言う意味で、保育士のなり手は多くないのだから、採用の幅を広めるという点でも男性にも門戸を開くべきだ。また、子供の成長においても、関わる人間の多様さは重要だろう。その点においても僕は男性保育士もたくさんいたほうが良いと思う。

 さて、僕自身が男性保育士を増やしたほうがいいと思う一方で、男性保育士を忌避する側の問題も論じておきたい。
 僕が忌避する人に対して思うのは「それは誰の権利だ?」ということである。
 子供が自らの羞恥のために、男性保育士を嫌がるというのなら仕方ない。それは逆に助成を意識し始めた男児が女性保育士などを嫌がることも同じである。

 しかし、今回の件は親が「私の子供が、男性保育士に着替えやオムツ替えをさせられるのが嫌だ」と言っているのである。それはいくらどのような理由をこじつけようとも子供の権利というよりは親の権利であろう。親が自らの感情を「子供のため」と称して一方的に他者にぶつけているに過ぎない。そのことに僕は嫌悪を感じる。

 いわゆる「モンスターペアレント」の問題がそうなのだが、子供の権利を主張しつつ、実際に主張されるのは親の権利であり、当の子供はダシに使われているだけということも多い。

 そして、そもそも、それほど他者が信じられないのであれば、いっそのこと自分で育てたらどうだろうか。子供を保育園に預ける親は、仕事などで子育てに関われないために子供を預けているのだが、そのこと自体に不満があるなら、もう自分で育てるしかないだろう。他人に子供を預けるが、預けた他者の仕事を信用しないというなら、そこにあるのは断絶だけである。

 もしくはそうした要望を受け入れる私立の保育園を使えばいい。男性保育士に女児を扱ってほしくないという要望が多ければ、女性保育士しかいない、そうした保育園もできるだろう。しかしそれは公立保育園のニーズではない。

 そしてそもそも「男性だから女児にいたずらをするだろう」という論理が、性差別に基づく偏見に過ぎないということ。これをハッキリと主張しておきたい。
 男性保育士に対する偏見は、ずっと大きな問題になっている。ロリコン視されるということだけではなく、子供の親たちとの付き合いも親身になって対応すればするほど「変な噂」となって跳ね返ってくる。(*5)

 ただでさえ薄給で肉体的にもキツイ仕事であるにもかかわらず、更には男性だというだけで精神的にも追い込まれるのだから男性保育士が増えないのも道理である。
 こうしたときに、本来であれば男性保育士の権利を守らなければならない、性差別に反対する立場の人たちも、女性差別に対しては目ざとく批判を繰り出すが、男性差別に対してはどうも緩慢で頼りない。むしろ性差別を批判する人たちが積極的な男性差別者であることすらあるのが現実である。

 そうした中で、今回、熊谷市長がそうした批判を偏見であると看過し、ハッキリと男性保育士を増やし育てていくというアナウンスをしたことは、千葉市内の男性保育士はもちろん、日本中の男性保育士に対して力を与えたと言っていいだろう。

 ここまで論じて、最後に「熊谷市長の姿勢に拍手を贈りたい」で〆ようと思っていたのだが、最後に1つ疑問が湧いた。
 男性保育士という職がロリコンに結び付けられるということは、同時に女性保育士についても同じことが言えるのではないだろうかと。
 男性保育士が「子供が好き=ロリコン」と結び付けられつということは、つまり保育士という仕事を選ぶからには、何かしら個人的な強い動機が存在すると考えられているということではないか。それが男性保育士に対しては「ロリコンだから」ということで納得してしまう人たちがいるのである。

 であれば、女性保育士はどう思われているのだろうか。それは「子供が好き=母性愛」ということではないだろうか?
 老人ホームなどの福祉の仕事につく女性が、社会から「世話好きの女性」として、仕事だけではなく家庭内でも世話することを期待されるように、女性保育士に対しても母性愛を強く持つ人であるという嗜好性を内在していると考えられているのではないだろうか?

 僕はそうした考え方は「仕事として子供を扱うことの否定」であると思う。
 「子供に対して愛情を持った人しか積極的に接するべきではない」という考え方が、結果として「子供に愛情を持つ男性=ロリコン」という言説として噴出し続けてきたのだろう。

 それは同時に個人的な動機であるからこそ、それに対する待遇は低くていいとする考え方にも至る。「好きでやってるんだから、給料は安くても良いだろう」というのは、福祉やケア労働全体を覆う社会からの根強い偏見の1つである。
 そして結局給料が低いことが、さらに保育士の社会的地位を押し下げ、「ロリコン」や「世話好き」という偏見を強化することにもつながる。そうしたスパイラルの中に保育士という職業そのものが存在してしまっている。

 そんな偏見を打ち破るには「保育士はあくまでも仕事である」として、愛情や個人的動機から強い一線を引くことが重要ではないか。
 方法はいくつか考えられるが、例えば保育士同士で労組をつくり、ストライキをしてでも給料や待遇の改善を求めて戦うことなども有効であると考えられる。

 保育士の立場だと、どうしても「子供のこと」を考えて、強硬に自分の待遇改善を求めることがタブーになっているかもしれないが、そうした子供たちへの愛情に流されずに、自らの生活を守るような主張をすることによって「仕事として子供の世話をすること」を社会に対して認めさせることが、後々に子供をみることになる多くの保育士たちの待遇を向上させていくのではないだろうか。

 今回は熊谷市長のような理解ある権力者がいたから良いようなものの、彼のような協力的な強者の存在がいなければ、保育士の待遇を問題としてなかなか明るみに出せないということ自体が、大問題として存在した結果、待遇の改善を強く訴えることができず、現状に至っていると、僕は考える。

(*1)熊谷俊人 千葉市長(Twitter)https://twitter.com/kumagai_chiba/status/822212316112400384
(*2)熊谷俊人 千葉市長(Twitter)https://twitter.com/kumagai_chiba/status/822212388061487104
(*3)男性保育士に「女児の着替えさせないで!」 保護者の主張は「男性差別」か(J-CASTニュース)http://www.j-cast.com/2017/01/24288759.html
(*4)熊谷俊人 千葉市長(Facebook)https://www.facebook.com/toshihito.kumagai/posts/1265747763494729
(*5)男性保育士「ロリコン疑惑」と待機児童問題(日経ビジネスオンライン)http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/032500041/

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