記事

やらされる15歳 数学への関心「世界最低」

武蔵野大学、杏林大学兼任講師 舞田敏彦=文・図版

年が明けました。今年(2017年)もいろいろあるでしょうが、教育界で注目されるのは、間もなく公示される次期学習指導要領*です。

(編集部注*:2018年より小学・中学などで一部先行実施され、2020年以降、高校を含め全面実施される予定。学習指導要領は約10年ごとに改訂)

学習指導要領とは教育課程の国家基準で、各学校はこれに依拠して、自校のカリキュラムを編成することになっています。読者のお子さんの教育環境が大きく変化する可能性もあります。



新しい学習指導要領の改訂案には、アクティブ・ラーニング(受け身の学びではなく、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習)の導入とか、小学校での英語の教科化とか、様々な内容が盛られていますが、科学技術立国のため、生徒の理数教科への関心を高めることも目玉ポイントです。

高校では、数学や理科における「見方・考え方」を活用しながら探究的な学習を行う「理数科」という教科が新設されるとのこと。生徒の「理系離れ」が叫ばれて久しく、日本の生徒の理系志向(嗜好)が低いことはよく知られています(とくに女子)。これでは、科学技術立国を担う人材が育たない。こういう危機感が、次期学習指導要領の改訂方針に出ているように思えます。

しかるに、この点に関する具体的なデータはあまり見かませんので、今回はそれをご覧に入れましょう。理系学問の基礎である数学への興味・関心(リテラシーや習熟度とは、別の尺度)は、国際的にみてどの辺りにあるか。男女差はどうか。かっしりとした統計で見てみましょう。

数学嗜好 日本15歳は世界最低レベル

OECDの国際学力調査「PISA 2012」の個票データを加工して、15歳生徒の数学嗜好のレベルを測るスコアを計算し、国ごとに比較してみます。私が注目したのは、以下の設問への回答です。



数学への興味・関心、有用性の認識に関わる8つの項目を提示し、自分がどれほど当てはまるかを答えてもらっています。これらに対する回答を合成して、生徒の数学嗜好を測る単一の尺度(measure)を作ってみましょう。「1」という回答には4点、「2」には3点、「3」には2点、「4」には1点を与えます。

この場合、対象生徒の数学嗜好のレベルは、8点から32点までのスコアで計測されます。全部「1」を選んだバリバリの数学っ子は32点(4点×8=32点)、全部「4」の超数学嫌いは8点となる次第です。いずれかの項目に無回答がある生徒は、スコアの算定ができないので分析対象から外します。

さて、日本の生徒のスコア分布はどうなっているでしょう。図1は、日本の男子生徒(2159人)のスコア分布を折れ線で描いたグラフです。昨今の経済発展が著しいインドネシアと比べています。



日本は20点がピークですが、スコアが低い左側に多く分布しており、最低の8点という生徒も結構います。対してインドネシアは、24点に大きな山があり、高得点層が日本に比して多くなっています。25点以上の生徒の割合は、日本は17.9%ですが、インドネシアでは44.1%もいます。

さすがは、今後の経済発展が期待されている「アジアの寵児」ですね。おそらく、科学技術教育にも力を入れているのでしょう。上図の分布から数学嗜好スコアの平均点(average)を出すと、日本が19.3点、インドネシアが24.5点となります。

数学リテラシー世界1位は“ニセモノ”か

これは2国の比較ですが、世界全体の構造図を描いてみましょう。横軸に男子、縦軸に女子の数学嗜好スコアの平均点をとった座標上に、調査対象の65か国を配置してみました。図2をご覧ください。



日本は左下にあり、男女とも、15歳生徒の数学嗜好が世界最低レベルであることが分かります。「そうだろうな」とは思っていましたが、統計にてハッキリと「見える化」されてしまいました。

対極の右上には、先ほど比べたインドネシアの他、旧共産圏や発展途上国が多くなっています。国力増強のため、科学技術教育に本腰が入れられているのでしょう。理系人材が厚遇されるため、生徒のインセンティブが強くなることも考えられます。

ジェンダー差をみると、やはり女子よりも男子が数学を好む社会がほとんどです(斜線より下)。しかし、その逆の社会も少数ながらあります。マレーシア、カザフスタン、インドネシア、アイスランド、ルーマニアでは、女子の数学嗜好が男子よりも高くなっています。

理系教科の成績が女子より男子でいいのは、そもそも「脳のつくり」が違うのだから致し方ない。こういう論がありますが、「男子<女子」の社会も存在することから、そればかりを強調するのは間違いでしょう。人間は社会的動物で、発達の様は社会によって違うし、意図的な働きかけ、すなわち教育によってそれを変えることもできる。これは希望的事実に他なりません。

さて、今回のデータをどうみたものでしょう。ご存じの通り、わが国の生徒の数学力は国際的にみて高い水準にあります。先日公表された「PISA 2015」の結果によると、日本の数学的リテラシー(習熟度など)の平均点はOECD加盟国ではトップです。

しかし悲しいかな、それに「関心・意欲・態度」が伴っていない。きつい言い方になりますが、試験や大学受験という外圧がなくなった途端、メリメリと剥がれ落ちてしまう「偽」の学力なのかもしれません。

次期学習指導要領では、知識を原理的なレベルから分からせる、その有用性を認識させる「アクティブ・ラーニング」に重きが置かれることになっています。変動の激しい時代で重要なのは、新たなことを積極的に吸収していく「関心・意欲・態度」です。

いよいよ本格的に、こういう方向に舵が切られることになりました。今年は、教育界にとって大きなターニングポイントの年となることでしょう。

あわせて読みたい

「学校教育」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    民進議員パワハラ"あまりに酷い"

    和田政宗

  2. 2

    "まとまらない"民進党の深刻な病

    週刊金曜日編集部

  3. 3

    日韓対立煽動に利用された"神話"

    WEDGE Infinity

  4. 4

    ホンダは「怖いもの知らず」

    片山 修

  5. 5

    住宅予算を1000万円下げる生活

    PRESIDENT Online

  6. 6

    すぐに眠くなる人は病気なのか

    PRESIDENT Online

  7. 7

    受験するなら"文学部"が良いワケ

    山本直人

  8. 8

    "スーツ恐怖症"の投稿に共感続々

    キャリコネニュース

  9. 9

    森友学園 メディアの姿勢に疑問

    源馬謙太郎

  10. 10

    "ネコ"ノミクス 経済効果は2兆円

    キャリコネニュース

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。