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韓国・少女像問題、日本の大使を帰国させたのは失敗だ〜田原総一朗インタビュー

新しい年が明けたが、日本と海外との関係はきしんでいる。韓国では、釜山の日本総領事館前に慰安婦問題を象徴する少女像が市民団体によって設置され、次期大統領を狙う有力政治家たちもそれを支持する発言をしている。米国では、トランプ次期大統領がトヨタを名指しして、メキシコへの工場建設を非難した。このような動きに、日本はどう対応すべきか。田原総一朗さんに話を聞いた。【田野幸伸(編集部)・亀松太郎】

共同通信社

日本政府が韓国に怒ったのは当然だが…

韓国が釜山の日本大使館前に少女像を設置したのは、僕もけしからんことだと思う。日本政府が怒って、韓国政府に抗議したのはもっともだ。

もともと慰安婦の問題は、一昨年12月に「最終的かつ不可逆的な決着をつける」ことが日韓両政府の間で合意された。そして、韓国政府が設立した元慰安婦を支援する財団に対して、日本政府から10億円が支払われた。

この日韓合意に対して、韓国では世論の反発が強く、昨年12月に釜山の日本総領事館前に慰安婦を象徴する少女像が設置された。このような動きに日本政府は怒り、在韓大使と釜山の総領事を帰国させた。

実は、一昨年の日韓合意前からソウルの日本大使館前に少女像が設置されていて、韓国政府が撤去することになっていた。ところが、朴大統領が不祥事で国内世論の強い批判を浴び、ついには弾劾訴追されて、職務停止に陥ってしまった。そんな状況でソウルの少女像はそのままとなり、その上、釜山にも慰安婦問題を象徴する少女像が設置されたのだから、日本側が怒るのも無理はない。

日本のリベラル系の新聞は「日韓関係を大事にするために、もっと慎重にやれ」と言うけれど、僕は怒ること自体はいいと思う。

だが、在韓大使と釜山の総領事を帰国させたのは、結果的に失敗だったといえる。なぜなら、大使を日本に帰国させてしまった場合、韓国に帰任させるきっかけをつかむのが難しいからだ。

今年は韓国で大統領選が行われる年だ。選挙に勝つためには、与党も野党も日本に厳しいことを言わないといけない。釜山の少女像を撤去するなんて言ったら、選挙で負けるに決まっている。

韓国の世論は、日本に厳しい。大統領選に与党から立候補する意向を示している潘基文(パン・ギムン)・元国連事務総長も、世論に押されて「少女像撤去が条件なら、10億円を日本に返さないといけない」と言っている。そういう状況の中では、在韓大使を帰任させられるような「言質」を韓国政府から取るのは至難の技だ。

一方で、そういう言質を取れないまま、大使を韓国に帰任させたら、ソウルや釜山の少女像を認めることになってしまう。だからといって、いつまでも大使を帰任させないと、日韓関係が非常に深刻な事態になる。

どちらにしても、良い展開は望めない。はたして日本政府はどうするつもりなんだろうか。

日本の政治家は「トランプ発言」から逃げている

AP

いよいよトランプがアメリカの大統領になる。彼が大統領に当選した背景には、グローバリズムの破綻がある。

グローバリズムというのは、ヒト、モノ、カネが国境を越えて、地球規模で流通していくことだ。これまで、アメリカでは「グローバリズムはいいことだ」と思われていたが、その結果、自動車産業などがかつて栄えた「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれる地域では、工場がメキシコなどの海外へどんどん移っていた。それに伴い、失業者も増加した。

いまアメリカでは、グローバリズムの恩恵で豊かな生活を送れるのは一部の富裕層、エスタブリッシュメントだけだという考え方が広がっている。多くのアメリカ人がひどい経済格差に苦しみ、それに耐え切れなくなっている。そういう人々がトランプを選んだ。

そのトランプは大統領に当選後、世界の自動車メーカーに圧力をかけている。フォードがメキシコに工場を作ろうとしたら、「工場を作るならアメリカに作れ。もしメキシコに作れば、高い関税をかける」と圧力をかけ、工場新設を諦めさせた。ドイツのBMWにも同様の圧力をかけている。

さらに、日本のトヨタがメキシコに工場を作ろうとしているのを見て、「アメリカに工場を作らないと高い関税を払わせる」とツイッターで発信した。実は、トヨタはアメリカに10箇所の生産拠点を持っていて、10万人以上の雇用を生み出しているのだが、そんなことはお構いなしに、トランプが圧力をかけてきた。

これは、完全な保護主義だ。しかも、いままでの常識では、大統領やこれから大統領になろうとする人間が、個別企業の行動に対して政治的な圧力をかけるなんてことは考えられなかった。

そのために、日本でも日経新聞なんかは、トランプを痛烈に批判している。しかし、日本の政治家たちはこれに文句を言うことができない。ドイツでは、副首相がトランプを批判する発言をしているが、日本の政府高官からはそのような発言は出ていない。

これでは「逃げている」「弱腰だ」と批判されても仕方ない。

僕も、トランプの言動はひどいと思う。だが、どうすればいいのかというと、なかなか難しい問題があるのも事実だ。

いまのアメリカは、失業者がたくさんいて、工場がアメリカからどんどんに外に出ていくという現実がある。その現実に対して、トランプは「工場をアメリカに引き戻して、雇用を増やす」と言っている。トランプが大統領に選ばれたということは、このようなグローバリズムへの反発が国民に受け入れられたということだ。そのことを考えないといけない。

しかも、グローバリズムはアメリカだけの問題ではない。ヨーロッパでも、イギリスのEU離脱に代表されるように、グローバリズムへの反発が起きている。

今年はオランダ、フランス、ドイツで国政選挙があるが、どの国でもグローバリズムよりもナショナリズムを重視する右翼政党が勢力を伸ばしている。この風潮はいいことではないと思うが、ではどうすればいいのかというと、はっきりした展望が見えてこないのだ。

世界各国が「自国第一主義」に走ろうとしているいま、日本はどうしていくべきなのか。2017年の大きなテーマはここにある。

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