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堅調に伸びる輸出を背景に黒字を続ける我が国貿易の先行きリスクやいかに?

本日、財務省から昨年2016年12月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+5.4%増の6兆6790億円、輸入額は▲2.6%減の6兆375億円、差引き貿易収支は+6414億円の黒字を計上しています。なお、2016年通年の貿易収支は4兆741億円の黒字で、貿易黒字は6年振りです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

16年の貿易黒字、4兆741億円 原油安で6年ぶり黒字

財務省が25日発表した2016年の貿易収支は4兆741億円の黒字(前年は2兆7916億円の赤字)だった。6年ぶりに黒字に転じた。原油や液化天然ガス(LNG)の価格下落で輸入額が前年を大幅に下回った。

16年通年の輸出額は前年比7.4%減の70兆392億円だった。輸出為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=108円95銭と前の年と比べ10.0%の円高となり、円建ての輸出額を押し下げた。品目別では韓国や台湾向けの鉄鋼などが減少した。輸入額は15.9%減の65兆9651億円だった。原粗油は32.4%減、LNGは40.4%減だった。

併せて発表した16年12月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6414億円の黒字(前年同月は1389億円の黒字)だった。貿易黒字は4カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は2900億円の黒字だった。

16年12月の輸出額は前年同月比5.4%増の6兆6790億円だった。米国向けの自動車部品などが伸びた。自動車部品やスマートフォン(スマホ)用に電気回路などの機器が増加し中国への輸出額は単月として過去最大の1兆3013億円となった。輸入額は2.6%減の6兆375億円だった。

いつもの通り、年統計に重点が置かれているものの、まずまず包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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グラフから明らかに読み取れる通り、輸出入とも2016年年央に反転上昇局面に入っており、その中で2016年を通じて貿易は輸出が輸入を上回って黒字を計上しています。もちろん、報道で指摘されている通り、基本的には国際商品市況における石油価格の低迷に伴う輸入の減少が大きな要因であり、同時に輸出も停滞しているわけですから、パッと見では縮小均衡のように見えるのも確かです。ただし、我が国の輸出について、少なくとも最近時点では、後に詳しく見る通り、数量ベースで拡大を示しているのも事実です。季節調整済みの系列で見て、輸出額の直近のボトムは昨年2016年7月の5.66兆円であり、今日公表の12月統計では6.17兆円まで回復を示している一方で、輸入額のボトムは昨年2016年8月の5.33兆円と輸出額とは1か月ズレるものの、ほぼ昨年年央をボトムに、12月統計では5.81兆円まで増加しています。また、貿易収支も季節調整済みの系列では一昨年2015年11月から14か月連続で黒字を計上しており、最近数か月ではほぼ+3000-4000億円レベルの黒字を記録しています。かつて、サブプライム・バブル崩壊前のように月次で1兆円を超えるような貿易黒字を記録する勢いで輸出が増加する局面ではないと考えていますが、米国をはじめとして世界経済の緩やかな回復とともに、所得要因から我が国の輸出が伸びて貿易黒字を記録している、というのが私の印象です。ところが、先週就任したばかりのトランプ米国大統領は私とは異なる印象を持っているようで、我が国の貿易が黒字を計上している点をもって、何らかの貿易摩擦の火種を見つけ出そうとする可能性も否定できません。私は1990年代半ばのクリントン政権期に日米包括協議の交渉に引っ張り出されて、ある意味では、とても貴重な体験をしましたが、報道などを見る限り、またまた、貿易や通商に関して日米交渉が再開される可能性も報じられているところ、昨日の東証では自動車会社が軒並み株価を下げましたし、我が国貿易の先行きはやや不透明感が漂っている気がします。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。我が国の輸出額についてはここ数か月で数量が主導して急速な回復を示しているのが見て取れます。下の2枚のパネルから、OECD加盟の先進国向けの輸出数量は回復が緩やかなものの、中国向けについて季節調整していない原系列の輸出指数の前年同月比で見て、2016年11月+16.0%増の後、12月には+20.6%と急速な増加を示しています。この大きな伸びがどこまで持続可能なものかは不透明ながら、どうも、世界経済の回復・拡大に伴って我が国の輸出も伸びを高める局面に潮目が変わりつつあるのが見て取れるんではないかと思います。ただし、中期的には米国の通商政策の制約を受ける可能性は否定できません。

貿易をはじめとして、我が国経済の先行きのリスク要因としてもっとも大きいのは為替である、とこのブログなどを通じて私は指摘し続けて来ましたが、米国の通商政策という新たな制約条件が加わる中で、世界経済の回復・拡大とともに我が国の輸出も短期的には増加の方向にあると考えられるものの、逆に、好調に貿易黒字を計上すれば米国の通商政策による制約条件も強まる可能性も残されており、目先はともかく、中期的な先行き不透明感はまだ払拭されていないのかもしれません。例えば、引用した記事にもある通り、2016年の対世界全体の我が国の貿易黒字は+4.07兆である一方で、実は、対米黒字は+6.83兆に上っており、米国以外では▲3兆円近い赤字、例えば、対中国では▲4.65兆円の赤字を計上しながら、それを上回る対米黒字で補っている勘定ですから、この対米貿易黒字はトランプ新政権から見れば米国内の雇用を奪っているように見えかねない危険はあります。

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