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なぜコンビニ、セブン銀行、セブンプレミアムを思いつけたか?- セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文

セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文=文



一歩先の未来へとジャンプする「跳ぶ発想」

新しいものを生み出すといっても、わたし自身、特にそんなに難しいことを考えてきたわけではありません。世の中にすでにある多くのもののなかから何かを見いだし、結びつける。

わたしも、これまで多くの新しいものを生み出してきましたが、それは何かを創造したわけではなく、それまで結びついていなかったもの同士を、あるいは、誰もが結びつくとは思っていなかったもの同士を結びつけるということを繰り返してきただけです。

セブン-イレブンの創業も、海外研修で出かけたアメリカでたまたまセブン-イレブンというコンビニエンスストアを見つけ、それを日本の小型店と結びつけて発想しました。

当時、日本は大型の総合スーパーマーケット(GMS=ゼネラルマーチャンダイズストア)の全盛時代で、スーパーが各地に進出する一方で、商店街の小型店は凋落の一途をたどっていました。そのため、日本へのコンビニエンスストアの導入については、学界からも、業界からも、社内からも、「小型店が成り立つはずない」「無理だ」「やめろ」の反対論の大合唱が巻き起こりました。

わたしから見ると、反対論は「大は小に勝つ」「大きいことはいいことだ」という過去の延長線上での考え方でした。

一方、わたしは管理畑でしたので、小型店の凋落の原因について、違う視点からとらえていました。

中小の小売店の経営が難しくなったのは、大型店の進出が原因ではなく、市場の変化に対応できなかったことにある。ならば、コンビニエンスストアの仕組みを導入すれば、大型店との共存共栄が可能になるという、一歩先の未来像を描きました。

つまり、過去の延長線上ではなく、未来へとジャンプし、「未来を起点にした発想」で考えた。いわば、“跳ぶ発想”です。

セブン-イレブンでのおにぎりやお弁当の販売も、流通業として前例のない自前のセブン銀行の設立も、上質さを追求してプライベートブランド(PB)商品の常識をくつがえしたセブンプレミアムの開発も、同様です。

最近では1斤6枚入りが256円(税込み)と、ナショナルブランド(NB)の売れ筋商品の1.5倍の価格にもかかわらず、大ヒットした「金の食パン」も、跳ぶ発想から生まれました。

「会社」と「仕事」は別と考える

わたしは最初に就職した出版取次大手の東京出版販売、通称東販(現トーハン)で、『新刊ニュース』という広報誌について、誌面を刷新し、無料から有料にするという抜本的な改革を行い、発行部数を5000部から13万部に伸ばしました。

20代のときに思いついた『新刊ニュース』の誌面刷新と、80代に入って発案した「金の食パン」は、まったく同じ「未来を起点にした発想」から生まれたものでした。経営者時代、わたしは社員たちにも、「仮説」を立てて、挑戦することを求めてきました。仮説とは、まさに、跳ぶ発想のなかから浮かびあがるものだからです。

わたしが60年間、仕事を続けることができた2つ目の理由として、わたし自身のなかで、「会社」と「仕事」とが、必ずしも一体化していなかったこともあるかもしれません。会社という組織のなかでは、わたしはトーハンでの平社員から始まり、30歳で総合スーパーのヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)へ転職してからは、係長、課長、部長、役員、社長、会長と肩書きは変わっていきました。

セブン-イレブン・ジャパンについては1978年から社長(92年から会長)、イトーヨーカ堂については92年から社長(2003年から会長)を務めてきました。ただ、その都度、自分自身では組織のなかで「出世した」とか「荷が重くなった」といった意識は特にありませんでした。リタイア後に「荷が軽くなったでしょう」と聞かれても、まったくそんな感じがないのはそのためです。

もし、わたしのなかで会社と仕事が一体化し、会社の都合で仕事を行っていたら、経営はマンネリ化し、これほど長期にわたって経営トップの立場にいることはできなかったでしょう。

しかし、仕事への向き合い方は20代のころから、一貫して同じで変わることはありませんでした。

「会社にしがみつく」という意識はなかった

少し前にもこんなことがありました。2013年5月、セブンプレミアムのワンランク上のセブンゴールドのシリーズの新製品で、インスタントラーメンの袋麺「金の麺 塩」を発売する当日のことです。

「この商品の質は販売できるレベルではない」と、6000万円分の商品をすべて全国の店頭から回収し、廃棄する決断を下しました。目先の損失よりも、発売した場合に生じるダメージが大きいと考えたからです。

『わがセブン秘録 』鈴木 敏文 (著) プレジデント社

もし、わたしのなかで会社と仕事が一体化していたら、とりあえず6000万円分の商品を売り切ってから、改良や改善を実施させたでしょう。

セブン-イレブンの創業も同じです。わたしが発案したのは40歳ごろで、イトーヨーカ堂の取締役に就任していました。もし、わたしのなかで会社と仕事が一体化していたら、創業者であるオーナー社長が反対するのを押し切ってまで、遂行しようとは思わなかったでしょう。

会社と仕事とは別で、「会社にしがみつく」という意識を持たなかったからこそ、反対にあっても、未来を起点にして、跳ぶ発想をすることができたように思います。「会社にしがみつく」という意識を持っている限り、新しいものは発想できません。

※本連載は書籍『わがセブン秘録』(鈴木敏文著 取材・構成=勝見明)からの抜粋です。

『わがセブン秘録 』(プレジデント社)
日本最大の流通グループを率いた「コンビニの父」が後進に伝えたかったこと。未来に向かって敷かれたレールはない。道は自分でつくるものである。
著者 鈴木 敏文
著者プロフィール

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