記事

2017年酉年:数千年に渡る歴史から辿るニワトリ家畜化の起源

1/2

 地球は46億年前に誕生したといわれています。そして生命は約40億年前に生まれ、わたしたちホモ・サピエンスの種が初めて現れたのは、およそ20万年前。地球の長い歴史を1年に置き換えた場合、人類は12月31日午後11時半過ぎにようやく出現したと例えられるほど、わたしたち人間の歩みは実は、とても短いものです。

 人類出現まで、地球はどのように環境を変え、生き物はどのように進化してきたのか―。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、今回は酉(トリ)年にちなみ、ニワトリ家畜化の起源についてまとめます。

----------

 2017年は酉(とり)年ということで、トリ―特に鶏(ニワトリ)について何か書けないだろうかと年末にかけて、いろいろ知恵を絞ってみた。しかし頭の中に浮かんでくるのは、どうしたものかローストチキン、鶏のから揚げ、親子丼、チキンカレー、トリの蒸し焼きにチキンサンドなどなどお馴染みの顔ぶればかり。今日、世界中、見回してもほとんどの国でチキンは食べられているようだ。その調理法やメニューは実に多彩でたくさんある。数年前に訪れた南アフリカ共和国で、人々が町中に腰を下ろして、(それこそおにぎりでもほおぼるように)チキンを丸ごと一匹、丁寧に骨までしゃぶりながら平らげている光景を何度も繰り返し目撃して、私にはいろいろ感じることがあった。

「チキンほど万国共通に食される肉も他にないのではないだろうか」

 他の動植物のたんぱく質源と比べて、チキンはかなり安く手に入る。しかもその肉と卵が非常に美味ときてはいうことなしだ。丸々と肥えたニワトリを前に、人類は世間のいざこざや日常の雑事などを忘れることができたはずだ。こんがりと揚がったばかりの熱々チキンは、一時の間でも我々に小確幸を(間違いなく)与えくれる。それだけの圧倒的なパワーが(あえて大げさに言わせていただくと)ニワトリにはあるはずだ。今日に至る人類の発展になくては成らぬものは、洒落た車や予防注射でも、あなたのお気に入りのスマホでもサッカーのワールドカップでもなく、ただのチキンなのかもしれない

 さてこの偉大なる鶏達はいつ頃、どのようにして我々の食卓に―否、家畜として人類に飼育されはじめたのだろうか?ニワトリたちの身にしてみたら、まったく結構な迷惑。「たまったものではない」と、あちこちの家畜小屋から「コケコッコー」とご批判を受けそうだ。しかしその多大なる犠牲精神に私は感謝しつつ、以下にその大まかなニワトリの起源をまとめてみた。

 家畜としてのニワトリ(学術名=Galus gallus domesticus)の直接の祖先は、セキショクヤケイ(Gallus gallus)だとかなり以前から考えられてきた。大きさや体つき、早朝の勤勉な発声練習、基本的にほとんど飛ぶことがない習性などは、現在のニワトリと非常によく似ている。こうした事実はチャールズ・ダーウィン(英:1809-1882)もはっきり認識してた。ニワトリの起源に関するくだりは、ダーウィンの自然選択説をベースにした進化論をサポートする証拠として度々登場している。

 しかしここ10年くらいの間に行われた一連の二ワトリのDNAやゲノム解析のデータは、興味深い事実を我々にいくつか与えてくれた。ニワトリの直接の祖先はセキショクヤケイだけでなく、もう一つ別の種―ハイイロヤケイ(Gallus sonneratii)―が「混じっている」可能性が高いそうだ。2008年に発表された研究論文は、この二つの種が「交配されて」、現在の家畜としてのニワトリに進化したと決論付けている。

Eriksson J, Larson G, Gunnarsson U, Bed'hom B, Tixier-Boichard M, Stromstedt L, et al. (2008) Identification of the Yellow Skin Gene Reveals a Hybrid Origin of the Domestic Chicken . PLoS Genet 4(2): e1000010. doi:10.1371/journal.pgen.1000010

 果たして人類は「どうしてわざわざ二つの異なる種を交配させる必要があったのだろうか?」チキンの味と関わりがあるのだろうか? 飼育しやすくするための工夫だったのだろうか? それともただの偶然だったのだろうか? 更なる研究が待たれる。

 ちなみにセキショクヤケイは、今日、インドやベトナム、インドネシア、そしてジャワ島などの森林やジャングルに生息している。ハイイロヤケイは現在インドの南部において確認されている(しかし以前はより広範囲に生息していた可能性が高いようだ)。そのためニワトリの家畜化の起源は、インドなど「アジア南部」か「東南アジア」という考えで、今のところ一致している。こうした一連のデータはニワトリの「単独起源説」も裏付けているようだ。(沖縄の軍鶏(シャモ)などは個別の起源だった可能性も指摘されている:Oka et al., 2007。)

Oka, T., Ino, Y., Nomura, K., Kawashima, S., Kuwayama, T., Hanada, H., Amano, T., Takada, M., Takahata, N., Hayashi, Y. and Akishinonomiya, F. (2007) Analysis of mtDNA sequences shows Japanese native chickens have multiple origins. Animal Genetics, 38: 287-293. doi: 10.1111/j.1365-2052.2007.01604.x

 家畜化は具体的にいつ頃はじまったのだろうか?ニワトリと思しき骨は世界各地から報告されているようだ。しかし以下、3つの条件を満たしたものが重要と考えられる。(1)遺跡などから発見されたもの(=野生のものでなく家畜化された可能性が高い)。(2)はっきりニワトリの骨と判定されたもの(Gullus属内において、現在4種が知られている。しかし骨だけでこうした野生種と家畜化された品種を識別するのは難しいケースが多い)。そして(3)最も古い記録だ(時代測定のはっきりしないケースも当然でてくる)。以上の3つの条件を満たしたものに、紀元前2400年頃(今から約4400年前)のインダス文明(現在のパキスタンに位置していた古代の巨大都市「モヘンジョ・ダロ」)から発見されたものがある(Crawfford1990参照)。

Crawford, R. D. (1990) Origin and history of poultry species, in: R.D. Crawford (Ed.), Poultry Breeding and Genetics, Elsevier, 1990, pp. 1-42.

あわせて読みたい

「食生活」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    武藤貴也議員 また男性持ち帰る

    文春オンライン

  2. 2

    大企業特有の考えずに働く人たち

    城繁幸

  3. 3

    民進の現状は共産党の責任でない

    紙屋高雪

  4. 4

    元乃木坂の橋本奈々未が男と密会

    文春オンライン

  5. 5

    Amazonで大「中華詐欺」が勃発中

    永江一石

  6. 6

    軍部で金正恩氏を嘲笑する風潮?

    高英起

  7. 7

    橋下徹氏「核議論が安全保障に」

    橋下徹

  8. 8

    田原氏らが共謀罪反対へ記者会見

    THE PAGE

  9. 9

    北のマンション建設は防衛目的か

    高英起

  10. 10

    北朝鮮は米空母に手も足も出ない

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。