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ダボス会議に出席した習近平主席の思惑 - 澁谷 司

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司


 今年(2017年)1月17日から20日まで、スイスで世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)が開催された。中国からは、李克強首相ではなく、習近平主席が出席した。同会議に同国トップが参加するのは異例である。

 かつて同会議には、中国から李鵬(元首相)、朱鎔基(元首相)、李嵐清(元常務副首相)、呉邦国(前全人代常務委員長・元副首相)、黄菊(元常務副首相)、曽培炎(元副首相)、華建敏(前全人代常務副委員長)、温家宝(前首相)、李克強首相、李源潮国家副主席らが出席した。従って、習近平主席のダボス会議出席は特質できよう。 今回、米国が政権移譲期のため、オバマ大統領が同会議に出席しなかった。ましてや、トランプ新大統領は、ちょうど1月20日が就任式なので、出られるはずもない。また、ドイツのメルケル首相やフランスのオランド大統領なども参加しなかった。

 おそらく、習主席の出席には、いくつかの狙いがあるだろう。

 第1に、言い方に語弊があるかもしれないが、習近平主席のダボス会議出席は“鬼のいぬ間に”同会議での中国のプレゼンスを高めたいという思惑が見え隠れする。 習近平主席は、スピーチの中で「保護主義に反対する。米中貿易戦争は双方ともに敗北するだろう」とトランプ新大統領を牽制した(特に、習主席はトランプ新大統領が「一中政策」を放棄し、台湾を重視する方針予定なので、台湾の「国際生存空間」を狭めたいのかもしれない)。

 第2に、中国経済の舵取りは、李克強首相の代わりに習近平主席が行っていることを内外に示す。 今秋の中国共産党第19回大会では、王岐山が政治局に残れば、王が首相となるかもしれない。或いは、もし汪洋(「共青団」)などが政治局常務委員入りすれば、汪洋が李克強からその職を受け継ぐとも噂される。

 そして、李克強首相は全人代常務委員長という閑職へ追いやられる公算が大きい。 第3に、習近平主席は世界中の経済人に対し、中国への投資を呼びかけるつもりではないか。一種のトップセールスである。

 裏返せば、目下、中国の景気が如何に低迷しているかを如実に示していよう。習主席自らがトップセールスを行わなければ、経済が立ちいかない厳しい現実がある。

 周知にように、中国経済は難問が山積している。一例を挙げれば、中国構造改革の目玉である国有企業改革が殆ど進んでいない。

 人民解放軍や党幹部らが、多数の国有企業の既得権益を握っているため、たとえ「ゾンビ企業」でさえ、整理(倒産)させることは難しい。

 だが、「ゾンビ企業」が生き残れば、当然、地方政府がその赤字を補填しなければならない。しかし、殆ど大部分の地方政府が多くの負債を抱えているので、最終的には、中央政府がその負債を肩代わりする必要があるだろう。そのため、中央政府の財政赤字は膨張する一方である。

 仮に、北京政府が「ゾンビ企業」を整理したとしよう。現在のような不景気な時期、政府はクビになった人々の次の就職を斡旋できないはずである。そうなると、当然、大量の失業者が生じ、社会不安が増す。 昨2016年10月、軍をリストラされた元軍人らが、北京にある中央軍事委員会ビルを取り囲んだ事件は記憶に新しい。

 もし、米国トランプ新政権が米中貿易で中国に対し厳しい措置を採れば、青色吐息の中国経済は更に悪化する。例えば、米国が金利を上げただけでも、たちまち中国からの「キャピタル・フライト」に拍車がかかるに違いない。

 ところで、昨2016年1月、中国主導のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)が発足した。

 だが、1年間でAIIBの決定した融資はたった9件しかなく、総額17億3000万ドル(約2000億円)と、日本主導のアジア開発銀行(ADB)の10分の1以下である。単独案件はたったの3件で、合計4億6600万ドル(約500億円)しかない。その他の6件はAIIBの単独プロジェクトではなく、ADBか世界銀行と組んでいる。人材も極端に不足している(90人程度という)。

 もともと、AIIBはADBに対抗して、北京が外需獲得を目的とした銀行だった。ある意味、自国経済発展のための“道具”だったのである。国際社会はそれを見透かしている。

 昨2016年7月、習近平政権は、南シナ海への膨張に対し、国際仲裁裁判所の裁定を一顧だにしなかった。習政権は「法の支配」を無視し、今の世界秩序を一切守るつもりがないようである。

 習近平主席は、中国中心の新世界秩序を構築したいのだろうが、果たしてその目論見は実現するだろうか。大きな疑問符が付く。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)等多数。

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