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トランプ大統領は途上国にどう向き合うのか

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

2017年の国際政治情勢は、多分に変化の要因を含んでいる。選挙イヤーとされる欧州は、3月に右派政党の躍進が予想されるオランダ総選挙、4月か5月に政権交代の可能性が高いフランス大統領選、秋にはメルケル首相が4選を目指すドイツで総選挙が行われる。3月末までにイギリスのEU離脱交渉が始まり、昨年末に暫定政権が発足したばかりのイタリアの政治情勢も不安定だ。一方、アジアでも韓国は朴大統領の進退を巡って波乱含みだ。

なかでも国際社会に大きな影響を与えそうなのは、1月20日から第45代アメリカ合衆国大統領となるトランプ氏の動向だ。選挙期間中は情緒的な発言が多く、安保、外交政策などには不透明な部分が多かった。しかし、政権人事が固まってきた昨年末からは、おぼろげながら具体的な政策が見えるようになっている。

最初に手掛けたホワイトハウス人事では、首席補佐官に党主流派にパイプを持つ穏健実務派の共和党全国委員長を登用したが、同時に同格の上級顧問・首席戦略官を創設して「けんか屋」と呼ばれる保守系メディアの会長を起用した。閣僚人事では、国務長官に親露派とされる石油大手エクソンモービルのCEOを、国防長官には「狂犬」の異名を持つ元中央軍司令官を指名、企業家、元軍人が多いトランプ色の強い政権となった。

人事作業の合間にツイッターで核戦力の強化・拡大を表明する一方、ロシアとの余計な摩擦を避ける対露関係修復案を発信するなど、新たな安保、外交政策も覗かせている。一方、テロ対策強化のためにイスラム諸国との関係悪化も辞さない考えを示している。膨大な貿易赤字が続く中国には、国家通商会議(NTC)を新設して、対中強硬派として知られる大学教授を担当補佐官にした。新たな通商代表部(USTR)代表も対中強硬派だ。台湾の蔡英文総統と異例の電話会談をするなど、中国に厳しい政権になりそうだ。

安保、外交以外では、地球温暖化に懐疑的で、規制緩和派のテキサス州知事をエネルギー長官に起用、「パリ協定」の取り扱いなどが注目される。教育分野でも自由教育を重視する全米児童連盟会長を教育長官に任命、教育現場の各種の規制が取り払われることが予測されている。経済は保護貿易と規制緩和が軸となり、金融、公共投資政策などに世界の耳目が集まるだろう。リベラル・バイアス批判もあるニューヨーク・タイムズなど既存のメディアとは、就任後も対立を続ける気配だ。

こうしてみると、トランプ政権の概容が見えてきた気もするが、分からない分野も多い。その一つは援助政策だ。そもそも新大統領は、途上国への開発援助に関心があるのか、ないのか、それすらはっきりしない。トランプ氏は自書の印税などを活用して1988年に「Donald J Foundation」という財団を設立、運営しているが(昨年12月24日に解散を表明)、この財団は国内の小児病院やヘルスケアの施設の支援をする慈善団体で、HPをくまなく読んでも、海外支援に関連する事業は見当たらない。「アメリカの利益にならないことには、手を付けない」というトランプ大統領の思考回路に、これまでのところ途上国援助は入っていないようだ。

政権づくりの過程におけるトランプ氏と途上国援助の唯一の接点は、閣僚人事で多忙だった12月中旬、旧友のビル・ゲイツ氏とトランプ・タワーの自宅で面談したことだ。ゲイツ氏は、「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」が実施している途上国支援や環境保護活動を語ったとされる。面談後、トランプ氏は「あくまで旧友とあれこれ人生論を語っただけ」とゲイツ氏との面談が新政権の政策に影響を与えることを否定したが、新大統領の耳に海外援助の話が少しでも届いたことは間違いない。

アメリカの援助問題専門家には、トランプ政権が行財政改革の課程で、援助プログラムを大幅に削減することを危惧する人が多い。米国国際開発庁(USAID)などアメリカの開発政策に詳しい開発ジャーナリスト、マイケル・ロゴエ氏は「トランプ政権の対外援助は、パキスタンなどアメリカの安全保障に直接関連する国に集中され、人道援助などは限定されるだろう」という。同氏は国際開発のメディア・プラットフォームに寄稿した記事で、USAIDが豪州やカナダのように国務省に併合され、独立性を失う危険性、新政権人脈の中に援助のエキスパートが見当たらない人材難、強いアメリカ再生のために国防予算を増やすことで、政府開発援助(ODA)予算など他の費目の予算が削減される蓋然―などを警告している。

しかし、同氏はアメリカン・プログレス・センターのジョン・ノリス部長の「就任前、開発援助にあまり関心を示すことがなかったジョージ・W・ブッシュ大統領が、就任後は国際医療問題の解決に力を注いだように、トランプ大統領もスタッフからのブリーフィングなどで開発協力がアメリカの利益に繋がる重要政策であることに気づくだろう」という言葉を引用、新政権がアメリカの海外援助を縮小しないことに期待している。

「米国第一」と叫んで、アメリカの利益だけを追求することは、真の国益に繋がらない。日本語なら「弧掌(こしょう)鳴らし難し」、英語なら「No Man Is An Island」なのである。トランプ氏もすでにそれに気付いているはずだ。アメリカをもう一度、グレートな国家にしたいのなら、世界の8割を占める途上国の人たちに愛される大統領、国家になることが、必須の要件だ。

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