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AV業界は「村」。はじきだされたライターと居心地がいいライターの違い 前編<AV業界で働くということ>

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アケミン/中村 淳彦

AV出演強要問題もくすぶり続けるAV業界だが、立て続けにAV女優の生き様にまつわる本が出版される。1月12日発売のアケミン著『うちの娘はAV女優です』(幻冬舎)と、1月18日発売の中村淳彦著『名前のない女たち 貧困AV嬢の独白』(宝島社)だ。それぞれまったく違う個性で活躍するライターの二人は、AV業界、AV女優をどう見てきたのだろうか?
(撮影 菊岡俊子)

90年代のAV界には「恥ずかしい仕事をしている」という意識があった

アケミン 中村さんの「名前のない女たち」シリーズはAVメーカーで広報をしている頃から存じていましたが、これまでお会いする機会がなくて。今日はよろしくお願いします。

中村 あの狭い業界で一度も会わなかったってすごいよね。AV関係者の集まりに僕が行ってないことが理由か。

アケミン 学生時代からこの世界にいたんですよね。AVライターになられたのは、どうしてでしょう? そういえば、ライター同士でキッカケみたいなことは話さないですよね。

中村 僕がAV業界にかかわったのは1996年。スペックが低いことに学生時代に自覚して、就活みたいな一般的な道は無理だと諦めて、在学中にエロ本の編プロにバイトで入った。エロを進んだ理由は社会からバカにされて不人気で、競争少ないだろうって計算だった。

それでバイト10日目くらいに、編プロの社長に「君、大学生だったら日本語とかわかるよね?」と聞かれて、頷いたら社長が担当のエロ本連載を代われってなった。感想文くらいしか書いたことないのに、プロのAVライターに。「エロ本の文字なんて誰も読まないから埋まっていればいい」と言われて正直、ビックリした。

アケミン ちなみにAVライターとは、AV業界を専門にするライターです。AV女優や業界の動向、業界関係者を取材する。数年前まではAV専門誌がたくさんあって、週刊誌やスポーツ新聞、夕刊紙などもAVネタについて執筆する。ここ数年はウェブ媒体のお仕事も多いですね。私の先輩としては安田理央さん、大坪ケムタさんなどが活躍されていますし、本橋信宏さんや雨宮まみさんも元々はAVライターでした。

中村 雨宮さんの訃報はマジで驚いた。書いてほしいって依頼はたくさんあっただろうし、10年早すぎた。彼女は僕の3年くらい後にセルメーカー拡大と同時期にAVライターになって、すぐに売れっ子になったよね。

僕も最初は、AV業界に大ハマりして、当時は、「こんないい世界があるのか!」って超前向きだった。3、4年でめぼしい業界関係者にはほぼ会ったし。でも、雨宮さんが出てきた頃からだんだんと疑問に思うことが増えてきた。

アケミン AV業界は90年代後半に激変して、レンタルとセルが深刻に対立していました。中村さんが関わっていたのはレンタル末期ですよね。当時、「いい世界」というのはどういう意味ですか? 楽チンだったということですか?

中村 AVライターはラクなんてもんじゃない(笑)。とにかくなにもかもがユルい。雑誌もビデオも女性の裸があればなんでも商品になる時代、基本的に優秀な人はいないからたいした競争もない。今思えば社会から弾かれた人のセーフティネット、楽園だった。

アケミン 単にセックスをしていれば売れた、と。これだけDVDの売れ行きが低迷している今の業界からすると夢のような話です。

中村 AV業界に違和感を覚えたのが、1999年あたり。そのころデマンド(注:ソフト・オン・デマンド)が森下くるみを当てて、セルビデオが勢いづいていた。一般社会の競争の論理とか新卒採用が持ち込まれて、ユルいAV関係者が追い出された。人材の入れ替えだね。AV業界が「お客さん(ユーザー)の意見をなんでも聞きます」という流れになって、AVがだんだんと一般的なビジネスに。まず、それについていけなかったし、一般化が良いこととは思えなかった。AV視聴者には一切興味がなかったので、それで「名前のない女たち」を始めた。

アケミン 私が広報として業界に入ったのが2003年で、ライターを始めたのが2009年、すでに中村さんは業界に対して違和感を覚えていたんですね。

中村 アケミンさんとは入れ替わり。僕は2003年にはAVに興味を失っていたし、その後業界の景気もどんどんと悪くなっていった。セル以前は、AVは誰もやりたがらない仕事だったから、みんな収入は高かった。AV女優もやりたくないけど、お金のために仕方ないから脱ぐ、みたいな。裸になる覚悟すればほぼ全員に仕事まわっていたし、今の倍は稼げていた、ブスでも。

アケミン ブスでも……(苦笑)。完全に当時は「ヨゴレ」の仕事だったということですね。

中村 当時は、AV女優に対して絶対的な差別があったでしょう。今みたいに女の子から応募するなんてことはありえないけど、「差別されても収入が高いからいいじゃん」って割り切りがあった。今回のアケミンさんの本みたいに親が認めるなんてとんでもない話。AV業界の「パブ(註:宣伝のための露出)」はその頃から細かく決まっていたけど、メディアにはみんな出たがらない。恥ずかしいし、バレたくないから。AV業界がよかった時代はライターも監督も女優も男優も、みんなが「恥ずかしい仕事をしている」という意識は共通してあったよ。

アケミン 私は「恥ずかしい仕事」と思ったことはないですね。あとがきにも記したんですけど、私がAV業界に入った経緯は2003年、24歳の頃にマジックミラー号をやっていたパンチ監督とひょんなことから知り合って、そこで見せてもらったAVが印象的だったからです。素人の熟女さんのシンプルな絡みだったんですけど、地味で大人しそうな女性がいざセックスになると取り憑かれたように快感に狂う姿がものすごく印象的だった。セックスになると社会的な属性がたちまち消え去ってしまうし、それがその人の本性ではないものの、人間が見せる無防備で本能的な姿をもっと見てみたいなあと思ったんですよね。

中村 そして、「ディープス」に入ったんだね。当時、ソフト・オン・デマンド系の会社ですよね。

アケミン 広報を募集していると聞いて、面接に行きました。周りの社員も「やりたくないけどやっている」という雰囲気はなかった。むしろ「これ(AV)でもいいかな」という感じ。「大手の出版社に入ろうと就活していたけど、ダメでひとまずAV業界に来た」とか、「元々は映画業界に行きたかったけど、挫折してとりあえずAV制作を始めた」とかなにか別のものを目指していた過程で「AVもやってみようか」という温度感でしたね。第一希望じゃないけど、第二、第三希望みたいな感じで。イヤイヤやっている空気感は私の周りにはなかったな。

中村 新卒みたいな人が入ってきて変わったよね。本来は僕も含めて、一般社会では自己実現ができない能力が低い人材が集まって、女の裸を利用してなんとか売り上げ立てる世界だったの。ダメ人間の集まり。それは今も同じはずで、女の裸に依存している以上、一般メディアとか映画監督とは対等ではない。セルビデオ以前の隔離された底辺さは居心地がよかったけど、AV関係者に変にプライドが芽生えて一般社会を目指した中途半端さに違和感を覚えて、距離を置くようになっちゃった。

アケミン ダメ人間(苦笑)。実際に私も大学を出たけれどすぐに就活をせずに、映像翻訳(字幕)のアシスタントをしたりモラトリアムの時期もあった。就活もしなかったし、大手企業には入れなかった人間なので、ダメ人間と言われたらそこはなんにも言えないです……(笑)。業界に入ったのも、一度は英語を専攻していたけど自分の英語力じゃ全然ダメだと挫折した時期だったし。自分の居場所を見つけた感じもしたし、ノビノビと仕事ができる手応えがありました。

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