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トランプ政治の陰の主役、強いドル~国境税が最後の一押し、超ドル高時代へ~

具体化しつつある国境税創設

共和党、トランプ次期大統領がともに主張する国境税(=border tax adjustment)が次期政権の経済政策の柱に浮上してきた。輸入品に課税し、輸出品に税優遇を与えるというもので、大統領と上下両院を共和党が制したことにより、俄然その実現性が強まってきた。トランプ氏はツイッターでトヨタのメキシコ工場建設を批判して「Build plant in the U.S. or pay big border tax(米国で工場をつくれ、それがいやなら国境税を払え)」とコメントしている。一連の企業に対する高圧的な米国工場建設強要は、国境税創設を念頭に置いたものであることをうかがわせる。

国境税は不公平な貿易税制の是正の試み、保護主義とは言えない

国境税とはとんでもない保護主義的主張と見えるが、自由主義を標榜する共和党下院の選挙アジェンダ(“A Better Way”)の柱であり、一概に保護主義とは言えない。なぜなら消費税(付加価値税)を導入していない米国は消費税(付加価値税)を導入している、大半の国(欧州諸国は20%前後、中国17%、韓国10%、日本8%)に対して貿易競争上不利になっているからである。消費税(付加価値税)を実施している国は輸入品に消費税(付加価値税)が課される(日本の場合8%)一方、輸出品に対しては輸出企業が原材料やサービスなどの購入時に支払った消費税が還付されている。いわば他国は輸出に補助金を輸入にペナルティーを科しているわけで、消費税を導入していない米国には不利になっている。この不公平さを是正しようというものが、国境税創設(border tax adjustment)の趣旨である。当然の帰結として輸入抑制、輸出促進により国内生産が喚起され投資を引き起すので、成長を押し上げ、またインフレ圧力を高める、と期待されている。

共和党下院の選挙アジェンダとトランプ次期大統領の国境税では、輸入に対するペナルティーとして、トランプ案は35%の輸入関税を課すのに対して、共和党案は輸入額の損金算入を認めない(=35%の輸入税に相当)等、細目に相違はあるが、基本思想は全く同じであり、容易に妥協案が成立するだろう。なお輸出額の益金不算入(=35%の輸出奨励減税に相当)は同じである[ただし法人税率35%とした場合]。仮に共和党案の様に法人税率が現行の35%から20%に引き下げられれば、輸入額に対して20%増税分のペナルティーが、輸出額に対して20%の減税分の恩典が与えられることになる。WTOの枠組みに合致するのか、他国の報復を招かないかなどの不透明な点はあるものの、実現の可能性はかなり高いと見られている。

国境税創設の明白な影響はドル高

それではその経済効果はどのようなものか、輸入が抑制され輸出が増幅されるのだから貿易赤字が減少すると考えられがちだが、1月9日のWSJ紙上で、マーチン・フェルドシュタインハーバード大学教授は、そうではないと答えている。「貿易収支は一国の投資と貯蓄のバランスで決まるのであり、国境税は直ちには投資や貯蓄には影響を与えないので貿易収支は不変である、と考えられる。とすれば国境税導入の効果を相殺する為替の変化が当然のこととして起きる事になり、20%の法人税、20%の国境税が創設されるとすれば、ドルは25%上昇するはずということになる。」そのドル高は米国の交易条件の改善(=外国通貨の実質購買力の低下)を引き起し、その果実が米国税収の増加となって、米国の財政収支を大幅に改善させる(フェルドシュタイン氏は10年間で1兆ドルの改善と計算している)。詳細な計算は時期尚早ではあるが、現在具体性を帯びつつある国境税の創設は、ドル相場の水準に、最も大きく影響することは間違いない。

強いドルがアメリカ一極覇権を再構築する

そもそも新政権による税制改革、国境税創設が実現しようと実現しまいと、ドル高の基礎的条件が整えられていた。前回レポートしたように、第一は米国の経常赤字の顕著な減少=国際的ドル供給の制約が高まることによって、第二は米国の財政拡大、金融引き締めというレーガノミクスと同様のポリシーミックスによって、である。そのうえでの国境税創設となれば、予想されるドル高はより一層顕著なものになるかもしれない。ドル不足、ドル高は一段と米国の強さを際立たせるだろう。

ドル高は米国の覇権的立場を強化したい(Make America Great Again)トランプ次期大統領にとって、必須かつ好都合の条件である。以下4つの理由により、現在はあらゆる観点から見て、強いドルが米国国益となっている。

① 国際分業において相互補完分業が確立し、米国の独占的支配力持つ企業が世界市場を傘下に収めており、ドル高は安く買って高く売る(=交易条件改善)ことを推し進める、

② トランプノミクスはインフレと金利上昇圧力を高める(レーガノミクス時と類似)ので、ドル高はインフレと金利抑制に必須、

③ 強いドルは世界を買い占めるのに有利(米国多国籍企業のグローバルM&A等)、

④ 強いドルが米国のプレゼンスを一気に押し上げる(防衛支出有利に、米国の世界地位・世界GDP比シェアなどが高まる)、

以上4要因による。

図表2に見るように変動相場制の時代に入って以降、最もドル高が顕著であったのは1978年末から1985年プラザ合意までの6年余りの期間であり、それを引き起したのが金融引き締めと財政拡大というレーガノミクスによるによる景気テコ入れであった。この間ドル実質実効レートは5割上昇した。トランプ次期大統領のポリシーミックスはレーガノミクスと類似しており、同様のドル高トレンドが想定される。しかし大きな相違点がある。それは産業競争力の相違がもたらすドル高の持続性である。レーガン時代のドル高は当時の米国の産業競争力が衰弱していたために対外赤字、財政赤字という双子の赤字が著しく増加し、長くは持続できなかった。しかし、トランプ大統領の下で想定されるドル高は米国産業の競争力が顕著であるために対外赤字をむしろ減少させると考えられるので、より壮大なドル高となりそうである。更に、米国の輸入依存度が著しく変化している。図表3に見るようにレーガン時代の1980年米国の輸入依存度(輸入額/内需額)は30%そこそこ、必要物資の70%が国内生産されていた。ドル高はこの国内生産品の海外移転を大きく促進した。しかし今は米国の輸入依存度は90%弱とほぼ極限に達し、これ以上海外生産にシフトしようもなくなっている。ドル高であっても輸入が増えようもないのである。

トランプ政権下においては、ドル高➡米国覇権(経済と地政学上の圧倒的優位性)の強化➡ドル高➡米国覇権強化、という好循環が見込まれるが、それは国境税が創設されればより確かになると予想される。 

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