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四川省攀枝花市幹部発砲事件 - 澁谷 司

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司


 今年(2017年)1月4日午前10時50分頃、四川省攀枝花(はんしか)市会議展示センター内で信じ難い事件が発生した。 同市の国土資源局長・陳忠恕が銃を持って乱入し、会議中だった同市のトップ(党委員会書記)の張剡と市長の李建勤に向かっていきなり発砲したのである。張剡と李建勤は陳に数発撃たれが、すぐに病院へ運ばれ、命に別条はなかった。

 容疑者の陳は、その場から逃走したが、その後、間もなく同センター1階で自殺したという(2階説もある)。  事件後、直ちに、共産党中央宣伝部は、メディアに対し事件に関する報道管制を敷いた。  党の地方幹部が同じ地方幹部を銃撃するという不祥事を隠蔽するためである。或いは、党内の動揺を最小限に抑えるためだろう。

 陳の発砲動機について、未だ中国共産党は発表していない(おそらく今後も発表しまい)。従って、事件の背後関係は不明である。

 同じ地方幹部同士の直接的な流血事件は珍しい。原因は、攀枝花市中枢での権力闘争だと思われる。しかし、内紛は中央を始め、どこの地方にも見られる普遍的現象である。おそらく利益分配に関して対立が生じたのかもしれない。

 陳は、1962年生まれの54歳で、四川省自貢市(同省の重要な工業地帯)の出身である。陳は攀枝花市監察局幹部を経て、城市管理局長、東区人民政府区長などを歴任した。陳の性格は、頑固で切れやすいとの評判だった。国土資源局での会議中、誰かの携帯が鳴った際、陳はその携帯を取り上げて、粉々にしたという。

 襲われた張剡(1962年生まれ54歳。四川省徳陽市出身)は、2011年に攀枝花市長になり、2015年には同市トップ(党委員会書記)となった。因みに、張剡は陳とは2006年から攀枝花市で一緒に働いている。

 他方、李建勤(53歳。江蘇省金檀市出身)は、もともと国土資源部法執行監察局長だった。ところが、昨16年6月、市長職が空いたので、李は市長に就任している。 ただ、その件が今度の発砲事件と何か関係があるのかどうかは分からない。

 攀枝花市は、中国有数の非鉄金属の町として知られる。そのためか、腐敗が深刻だと言われる。 実は、昨2016年1月初め、攀枝花市国土局土地備蓄センター工程管理課の元課長が、収賄の罪で2年の有期刑(3年の執行猶予)判決を受けていた。

 一方、中国国内では、国土資源局という部署が、外部に資源を売却して金儲けができるところだと広く信じられている。 長江上流の金沙江では、工場から重金属が流れ出す環境汚染問題が発生していた。そこで、習近平政権は、同地に調査員(環境局や国土資源局)を派遣した。当地の腐敗状況を調べるためである。 上記の内容が全て事実ならば、以下のように推論できるかもしれない。

 張剡と李建勤は、陳が巨額のカネを収賄していると党中央に告発したのではないだろうか(無論、張剡と李建勤が、陳を陥れようと、収賄をでっち上げた可能性も排除できない)。

 そこで、党中央は、攀枝花市に多くの調査員を送ったと考えられる。実際、陳は、その調査対象となっていたという。 それを怨んだ陳が、張剡と李建勤に対し犯行に及んだと考えられる。

 周知の如く、現在、習近平政権は腐敗に対して厳しい処置を取っている。 陳は本当に収賄をしていて、その事実が明るみに出れば、間違いなく失脚する。陳は検察に起訴され、裁判にかけられるだろう。そして、懲役刑は免れない。そのため、絶望した陳が発砲事件に及んだのではないか。

 あくまでも推測の域を出ないが、仮に陳が発砲しなくても陳の未来はなかったのかもしれない。

 但し、いくつか疑問も残る。まず、陳がどうやって銃を手に入れたのだろうか。その入手ルートである。次に、陳が市会議展示センターへ入る際、どのように入ったのだろうか。幹部なので、簡単に入れたのか。

 そして、陳は犯行後、何故自殺したのだろうか。ひょっとすると、陳は自殺したのではなく、公安や武装警察によって殺害されたのかもしれない。死人に口なしである。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)等多数。

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