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【読書感想】統計学が日本を救う - 少子高齢化、貧困、経済成長

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統計学が日本を救う - 少子高齢化、貧困、経済成長 (中公新書ラクレ)

統計学が日本を救う - 少子高齢化、貧困、経済成長 (中公新書ラクレ)

内容(「BOOK」データベースより)
あらゆる権威やロジックを吹き飛ばし、正解を導き出す「統計学」が日本の大問題に立ち向かう!出生率アップに効果的な政策とは?1年分の寿命にかけられる医療費は?税収爆増の秘策とは?少子高齢化や貧困などの課題に対し、私たちは限られたお金と時間をどう使うべきか。統計学で、答えはすでに出ている!

『統計学が最強の学問である』の著者、西内啓さんによる「統計学を駆使して、現在の日本の問題を解析してみた」新書です。
 ものすごくひらたく言ってしまうと、「社会のためにどう公的なお金を使うべきか」について、統計をもとに考えてみたら、こんな結果が出る、という内容なんですよ。
 これを読んでみると、僕が「あたりまえ」だと思っていたことが誤解だったことや、医療の現場で薄々感じていた疑問に対して、少なくとも統計上は、一定の「答え」が提示されていることがわかります。
 ただ、「進行癌の患者さんの医療費よりも、少子化対策にお金を使ったほうが、はるかにコストパフォーマンスが良い」ことはわかっていても、目の前に癌の人がいる、あるいは自分の身内が癌で苦しんでいる場合に「あなたへの積極的な治療はコストパフォーマンスが悪いから、緩和医療だけで我慢してください」ということは、やっぱり感情的になかなか受け入れがたいところはあるのではないかと。
 高齢者医療についても、「世の中の高齢者は長生きしすぎだけれど、自分の親にはなるべく長生きしてもらいたい」と思うのが人間というものではありますし。
 それでも、そうやって「感情論」から、「すべてにベストを尽くす」ことができるほど、いまの日本は豊かではないのです。
 そこで、限られたお金をどう使うべきなのか、というのは、やはり、考えるべきことなのでしょう。
 著者は「医者が目の前の患者のために、コストよりも最善の治療を優先することは職業倫理上当然のことで、それをどこまで許容できるかは社会全体の意思やコストとの綱引きの結果で決まる」と仰っています。
 「それは、弁護士が犯罪者を全力で弁護するのと同じことで、職業倫理上は、むしろ、そうであるべきなのだ」と。
 そう言ってもらえれば、医療職としては、ちょっと安心するところはあるんですよね。


 この新書では「人の命と経済」についての話が多く採りあげられています。
 人間の「健康」といえば、「病気」や「医療」とリンクされることが多いのですが、「経済で人が死ぬ」こともあるのです。

 たとえば1991年、ソビエト連邦共産党解散を受けて、ソビエト社会主義共和国連邦、つまりソ連が崩壊した。このとき、共産主義的な社会保障や雇用が急激に失われたのである。
 その状況で、経済的な混乱に陥ったロシアや東欧諸国を含む旧ソ連地域全体に何が起きたか。実に、970万人も成人男性の人口が減ったのである。さらにロシア人男性の平均寿命を見てみれば、1991年から94年までのたったの3年間で、64歳から58歳へ6歳も縮んだ。
 なぜこのような事態が起きたのか。当時の死亡診断書を紐解いてみると、25歳から39歳という、比較的、若い男性の死亡率の上昇が著しいことが分かる。死因としては「アルコール依存症」が最も多い。一説によれば、旧ソ連圏全体で約400万人がアルコール依存症で死んだと言われている。
 このほか、自殺や事故死、他殺などの外因も多かったようだ。なかでも失業者はそうでない者と比べて、6倍も死亡率が高かった。


 「社会不安」というのは、こんなにも人を殺してしまうものなのか……とこれを読むと愕然としてしまいます。

 緊縮財政を行ったギリシャにおいても同様で、2007年から09年にかけて自殺率は24%も増加している。さらに2008年から11年にかけて、乳幼児死亡率が40%も増加した。


 また、「貧困者の救済」について、歴史的な経緯を踏まえつつ、「生活保護バッシング」に警鐘を鳴らしておられます。
 産業革命を経験したイギリスの社会保障は世界に先駆けたものでしたが、さまざまな試行錯誤が行われることになりました。
 産業革命によって、羊毛の需要が高まったのですが、羊を飼うのは、それまでの農業に比べると、土地の広さに比べて人手は少なくてすみます。
 そこで、仕事にあぶれた農村の人々が、都市に出てきて浮浪者となり、徒党を組んで治安を悪化させてしまったのです。
 つまり、社会保障のスタートは、貧困者の救済とともに「治安の維持」を目的としたものだった、ということなのです。
 試行錯誤の末、イギリスでは1834年に「労役所での強制労働を除く救済は禁止」され、「救済の水準は、最下級の労働者以下」という「新救貧法」が成立しました。
(ちなみにこれは、国が手厚く賃金補償をした結果、企業がどんどん賃金を安く抑えるようになり、労働者は豊かにならず、国の負担ばかりが増してしまった、という流れを受けてのものでした)

 この決定と、「共産主義の父」であるフリードリヒ・エンゲルスは「最も明白な、プロレタリアートに対するブルジョアジーの宣戦布告」とこき下ろした。そして以降、イギリス全土におよぶ貧民・労働者の暴動という事態を招き、資本家と労働者の対立を激化させることになった。
 なお労役場への収容は在宅での救済と比べ、場所の管理・監督のための余計なコストがかかるため、約4倍も高くついたそうだ。これはずいぶんと割に合わない話である。
 ちなみに、現代の日本においても同様のことが言える。生活保護受給者1人あたりの年間支給額はおよそ180万人だが、受刑者1人あたりの収容費用は約300万円と言われる。
 つまり、貧困者を保護しなかった結果として犯罪者が増加してしまったり、刑務所のような施設に収容して強制労働させたりすれば、コストは削減されるどころか、むしろ高くつくこともあるのである。


 もちろん、貧困にあえぐ人が、みんな犯罪にはしるわけではないでしょう。
 でも、こういうのをみると「いまは生活保護を受ける必要がない自分たち」にとっても、「生活保護バッシングは、誰も幸せにしないのではないか」と思えてくるのです。
 あと、共産主義は「まちがっていた」というコンセンサスができてしまっているようですが、少なくとも歴史をみると、ああいう時代があったからこそ、労働者にとってマシな環境がつくられた、という功績は間違いなくありそうです。
 著者はさらに踏み込んで、データをもとに「幼児教育にもっとお金をかければ、もっと効率的に生活保護を受けなければならない経済状態の人を減らすことができる」という可能性も示しています。


 とにかく、今の日本は「教育」や「研究開発」にお金をかけていない。
 統計学的にみると、それが、経済成長を停滞させる要因になっているのです。
 ちなみに「単純な人口増は、経済成長と関係しないどころか、弱いながらも『阻害要因』の可能性があると示されている」そうです。
(ただし、「人口密度が減る」ことは経済成長と負の相関があります)
 1999年に経済学者のテンプルさんが発表した論文では、単純な人口増は経済成長に対して、弱い負の相関を示すことが述べられていました。その理由は「出生率が高いと人的資本の収益率(賃金)が低下し、人的資本への投資が低下するから」だそうです。
 アメリカが第二次世界大戦後、ずっと世界一の経済大国であり続けているのも「教育と研究開発のおかげ」なんですね。
 アメリカの教育も学資ローン問題などで揺らいでいることは確かですが、それでもまだ、世界をリードしていることは事実でしょう。

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