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特集:トランプ次期政権発足へのカウントダウン

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新年早々、「トランプ占い」に追われています。ホンモノのトランプ占いは、暇なときにのんびり優雅に行うものですが、こちらは間もなく発足する米国次期政権を予測するという慌ただしい仕事です。正直なところ、ドナルド・トランプ氏の昼夜を問わぬツィートを全部見ているだけで、心を病んでしまいそうな気がしています。せめて1月20日の大統領就任式以降は、少しは落ち着いてほしいと祈らずにはいられません。

本号でお届けするのは、ご存じユーラシアグループによる「2017年の10大リスク」を手掛かりにした「トランプ占い」です。この政権、意外と時代の先を行く重い任務を背負っているのかもしれません。考え過ぎでしょうか?

●困ってしまった?ユーラシアグループ

新年の出だしは、ユーラシアグループの「今年の10大リスク」とともに、というのが近年の本誌の「吉例」となっている。今年も1月4日に発表された”Top Risks 2017:The geopolitical recession”(地政学的後退期)をご紹介してみたい1

その前に2016年のTop Risksを振り返ってみると、(1)The Hollow Alliance(大西洋同盟の空洞化)、(2)Closed Europe(閉ざされる欧州)、(3)The China Footprint(中国がもたらす波紋)、(4)ISIS and "Friends"(ISISとその仲間たち)、(5)Saudi Arabia(サウジアラビア)などが上位に並んでいる。特に2位の欧州で、「英国のEU離脱のリスクを過小評価するなかれ」と指摘していたのはお見事と言えよう。ISISのテロ、サウジアラビアにおける改革機運なども「当たり」である。

いただけないのは、番外編で「米国の有権者は、イスラム教徒に対して国を閉ざすような大統領を選ぶことはあり得ない」と断言していたことである。もちろん本誌には、それを非難する資格はカケラもないのだが、トランプ政権の誕生はイアン・ブレマー氏にとってもことのほかのサプライズであったことになる。

ただし長期で見た場合、ユーラシアグループの「大局観」の正確さには脱帽せざるを得ない。同社が「Gゼロ」(国際協調なき世界)をTop Riskに掲げたのは2011年のこと。それから6年、今起きているのはまさしくその通りの事態である。オバマ大統領は2013年にシリア爆撃を回避し、「米国はもはや世界の警察官ではない」ことを明らかにしてしまう。トランプ次期大統領はそこからさらに進んで、自国の利益を第一(America First)にすると言っている。米国がリーダーの地位を放棄してしまうと、世界は地政学的後退期(Geopolitical Recession)に入るのではないか。「政治リスク」を商売とするユーラシアグループも、ここまで迅速に懸念が的中するとは思っていなかったことだろう。

さて、2017年のラインナップは以下の通りである。

○2017年の10大リスク

1. Independent America (わが道をゆくアメリカ)
2. China overreact (中国の過剰反応)
3. A weaker Merkel (弱体化するメルケル独首相)
4. No reform (世界的な改革の停滞)
5. Technology and the Middle East (中東を脅かすテクノロジー)
6. Central banks get political (政治に侵食される中央銀行)
7. The White House versus Silicon Valley (ホワイトハウスvs.シリコンバレー)
8. Turkey (トルコ)
9. North Korea (北朝鮮)
10. South Africa (南アフリカ共和国)

*Red herrings(番外=リスクもどき)US domestic policy, India versus Pakistan, Brazil (アメリカ国内政治、インド・パキスタン対立、ブラジル政治)

2017年のリスク第1位は米国である。米国が「自国最優先」に走って同盟国を顧みなくなり、ロシアとの接近を図って対中強硬姿勢を見せる(1位)。すると、秋に第19回共産党大会を控えている中国は、必要以上に反発せざるを得ない(2位)。また秋に総選挙を迎えるメルケル首相は、さすがに首相の座は守るだろうが、議席数を減らして与党は弱体化するだろう。その結果は、欧州における「良識」の後退ということになりかねない。いや、もうまったくお説の通りで、上位のラインナップにはほとんど意外性がない。

●世界にとって米国が最大のリスクとなる理由

ところでこの1位、”Independent America”という言い方が面白い。そもそも筆者には、「Independentでない米国」というものが想像できない。訳語としては「わが道を行く米国」でも「唯我独尊な米国」でも構わないが、いったいどこがどう新しいのだろう。

実はこの言葉、イアン・ブレマー氏の著書『スーパーパワー Gゼロ時代のアメリカの選択』(日本経済新聞出版社)の中で使われている。ブレマー氏は2016年選挙を念頭に、本書の中で将来の米国外交の在り方として3つの選択肢を提示していた。

1. まず、今まで通りの「積極関与」(Indispensable America)を続けることは、国民が既にそれを望んでいない。また、昨今の米国は政治的泥仕合のせいもあって、世界でふさわしいリーダーだと思われてもいない。

2. 次に「限定関与」(Moneyball America)、国力の限界を意識して、最小限の努力で国益だけを守るという選択肢もある。だがそういう冷血な思考は、米国内で支持されない。米国は「ニューヨーク・ヤンキースのように」特殊な存在でなければならない。

3. しかるがゆえに、「国内回帰」(Independent America)が結論となる。イラクやベトナムのように弱い相手であっても、自分よりも真剣な敵を打ち負かすのは難しい。そのことを学習した米国は、もう対外的な冒険をすべきでない。内政に専念していれば、尐なくとも高くつく過ちがずっと減るだろう。

つまりブレマー氏による2年前の思考実験でも、米国が「わが道をゆく」(内政に専念する)ことが妥当な結論とされていた。はて、これは異なことを。米国という国は、「部活(対外関与)を辞めたら、学校の成績(国内政治)が良くなる」ような生徒ではあるまい。特に今日のように国内世論が割れているときに、内政に専念しようとしたところで前向きな合意ができるかどうか。今のまま部活を続けてくれる方が、少なくとも日本としては安心なのに……というのが当時の感想であった2

実際の選挙戦においては、ヒラリー・クリントン候補が1と2の中間くらいの論陣を張り、これに対してトランプ氏は3を主張して、最終的にはそちらが勝った。ゆえに今後の米国の外交方針が決した。ところが今になってみると、トランプ次期大統領が目指す「国内回帰」とは、かなり過激なものであることが分かってきた。単に内向きになるだけではなく、「今まで外国に獲られていたものを取り返す」と言わんばかりの攻撃性を秘めている。今や米国が被害者意識をむき出しにして、戦闘モードで海外と向き合おうとしている。世界にとって、これほどのリスクがほかにあるだろうか。

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