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特集:オバマ時代の米国経済を回顧する

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いよいよドナルド・トランプ政権が発足しました。とはいえまだ1週間。情報不足、準備不足もいいところで、新政権について何かを語るには早過ぎるような気がします。そこで本誌としては逆を行くこととし、オバマ政権の8年間を振り返りつつ、この間の米国経済の変化を概観してみることにしました。

オバマ時代の経済政策には、4つの柱があったと思います。①金融危機対応、②オバマケア、③環境・エネルギー政策、そして④経済外交の4点です。トランプ新政権の経済政策を考える上で、これらの過去を整理しておくことは無意味ではないでしょう。

なお本稿は、「ビデオニュース・ドットコム」で神保哲生さんから受けたインタビューが契機となっています1。いいヒントを頂戴したことに深謝申し上げます。

●8年前の大統領就任式を想起する

1月21日(土)午前2時、米大統領就任式が始まった。眠い目をこすりながら自宅で見ていたところ、少し緊張気味のドナルド・トランプ氏が登場して、16分弱の簡潔な大統領就任演説を行った。国民全体向けというよりは自分の支持者だけを対象に、選挙期間中と同じような内容を、あいかわらずの「ぶっちゃけ」ベースで語っていた。最後の方では「神」について語るなど、「らしく」ないけれども少しは”Inauguration”らしいところもあった。大統領としては、かろうじて「サマ」になったのかなという印象であった。

「それにしても分かりやすい英語だな」と感じて、ふと8年前のオバマ演説のことを思い出した。2009年1月20日のオバマ大統領の就任演説は、まことに難解だったのである2。「バレーフォージの宿営」という独立戦争当時のエピソードを引用した部分があり、それは米国史における有名な故事らしいのだが、オバマ大統領は「バレーフォージ」という固有名詞を使っていない。これでは知らない人には調べようがない。つくづくオバマ演説は、「皆まで言わない」インテリ向けの高級品なのである。

逆に言えば、少なからぬアメリカ人はオバマ演説をよく理解できないままに、周囲が「いいね!」というから、分かった振りをしてきたこともあっただろう。そういう人たちにとっては、今度の大統領は下品なところもあるけれども、少なくとも言っていることがちゃんと理解できる。なにしろオバマ時代は8年間も続いていたから、トランプ流の「ぶっちゃけスタイル」は隠れた人気があるのではないだろうか。

8年とはつくづく長い年月である。思い起こせば就任当時に問題とされたことのひとつは、オバマ氏の「ブラックベリー中毒」であった。今では全く見かけなくなった携帯端末だが、大統領になったからには取り上げられ、私的メールは「お預け」となった。その点、トランプ大統領はツイッターを手放さず、連日の「言いたい放題」を続けている。

ここでハッと気がつくのは、8年前にはまだスマホが普及していなかったのである。もちろんフェイスブックやインスタグラムは影も形もない。ユーチューブはすでに普及していたが、ツイッターはちょうど流行り始めた頃である。当時のコミュニケーションスタイルは、今とはかなり違っている。メディアに対する信頼度は今よりもずっと高かったし、SNSの影響力も限定的であった。今のように「偽ニュース」がネット空間を独り歩きするようなことはほとんど考えられなかった。

社会構造から言っても、8年は大きな違いを意味する。誰もが等しく8歳年を取る間に、ベビーブーマー世代よりもミレニアル世代の方が多くなった。あるいは2008年選挙の出口調査においては、白人が74%でヒスパニックが8%であった。それが2016年選挙ではそれぞれ70%と11%になっている。それだけ白人の比率が低下して、マイノリティの比率が増加しているのだ。

近いようで意外と遠い8年前。さて、米国経済におけるこの8年間にはどんなことがあったのか。4つの視点から振り返ってみよう。

①金融危機対策:「日本の経験」との大きな違い

オバマ大統領の最初の仕事は、国際金融危機からの脱却であった。日本でいう「リーマンショック」は、英語では”Great Recession”もしくは”2008 Financial Crisis”と呼ばれることが多い。ちなみに1930年代の大恐慌は、”Great Depression”と呼んで区別している。

前政権から引き継いだこの問題に対し、オバマ政権の方針は「やり過ぎるくらいにやる」であった。8620億ドルの大型景気刺激策を実行し、7000億ドルの公的資金を用意して不良債権を買い取り、倒産の危機に瀕していたビッグスリーは救済した。それと同時に、米連銀が「デフレだけは許さない」とばかりに、3度にわたるQE(量的緩和政策)を実施した。1990年代の不良債権問題に対し、対策を小出しにした日本の経験が反面教師として活かされたのかもしれない。

その結果は大正解であった。2008年から09年にかけて、全米で870万人もの雇用が失われたが、10年から14年までの5年間では1019万人の雇用が創出されている。経済成長率も2010年からプラスに転じた。少なくともデータの上から見れば、金融危機対策は十分に成果を挙げたのである。

しかるにその実態は、「長期停滞論」(Secular Stagnation)と呼ばれるように回復の実感に乏しいものであった。そのこと自体にさほど異和感はない。大きな金融危機を体験した後の経済は、成長率やインフレ率が低下する。それは日本経済が、1990年代の不良債権処理問題を通して体験したことでもある。そして近年の日本人は、そういう状態に対していい意味でも悪い意味でも「慣れて」しまっている。

ところが米国の場合、景気回復の速度の遅さもさることながら、「なぜ普通の人を助けないのに、銀行を助けるのか」という素朴な怒りが収まっていなかった。2010年頃から、右派の側では「ティーパーティー」、左派の側では「オキュパイ・ウォールストリート」という対照的な2つの大衆運動が盛んになる。前者は「俺の税金を銀行救済に使うな」と言って怒り、後者は「なぜ自分たち弱者を救わないのか」と言って怒っていた。方向性は違うように見えるけれども、「反既成政治」という一点では一致していた。

考えてみれば、日本の場合は不良債権処理にずいぶん時間をかけたし、「バブル崩壊」の関係者が等しく何らかの形で「社会的制裁」を受けていた。大蔵省は名前を変えられて金融庁を分離され、大手銀行は原形をとどめないくらいに離合集散し、自民党政治も「小泉政権発足」という形で過去を否定されていた。つまり「ケジメ」をつけたとは言えないまでも、何らかの形で「落とし前」はつけていたのである。

ところが米国の場合、ウォール街ではあっという間に貪欲さが復活していた。「ドッド=フランク法」により金融機関に対する規制は強化されたが、トップが再び高い報酬を得ることにはまったく躊躇がなかった。他方、中央値の家計所得は1999年以降下がり続けていた。これでは「1%対99%」という批判が生じるのも無理はない。

オバマ大統領としては、自分はブッシュ前政権が残した問題を処理しただけで、文句は共和党に言ってくれ、と言いたいところであろう。だが、「オキュパイ運動」の異議申し立ては、2016年選挙では「サンダース現象」に受け継がれ、民主党内の足並みの乱れにつながった。このことはヒラリー・クリントン氏の敗因の一つとなったはずである。

経済問題としての金融危機は、比較的あっさりと解決した。しかし政治的なわだかまりは深く残り、2016年選挙の結果を左右したのではないだろうか。

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